12-6 自供…

 皆で夕食をとる。


「…という訳で、明日もクローヌに行って、宿舎の調整とかをしてこなくちゃいけくなった。

 それと、あと2、3日でクローヌの館も出来上がるので、俺、メリアさん、ディートリヒ、ナズナ、ベリル、ニコルとクラリッセさん、サーシャさん、ネーナさんが向こうに住むことになります。

 あとの部屋割だけど、こんな感じで分けておいたので、俺たちが向こうに行ってから、移動してください。レクシーさん、調整をお願いしても良いですか?」

「レクシーとお呼びください。

 それと、私のような奴隷も部屋をいただいても良いのでしょうか。」

「あぁ、問題ない。部屋を余らせても勿体ないからね。

 あ、ジーナさんとサーヤさんは親子だから、もう少し2人で同じ部屋を使ってね。」

「ありがとうございます…。」


何やら親子の顔色が優れない。

何かあったんだろうか。

昨晩遅くに帰って来たサーシャさんの方を見る。

うん。何かありそうだね。


「あ、セイディさん。明日午後に酒蔵を見に行きたいんだけど良いかな?」

「え、はい。お父ちゃんも喜ぶと思います。」

「それじゃ、明日また留守するから、レルネさん留守番よろしくお願いしますね。」

「分かったのじゃ。安心するが良い。」


「さて、それじゃ、みんなお風呂に入ってきて。」

「はい(((はい)))。」


皆が移動する中、ジーナさんとサーヤさんがのろのろと動き始める。


「あ、ジーナさん、サーヤさんは少しお話ししようか。」


ビクンとした。うん。何かある、そう感じる。


部屋にメリアさん、レルネさん、ディートリヒを残す。


「何かあったかい?ここに来てからおかしいよ。」

「はい…。」

「言えないことがあれば仕方ないけど、言ってすっきりするならそうした方がいいんじゃないかな?」

「はい…。」

「それじゃ、少しだけこちらから話をするけど、違ってたら“違う”って言ってね。

 別に俺たちは君たちをのけ者にしようとはしていない。

 奴隷として買った訳だから、俺たちの命令は聞かなくちゃいけないから。

 でも、心の中までは命令に従わなくてもいいけどね。」

「ありがとうございます…。

 旦那様の仰る通りです。因みにですが、私達を買い戻す…奴隷を解放するにはいくらくらい必要でしょうか。」


あ、ここまで話が来ているんだな。

んじゃ、カルムさんの店で話したことを伝えようか。


「購入した金額は金貨3枚。だけど、君たちは欠損部位と言って五体満足な状態ではなかったことは理解しているよね。」

「はい。」

「今はどうなっている?」

「すべて治っています。」

「それは、ヒーレスという魔法をかけ、治癒したからなんだ。」

「え、ヒーレス…。」


二人の顔が青ざめる。

みんなヒーレスの存在を知っているんだ。


「その治療費を含んだ額を上乗せして買い戻すという事になるだろうね。

 メリアさん、ヒーレスは王都だとどれくらいの治療代なの?」

「そうですね。少なくとも白金貨1枚はかかりますね。」

「だそうです。なのでお二人で白金貨2枚と金貨3枚になりますね。」

「え、そんな大金…、払えません…。」

「ですよね。ではどうしますか?どなたかに頼んで支払ってもらうか…、それともこの店に夜襲をかけ、所有者を殺して必要な道具などを持って行くか。」


無言になった。


「そろそろ全部話してくれてもいいんじゃないですか?

