5-13 席決め

「しかしイチよ、主らが座っているそのフカフカな敷物は何じゃ。」

「あ、これですか?これはふと…、ではなく“クッション”と言います。」


 本当は布団です。それも敷布団です。

ディーさんとナズナには怒られましたが、これが一番いいんです!


「それは気持ち良さそうじゃの。どれ、儂にも座らせてくれ。」


 レルネさんがひょいっと席を移り、俺とディートリヒの隙間に納まった。


「おぉ、これは気持ちが良いの。中には何が入っているのじゃ?」

「え、綿ですが…。」

「綿を入れてもこんなにフカフカにはならんじゃろ。」

「綿を圧縮して詰め込んだものを帯状にしたものです。」

「ふむ。それは売れるの。」

「はい。売れると思います。それに例えば敷物を袋状にすれば中身だけ取り替えることで、ヴァリエーションを持たせることになりますからね。」

「ふむ。ルカよ。帰ったら早速綿を調達するのじゃ。」

「はいはーい。」


 うん、なんかいい雰囲気だね。遠足に来ている気分だよ。

ただ一人を除いてだけど…。

ディーさん、眼から炎が出ていますよ…。

レルネさんに喧嘩売っても勝てませんよ…。


「そろそろ駅舎がありますので、休憩がてら昼食にしましょうか。」


 エミネ母さんが提案してくれた。


「じゃぁ、そこでお願いします。」


街道の所々には“駅舎”と呼ばれる無人の建物が建っており、その場所で馬を休めて休息する場所が設けてある。

ここで無人の販売書でも置けば完全に“道の駅”だな…、なんて思いながら前方にある駅舎を見る。

ん?駅舎?木が数本と井戸と柵? それだけ?


「なぁナズナ、駅舎ってこんなものなのか?もっと建物とかないのか?」

「お館様、このような何もないところに建物なぞ建てれば、それこそ無法者の住み家となってしまいますよ。」


 あ、そういう事ね。水さえ確保できれば問題ないと…。


「んじゃ、休憩と木陰で『ピクニック』だ。」

「ん?『ぴくにっく』とは何ぞや」

「ピクニックって言うのは、こうやってみんなで移動して地面とかに敷物を敷いてご飯を食べたり、遊んだりすることです。」

「そうか、ぴくにっくか。ふふ、ではイチよ、ぴくにっくをするぞ。」


 馬車を下り、馬を休める。

木陰に敷物を敷き、テーブルとイスをセットする。


「カズ様、この追加のテーブルとイスはどうされたのですか?」

「ふふ。よくぞ聞いてくれたディートリヒ、いずれこんな時が来るかと思い、前々回のダンジョンに行く前に買っておいたのだよ。」


 あれ?ジト目で見られている…。何で?


「カズ様は、このようにレルネ様や他の女性とこういうことをすることを想定されていたという事ですか?」

「あ、イヤ…、女性とは限定しないんだけど…。」


俺は最初にヤハネの光と野営した時の話をした。焚火の上の肉焼き機の話や火を囲んで寝転がった事、テーブルは無く、皿をずっと持っていなければいけなかった事など。

話し終えると、ディートリヒはウルウルとしている。


「カズ様がそんな辛い経験をされておられたなんて…。

分かりました。このディートリヒ、これからはカズ様にそのような事は絶対させません!」


 うん…、ガッツポーズをしている間にも手を動かしながら準備してくれると嬉しいんだけどね。


 今日は、サンドウィッチです。

パンとベーコン、レタスのような葉っぱ、それとチーズ!

そうです!チーズを見つけたのです!これは革命です!

