9-23 お祝いは全員で!

「あのさ…、30階層のボスは基本レッサードラゴンって言ったよね。

 なんで3回連続してカメなんだ?

 この設定って、どう考えてもおかしいだろ?」

「カズ様、設定とはどういうものなかは分かりませんが、基本レッサードラゴンです。」

「でも昨日からカメしか出ないぞ。絶対おかしいって。」


 地龍(カメ)が立て続けに3回出ている。

内部破壊という裏技により、簡単に終えることができるのだが…。


 29階層のモンスターボックスと30階層のボス部屋を周回している。

どちらの部屋も沸くのに2,3時間なので、比較的ゆっくりなペースで進めている。

勿論、他の冒険者なんて見たことがない…。つまり、お散歩ついでに素材を集めているという感じだ。

この分でいけば、今日一日12時間動いたとして、5回はボスと会敵する訳だが…。そのうち2回がカメである。

残り3回にかけるしかない。

カメはもう飽きたと言えば御幣になるが、レッサードラゴンを見たいという思いの方が強い。

さらに、ドラゴンでも…と思うが、このダンジョンには出ない…。


「なぁ、次カメだったら、もう帰ろうか…。」

「主殿、泣き言はいけません。カメであろうとレッサードラゴンであろうと魔物は魔物です。

 素材も宝箱も入手できるのですから、その分我慢して回りましょう。」

「だって、素材集めても、みんなの防具に使えるかどうか分からないやつだよね。」

「では、売ればいいんです。」

「これだけ売れば、大暴落するよ…、きっと。」


 本日3回目の30階層のボス部屋だ。


「んじゃ、入るよっと。お!あれ見て!カメじゃない!」

「お館様、当たりです!」


 当たりなのか外れなのかは分からないが、ようやくレッサードラゴンのお出ましだった。

「なぁ、やっぱり帰ろうよ。」

「そうですね、お館様…。なにかしっくり来ませんね。」


 レッサードラゴン…、名前はかっこいいんだが…、姿は…コモドオオトカゲを大きくしたやつだ。

これが火を吹くのか?飛ぶのか?と思っている矢先に、ナズナが一刀両断で済ませてしまう。

確かにドロップ品はドラゴンの肉とか出たし、宝箱からはレッサードラゴンの皮が出たから良いんだけど…。なんか詐欺にあったようだ…。


「それだけニノ様方がお強いという事です。」


 ニコルがフォローしてくれるが、腑に落ちない…。

29階層のモンスターボックスの先で休憩し、取り敢えずドロップしたドラゴンの肉をステーキとして食べることとする。


「ん?これは?」

「赤身が柔らかくて、ジューシーですね。」

「俺は霜降りよりも、こっちの方が好きだな。」

「そうですね、ガツンとした触感とワイルドな味ですね。」

「よし!決めた。この肉をゲットするため、あと一日回ろう。そして、みんなに食わせてやろうよ。」

「そうですね。皆喜ぶと思います。」


 目標が出来た“繚乱”メンバーはとにかく強い!特に食材の場合は尋常じゃないくらい強いんだ。

俺が何もしなくてもレッサードラゴンは可哀そうだが倒されていく…。

時にはナズナが首を、ベリルが脳天に大太刀を刺す、そしてディートリヒが切り刻んでいく…。

順番に行けばいいんだが、肉のため我先にと突っ込んでいく。えげつない光景だ。


 この残念ギャルズたちはいつの間に強くなったんだろう…。

行く末が心配だ…。


 そうこうしているうちに3日の午前が終了し、ダンジョン踏破が終了した。

素材集めくらいなら俺が居なくてもできそうだ。次からは誰かに任せよう。


 守衛さんのところに行き、踏破を報告し、ギルドカードを見せる。

そして、おすそ分けだと言って、ドラゴンの肉を1㎏渡した。


「お、こんな上等な肉貰っても良いのか?」

「踏破記念ですよ。家で食べてくださいね。」

「悪いな。でも俺あと6時間仕事だから、このまま置いとくと腐っちまう。」

「でしたら、街に戻ったら自分の店に来てください。そこでお渡ししますよ。」

「そうか、悪いな。あんちゃん。

 それと、おめでとう!2年ぶりの快挙だ。」


 握手をして街に戻る。

途中、森の小川に行き風呂に入る。


「ニノ様、そろそろ私もご一緒したいのですが…。

 これですと、蛇の生殺し状態になります。」

「うん。まだいかんよ。もう少し大人になってからね。」

「そうですよニコル。カズ様はあなたの事を気遣って、2日間私達とも愛し合っておられないのですからね。」

「で、主殿、今宵は誰を?」

「いや、そういう事はせず、今日はみんなで一緒に寝ようか。」

「それも良いですね。」

「では、私達もですね。」

「あなたとミリー、アイナはまだです。」

「それは、蛇の生殺しですって~。」

 

