7-28 第一目標達成!

 当面の目標である工場の建設と従業員の確保、そしてミシンを作ってくれる職人も見つけることができた。ザックさんと館に戻る最中、ディートリヒはアイナをピックアップするため別れる。

ディートリヒの警護にも2人付いていった。

まぁ、ディートリヒ一人の方がやり易いと思うのだが、ここは甘えておこう。


 館に戻るまでの間、3名ほどのイヤな感覚を持った奴らが近くに寄って来るのが分かったが、それ以上は何もなかったので、スルーした。


「ザックさん、結構恨まれているよ。」

「あ、兄貴、そりゃ仕事が仕事ですからね。土地を転がせば煽りを受ける奴が出てくる。色街の女の中には、男がこさえた借金のカタに取られた奴らも居る。

 男が悪いのに、それを逆恨みする奴が多いんですよ。」

「そういう奴らを懲らしめることはできないのかい?」

「奴らはしたたかでね…、結局は女が尻を拭かなきゃならないってのが常なんすよね…。」

「世知辛いな…。」


 この世界でも向こうの世界でも結局のところ根幹は同じなのかもしれない…。

ただ、少しでも彼女たちが笑って過ごせるためにも何かしなくてはいけない…。

女性が自分の身を削って、それを搾取されることは絶対あってはならない。


 ザック邸に入ると、そこにはいかつい顔をした男性数名が倒れていた。

あれ?バリアーは張ってあるのに、何で倒れているんだ、と思いつつあたりを見渡すと、その原因はすぐに見つかった。


 ベリルがゼフさんを相手に稽古をつけていた…。

その横で数名の男がフーフー言いながら鍛錬に励んでいる。


「ベリル、余り無茶をさせるなよ。」

「あ、主殿お帰りなさいませ。

 多分、これくらいなら大丈夫です。

ほら、ゼフさん何を呆けているんですか!