あとは、魔石を使った簡易コンロでスクランブルエッグを作り、めいめい好きなものを取って挟んで食べる。勿論マヨネーゼは必須です。


「これは、シェルフールでこれから売り出す『サンドウィッチ』というものです。

 今日は好きなものをパンに挟んでマヨネーゼをかけて食べてください。」


 おれが言うや否や、ディートリヒとナズナが真っ先に手を出す事を想定し見本をやらせた。

初見さんはどうやって食べてよいのか分からないんだよ。

 皆、ディートリヒとナズナの所作を見ている。

 パンを切り、切った隙間に好きな具材を入れマヨネーゼを付けて食べる。

そう、たったこれだけ。これだけでも最初はおっかなびっくりやるもんなんだ。


 皆恐る恐る真似して作り食べる。そして表情を和らげた後、パクパクと食べる。

そう、食べている姿は皆笑顔なんだよね。

なんだか幸せな気分だ。


皆、2個目に突入。バーンさんとブライオンさんは2個目と3個目を同時に作っている。

中にいれる具材は好み。だからすきなモノから先に無くなる。

そうなると喧嘩になる。でもそれが微笑ましいんだ。


「こりゃ、バーン、儂のチーズを取るでない!」

「早いモノ勝ちでーす。」

「よかろう、そちに麻痺魔法を食らわせてやる!」

「え、嘘…。わ、ごめんなさい。はい。レルネ様のチーズです。」

「分かれば良い。ぬぉ!いつの間にか野菜が無いぞ。」

「あ、ごめん。今俺が食った。」

「許さん!ブライオン!」


 こういったほのぼのとしている一方で、本気になっているヒトも居るが幸せだ。

ひとりでに笑顔になっている。


 皆ひとしきり食べ休憩をした後、出発する。

馬も休憩できたようで、快調な動きだ。


 ここで一つ問題が発生した。

馬車に乗り込んだ際、俺の左横にレルネさんが座ろうとしているのだ…。

ディートリヒが流石に怒り心頭になると思ったので、ワザと隅っこに座り一方向だけにした。

こうすればディートリヒもナズナも俺の隣に座れないから公平になる…。

女性の扱いには慣れていないから苦労するよ…。

そんな事を思いながら、目の前のヒトを見ると、げ、ベアトリーチェさんじゃないですか…。

これからの道中、魔法の講義となることが決定した…。



 レルネさんとベアトリーチェさんの魔法講義についていけない俺はいつしかうとうととしていた。

尻は痛くはないが、同じ姿勢を保っていると身体が固まる…。

もっと快適に移動できる手段を考えないといけない。

それにこの振動。小石でも踏もうものなら全員が宙に浮く。

サスペンションやバネのようなものも無い。

馬車につけるだけでも少しは軽減するのにな…。


「お館様」

「どうしたナズナ。」

「向こう側から盗賊らしき者が十数名向かってきます。いかがしますか?」

「バーンさん、盗賊が来る。バーンさんたちで行けるか?」

「努力します。皆、配置に付け。」


 ヤハネの光のメンバーは早かった。

馬車を止め、前方に配置し、相手の出方を待っている。

 あ、これ矢が来るとあかんやん…。と思い、馬車の周りにバリアーを張る。


「馬車の周りにバリアー張ったから。」

「ニノマエさん、助かります。」


 その声を同時に上空から数本の矢が落ちてくるも、バリアーにはじかれポロポロと落ちた。

それを見て盗賊らしき者が一瞬躊躇するが、そのまま突っ込んできた。


相手は…、うん15騎か。

先ずはベアトリーチェさんのファイヤーボールが一番長い射程だから一手目はそれで。その後はどうするんだろう。突っ込むか待つか。


「ディートリヒ、剣撃の用意を。」

「はい。」

「ナズナ、あの中にリーダーらしき者はいるか?」

「一番後ろに。」

「では、そいつを後ろからやってくれ。」

「はい。」

「レルネさんはルカさんとシーラさんとこの馬車を守って下さいね。」

「心得た。」


 では、俺も光輪の準備をして待つ。

 ベアさんと俺の魔法の射程は50m、それまでは待ちだ。

魔法、剣劇、魔法、近接そして、親玉という順番だな。


 さて、もう少しか。

 

「ベアさん、いくか。」

「はい、師匠!」


 俺、師匠じゃないんだが…と思いながらもお互いに魔法を撃つ。

ベアさんの火で2人が焼け、俺の光輪で8人が切り刻まれる。残り5名が突っ込んでくる。

生きるか死ぬかだ。必死の形相だ。

ディートリヒが剣劇で2名を切る、残り3名。

突如、一番後ろの盗賊の首が飛んだ。ナイス!ナズナ。

残り2名は状況を把握できていない中、バーンとブライオンが横なぎ一閃する。

すると、2名はズルっと身体を傾け、馬から落ちた。


「ブライオン、生きてるやつを捕らえる。」

「分かった。」


 あれよあれよという間に終了した。

盗賊は15人中13人が死亡、2名生存。馬は8頭が生き残った。


「シーラさん、この盗賊たちはどうすればいいんだ?」

「あ、はい。近くに街か村があると思いますので、そこの駐屯所で捕縛します。

 死亡した盗賊はかれらの首を保管し、守衛に持っていきますと報酬が出ます。

 勿論、手配書に出るくらいの盗賊であればその分報酬は高くなりますよ。」

「だそうだよ。バーンさん。」

「え?俺たち?」

「だって、護衛でしょ。」


 完全に丸投げしました。

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