 和気あいあいとしながら街へと戻る。

一応ダンジョンの踏破報告をしてこなくちゃいけないから、ギルドに向かい、ドアを開けるや否やシーラさんが飛び出してきて抱き着いてきた。


「ニノマエ様~、ずっと心配してたんですよ~。」

「お、おぅ。ありがとね。取り合えず踏破報告ね。」

「本当に踏破されたんですか?」

「ギルドカード渡すから見て。」


 シーラさんはカウンターに戻り、ギルドカードを魔動機にかざす…。


「本当ですね。それに、地龍を3回討伐と出ていますが…。」

「30階層の最初の頃は地龍しかいなくて…、ようやく4回目からレッサードラゴンになったんだよね。」

「それだけダンジョンコアが濃かったという事ですか…。」

「そうなの?」

「はい。コアが活性化したり濃い場合はそれ以上の魔物が出てくる可能性がございますので。」

「ふーん。そうなんだ。」

「地龍はさぞかしびっくりされたことでしょうね。何せあの固さですから…。」

「なんだシーラさん知ってたんだ。」

「本で読んだだけです。甲羅が剣も魔法も効かないんですよね。」

「そうだったね。」

「でも、どうやって3回も倒されたんですか?」

「あ、それは…。企業秘密です…。真似でもされたらみんな死んでしまうからね。」

「そうでしょうね…。流石、規格外のニノマエ様です。

 で、今日は素材をお売りになられるんですよね。」

「いや、売らないよ。」

「え、何でですか?」

「だって、地龍だよ。そんなの売ったらギルドが破産しちゃうでしょ。」

「では、ドラゴンの肉くらいは…」

「あれはダメ。あの肉は家で待っててくれているヒトへのお土産だからね。」

「え…、そ、そんなぁ~…。あの肉は滅多にお目にかかれない幻のお肉なんですよ。

 そんなお肉を食べてみたいじゃないですか。」

「あ、あれ、幻のお肉って呼ばれてるんだ。

 だから、あんなに美味しかったんだな。」

「そうですね。あれは極上の逸品でしたね。」

「え、みなさん食べられたんですか?」

「あぁ、ダンジョン内で食べたよ。」

「なら、一口私にもください!」

「いや、だから食べちゃったって。」

「少しくらいあるんですよね?

 だって、みんなに”お土産”って言ってたじゃないですか!」


 シーラさん、涙目になってうるうるしている。

こりゃ、折れないな…。


「はぁ、分かったよ。んじゃ、夕方お店に来て。

 みんなでドラゴン肉のステーキを食べよう。

 あ、守衛さんも来るって言ってたし、庭でステーキパーティーしよう。」

「はい!では、夕方お店に行きます。お腹ペッコペコにしていきますからね!」

「はは、待ってるよ。」

「なぁ、トーレスさん、カルムさんも呼んでステーキ肉でパーティーしようか?」

「それは良いですね。皆、庭で食べれば盛り上がりますね。」

「それじゃ、ディートリヒはトーレスさん、ナズナはカルムさんの店に行って、家族や従業員全員呼んで来て。それとマルゴーさんも。あ、ルカさんもね。

 伯爵はどうする?」

「さすがに伯爵はダメかもしれませんが、奥方様なら問題はないかと…。」

「よし、ディートリヒに任せた。

 それじゃ、今晩はドラゴン肉パーティーだ!みんな精一杯食って飲んで騒ごう!」


 市場に行き、買い出しをした後、店に戻る。

皆、久しぶりの笑顔だ。

 遠くから知った声が聞こえる。


「兄貴ぃ~。待てずに来ちまった~。」


 グッドタイミングだ!まさに勢ぞろいだ!

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