 マナを剣に伝えながら、相手の剣筋を見極めて一歩動くんですよ。」

「は、はい…。」


 こりゃ、多分全員ぶっ倒れるだろうね…。

まぁ、いい機会だからやらせてみよう。

ザックさんは、目を点にしている…。

俺たちは館の中に入る…、が既にそこはさしずめ何かが爆発したような状態だった。


「あ、お館様、お帰りなさい。」

「えと、ナズナ…。この状態は何かな?」


 玄関ホールの壁には多数の穴や切り傷が付けられている。

 あたかも夜討ちに遭ったみたく、ズタズタになったカーテンや柱がこれまでの惨劇を物語っているようだ…。


「あ、ニノマエ様、あなた、お帰りなさい。」

「お、おう、ルーシア…、一体何があったんだ。」

「えぇ、ナズナ様に魔法を教えていただきました。」

「で、何でこうなったんだ。」

「あ、この壁ですか。凄いでしょ。私とアリウムが魔法を出すことができたんですよ。」

「へ?」


 ナズナに話を聞く。

奥様ズはマナの循環もすぐにマスターされ、マナ量の増減もできるようだった。

そこで、試しに土魔法をルーシアさん、アリウムさんに教えたところ、簡単にできた。

今、風魔法を教えているところで、マナをどんどん上げて放った結果が今に至る…。


「ザックさん、すみません。 この修繕は俺が持ちますので…。」

「何言ってんですか兄貴、部屋なんてどうだっていいんですよ。

 それよりも見てください。ルーシアもアリウムも魔法を撃ってるんです。

 それに土魔法もできるんでしょ。

 整地にはもってこいじゃないっすか。」

「ザックさん…、それだけではないんだ…。」

「へ?そりゃ、どういう意味ですか?」

「これだけ強くなると、夜が…。

 マナを使われると今朝のように灰になってしまうんだよ…。」

「あ…、ナズナ様、もうこれ以上の魔法の講義は結構でございます。

 彼女たちにこれ以上強くなっていただくと、俺が…、俺が…。」



 今晩も俺が調理する。

お好み焼きを食べたいという事だったので、どんどん焼いていく。

ソースとマヨネーゼを付けた食べ方を教え、皆絶賛している。


 みんな笑顔だ。

 ただ、一名、お好み焼きを目の前に、死んだ魚のような目をして一口も食べることのできないアイナがいるが放置しておくか。


「アイナ、だから言っただろ。マナが枯渇するとぶっ倒れるって。」

「社長、ぶっ倒れることは聞きましたが、その後食事も食べられないなんて聞いてませんよぉ…。」

「あ、そうだっけ。でもいい経験だ。自分のマナの容量が分かっただろ。」

「私のマナを知るよりも、このお好み焼きを食べてぶっ倒れるほうが良いです。」

「まぁ、今晩はゆっくり休め。」


 少しだけ労いの言葉をかけておく。

しかし、夜行われる練習の事は俺の知ったことじゃない。

ディートリヒにお任せだ。


 奥様ズも自分のマナの容量を知る時が来るはずだから、その時はザックさんが対応するしかない。

しかし、みんな腕を上げたな…。

『万国○っくりショー』だけでなく、その能力を教えることができるなんて…。


 そんな事を思いながら、床に就いた。



 爽快な目覚めだ。

今日ノーオを出てビーイに向かう。

少し名残惜しいが、またビーイの帰りに会える。


 朝食を皆で食べ、馬車を準備する。

全員乗り込むのを確認し、灰になったザックさんに向けて一礼する。


「ザックさん、ありがとう。そしてこれからもよろしく頼むよ。」

「あぁ…、兄貴、任せてくれ。この街のことは対応しておく。」

「ニノマエ様、此度は私ども含め、多くの女性を救っていただけた事、感謝申し上げます。

 主人と共に、この街のことはお任せください。

 道中お気をつけて(再来をお待ちしております。)(人選はお任せください)。」


 奥様ズはツルツル、スベスベだ。精気に満ちている。

うん!他人事だから良い事だよ。そう思いたい。


「皆さん、お世話になりました。

 それまで、余り無理をなさらないでくださいね。それでは行ってまいります!

 アイナ出してくれ。」

「あいあい…、ハイよ~ロシナンテ~。」


 馬車が進み始めた。


 行先は、“氷の魔導師”として呼ばれているメリアドール様がいらっしゃるビーイの街。

既にメリアドール様には手紙も送ってある。


 ノーオの街からビーイまでは約8時間くらいだそうだ。

8時に出たから、昼食などを入れても午後5時には到着する予定だ。

ま、昨晩、しこたま飲み食いしているからトイレ休憩が多くなりそうだ。


「カズ様、少しよろしいでしょうか。」

「ん?ディートリヒどうした?」

「ビーイの街での滞在先ですが…。」

「ごめん。言うの忘れてた。

 ザックさんが、ビーイの色街にある遊郭の最上階を貸してくれるって。勿論風呂付だ。」


 一人を除き、みんな笑顔になっている。


「はい。ありがとうございます。それではアイナもそこに泊まる…。」

「社長~、私は馬車小屋でも旅館でも良いので、そこで寝させてください…。

 そうでないと身体がもちませんよー。」


 御者席からアイナが大声で叫ぶ。


「なぁ…、ディートリヒ。詮索するのは野暮だけど、一体この2晩で何があったんだ?」

「ふふ、それはアイナさんから直接聞かれた方が良いかもしれませんね。

 アイナさんも、カズ様に信頼していただけるよう調教…いえ、修練をしているというところです。」

「ディートリヒ、俺には彼女は無理だ…。」

「それは何故ですか。あんなに可愛いんですよ。」

「可愛いか可愛くないかと言われれば可愛いんだろう…。でもな…ゴニョゴニョ…。

 ディートリヒ、耳を貸してくれ。ゴニョゴニョ…。」

「あふ…。カズ様、息を吹きかけないでください。気持ち良くなるではないですか。」

「お館様、ディートリヒさんだけにずるいです。何でしょうか、私なら耳も胸も良いです。」

「ナズナ様、何を言っているんですか。では主殿、私はお尻も尻尾も。」

「あーもう!皆さんそんなんじゃ主様を落とせません。

 私は全身全霊で…。」

 

 皆、全員脱ぐな!そして暴れるな!

俺に乗っかるな…。

 

「アイナ、助けろ!」

「え、社長、何か言いましたか?

 御者さんは、何も聞こえませんよ~。ふんふん。」


 あいつ、絶対シバク…。


 数刻後、何故か俺も裸にさせられ灰になった…。

そして、馬車の中の残念ギャルズたちは凛凛としていた…。

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