4-2 オークションへの参加
広場に到着すると、昨日までの賑わいをそのまま引きずっていたかのようなヒト、ヒト…。
ヒトでいっぱいだった。
まだ本部が継続して建てられているようなので、俺たちは本部のテントに入る。
そこにはテキパキと動いておられるユーリ様とティエラ様がいらっしゃった。
肝心の伯爵は館で執務を行っているとの事、執務を盾に完全に丸投げしたな…。
「ニノマエ様、おはようございます(おはようございます)。」
皆が挨拶してくれる。
「おはようございます。順調にいってますか?」
俺は敢えてティエラ様の方を向き尋ねる。
「はい。孤児院の子供たちは喜んで仕事をしておりますわ。
それと、ここに加工品を扱う店舗も入れるとは流石です。」
そうなんだ。食い物だけ売っても、それはそれで儲かるが相乗効果がないんだ。
食べて満足すれば、他の欲求を満たすためにヒトは動くものだ。だからこその加工品だ。
そんなに高くないモノを売って、量を捌けばそれだけ金になる。
将来的には、硝子細工をここで売っても良いと思っている。
「さて、それじゃ、ティエラ様が今一番心配している事を解消することにいたしましょうか。」
「え?それは…。」
そうです。孤児院の子供たちを働かせるとしても、当面の資金が無ければどうしようもない。
チケットを作るにもお金がかかるし、このシステムを周知するにもお金がかかる。
自転車操業では危ないのだ。
なので、当座の資金を渡そうと思っている。
俺は、先ほどギルドからもらった追加の報奨金である大銀貨56枚を渡す。
「流石、ニノマエ様。ここまでお考えになっておられるのですね。」
ユーリ様がニコニコと笑っている。
「これは、教会への寄付という事でお願いします。
チケットや日銭を渡す際には現金が必要ですからね。
それに、店舗からお金を崩してほしいって依頼もあると思いますよ。この大銀貨数枚を銀貨と銅貨に崩しておくと良いと思います。」
「ニノマエ様、ありがとうございました。やはり、ユーリ様が見込まれた方です。」
ティエラ様、ふんすか言ってます。
「そう言えば、ティエラ様、お身体の具合はいかがですか?」
「はい。あれから良く食べ、良く寝、よく運動することを心掛けております。このところ身体がすごく軽いのです。」
「それは良かったですね。でもご無理は禁物ですからね。」
若いから今は大丈夫だけど、齢をとると反動が出るからね…。
俺はこの広場がこれからシェルフールの中心になるんだと確信しつつ、皆に挨拶し広場を後にした。
お昼少し前にトーレスさんのお店に着き、トーレスさんを呼んでもらうと奥に通された。
「ニノマエ様、ご無沙汰しております。それと、シェルフールの街をお救い頂き感謝いたします。」
「仰々しい話はやめてくださいよ。自分は“薬草おっさん”であり“雷親父”ですからね。」
「ははは。言い得て妙ですな。さて、本日お越しになられた理由はオークションの件ですか?」
流石、できる商人。分かってらっしゃる。
「そうです。自分もそのオークションに出展できるのでしょうか。」
「はい。できますよ。ニノマエ様は商業ギルドに登録されておられますので、出展登録費用がかかりませんが、今回はシェルフールの復興を目的としたオークションですので、落札価格から1割を街に寄付していただくようになりますが、それでもよろしいでしょうか。」
全然問題ありません…。1割でも2割でも寄付しますよ。
「はい。」
「では、出展されますモノは何でしょうか?」
「オークの睾丸と、オーク・キングの睾丸です。」
「え?!今何とおっしゃいましたか?」
「ですから、オークとオーク・キングの睾丸、キャンタマです。」
あれ?トーレスさん、何やら脳内コンピューターを総動員して考えているよ…。
たかがキャンタマですよ。そんなすごいモノなのかね?
「失礼ですが、ニノマエ様。」
「はい?」
「それをいか程出展されるおつもりですか?」
「持っているだけすべてですが…、えぇと、オークが3つとキングが3つですかね。」
「恐れ入りますが、オークの睾丸だけでも王国中の話題となることは必至です。
それにオーク・キングの睾丸となりますと、それ一つで戦争となる可能性のある重要なモノですよ。
できれば、キングの方は保管しておいた方が良いかもしれません…。」
「いや、所詮キャンタマですから…、出来れば持っていたくないというのが本音なんです。」
「そうですか…。分かりました。
では、私から一つご提案をさせていただきます。
オークの睾丸3つ、オーク・キングの睾丸1つを出展なさいませ。
あとの2つは、今後のニノマエ様の信頼できる方と取引なさいませ。
その方がニノマエ様が優位になると思われます。」
うーん…。トーレスさんがここまで言うんなら何か含みがあるんだろう。
「分かりました。では、オーク3つ、キング1つの出展をお願いします。」
「承知いたしました。では、王国中に情報を流します。
これでオークションの眼玉が出来ました。
ニノマエ様、ありがとうございました。」
なぜかトーレスさん、ホクホク顔です。
主催者にもマージンが入るんだろうか?まぁ俺にとっては関係ない話だけど。
さて、こちらからの話をもう少ししましょうかね。
「トーレスさん、そう言えば、この間買っていただいた時計と念珠ですが、もう少し手に入る可能性が出てきましたよ。」
「え、それは本当ですか?」
「ええ、遠方から知り合いが尋ねてくるとの書面が届きましたので、少し調達しておいてくれと依頼しておきましたので。」
「それは嬉しいことです。あれは素晴らしいものです。
貴族の館に行きますと、真っ先に時計を見つけて金貨10枚で譲ってくれとか煩いんです。」
「まぁ、そうでしょうね。
しかし、故障したらタダ同然になるんですけどね。それでも欲しがるモノですか?」
「時を刻む、時を把握する事はこれからのステータスになるかもしれませんね。」
「でも、小さな魔道具ですから、なかなか生産できないことも事実ですね。」
そう言いながら、俺は考えていたことを伝えた。
それは、バジリスク・ジャイアントのバッグのように、信頼できる人物のみに見えない形で持たせる時計を渡すというものだ。
「ニノマエ様、そこまで当店のために…。」
「いやいや、それはトーレスさんの店が繁盛してもらう事は嬉しいことです。
が、それ以上にトーレスさんや、ユーリ様、伯爵様も信頼できる方の証とする方が、トーレスさんにとっても良い事になりませんか?」
「分かりました。すべて買い取ります!お金は都合をつけます。
価格はいくらでも構いませんので、仕入れをお願いいたします。」
うひゃ、また数万円が数百万円になるのか…、末恐ろしいなと思うも、俺のほうからも信頼できる人物には念珠を渡す方向で進めるように言う。
今回は切れても大丈夫!替えのテグスを持ってきている。テグスはこちらの世界でも代用できる。
大方の話が終わったので、そろそろ失礼しようかと思った頃、トーレスさんから話を持ち掛けられた。
「ニノマエ様、商売をされるおつもりはまだありますか?」
「はい。それはありますが、まだ先立つものとか店舗とかもありませんからね。」
「それがあるんです。」
え??どういう事?
「先日のスタンピードで商業エリアに魔物が侵入し、店舗だけでなく市民も犠牲となりました。
そのエリアは現在復興中ですが、その復興している店舗の中にはご家族ともども被害を被った店舗もございます。
ほとんどの店舗は家族や親類などが店舗を再開しようとしているのですが、どうしてもご年配の方がおやりになられている店舗や身内のいない方が経営していた店舗もございます。
我ら商業ギルドとしても、そういった店舗をそのままにしておくのもいけませんので、商いをされたい方にお声をかけているといったところです。」
事故物件となるのかならないのかは分からないが、これまでの世界でも独居老人がお亡くなりになられた後の家屋などが問題になっている。どの世界も変わらない事なのだろう。
「しかし、自分はお金はそう持っていませんよ。」
「しかし、ニノマエ様はオークとキングの睾丸を持っていらっしゃいます。その売上で購入されると良いかと思います。」
「店舗を購入できるほどの金額になるんですかね?」
「ニノマエ様でしたら、私が保証人になります。何なら私が融資いたしますので問題ございません。」
トーレスさん、ふんすか言ってるよ…。
今日はふんすか言う人が多いなぁ…。
俺はディートリヒの方を見る。
「カス様と一つ屋根の下…、お店を出せる…、二人で…。」
あかん…。頭がお花畑に突入しているわ…。
「はぁ、では善処いたします。」
「そうですか!そりゃ嬉しい。ニノマエ様!では、早速見に行きましょう。」
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