貴方がたはオーネの商店のヒトであることは間違いないですし、その店が現在閉店しているという事も知っています。

さらに、ジーナさんの旦那が誰かとつるんで、自分たちが販売している石鹸などの製法、ノーオの工場で作っている下着の製法を盗むべく引き抜き工作をしているという事まで知っています。」


引き抜き工作は多分違うと思うけど、とりあえずカマはかけておく。


「あなた方は、旦那さんに言われて、いったんは奴隷となり製法を盗んだ後、旦那さんが迎えに来て奴隷を買い取りたいと申し出る。買い取りした後、製法をオーネに持ち帰り石鹸を作る。そんな流れなんではないかと思います。」


ジーナさんに憑りついていた何かが落ちたような顔つきになった。


「旦那様はそこまで知っていて私たちを買われたのですか?」

「あぁ、その通りだ。」

「それは何故でしょうか。」

「いいか。俺たちは細々と生きていければいい。今回は石鹸や下着といった珍しいものを販売するだけ。たったそれだけの事なんだ。

 別にその製作方法などを世に出さないとは言ってない。王都から通達が出ているように、一定の金額を払ってくれさえすれば誰でも作ることができる。それだけだ。

 にもかかわらず、その製法や技術を盗み出して自分の営利だけに使おうと思っているなら大間違いだ。

 さらに言うなら、その製法を盗むためだけにヒトを奴隷にしたり、製法を盗むために俺たちの家族に傷つけるような奴は許さない。

 だから、今回の件を明るみに出して、手出しできないようにしてやる。

 ま、そんなところだよ。」


ジーナさんが、今度は青ざめた。

顔色っていろいろ変わるんだね。


「旦那様はそこまで知っていて、私たちを買われたという事ですか…。

 私達のような者では太刀打ちできないという訳ですね。」

「誰でもそうだけど、身に降りかかる火の粉は落とすでしょ。それと一緒だよ。

 えと、サーシャさん、王都の返事はどうだった? 

 それとクラリッセさんもネーナさんも、もう動いてたんでしょ。

 目的のモノは見つかった?」


「流石旦那様です。」


クラリッセさんは俺の影、サーシャさんはジーナ、ネーナさんはサーヤの影から顔を出す。


「きゃっ!」


「ジーナさん、サーヤさん。もう諦めましょうや…。

 で、王宮は?」

「はい、旦那様。 『旦那様の仰ること至極当然の事。後は王宮で処理するので、満足されるところまでで結構。』だそうです。」

「お疲れ様、ありがとね。で、あちらは?」

「技法と製法を帝国の貴族に売るようです。帝国からの手紙はここに。」

「お手柄だね。ありがと。

 さて、ここまで来たら後はどうするかだけど、俺たちは自分の命は大切だから、その貴族と帝国の貴族に対し真正面から闘うよ。同じような事が起こらないよう奴らを潰す。

 俺たちに危害を加える奴は容赦しないという事をこの世界に見せつけるよ。」

「カズさん、それでよいのですか?」

「王宮も俺が満足するところまでやって良い、と言ってくれたんだ。

 とことんやってやるよ。後は王宮が何とかしてくれるだろうからね。」

「はぁ…、兄上の困った顔が目に浮かびますね。ふふふ。」


「で、どうする?ジーナさん、サーヤさん。

って言うか、サーヤさんはジーナさんと旦那さんが画策したバカな作戦の被害者かな。」

「いえ…、そんな事はありません。私も加わっています…。」

「なら、証拠は本気で作らないと…。」

「証拠とは何でしょうか?」

「あんた生娘だ。奴隷が移送中に盗賊に襲われたなら、先ず生娘でなくなるのが常だよ。

もし盗賊の頭が生娘のまま売れば高く買い取ってくれると踏んでるなら、金貨3枚という安さで売らないと思う。多分3枚は旦那が借金奴隷となった額なんだろ?

んで、旦那さんが奴隷を解消されたから、今度は妻と娘が奴隷になった金額を得るために製法を盗む。その代償であんたたちが奴隷を解消する。という魂胆だったんだろうね。


あ、すまないね。齢とると話しが長くなってしまう。


でもな、これだけは言わせてくれ。

あんた達が招いた“たった金貨3枚”のせいで、何人のヒトが怪我をし、死んだりするのかを。

ここには20人以上住んでる。20人の命の代価が金貨3枚…、バカにするにもほどがある。」


「私達はどうしたら良いのでしょうか…。」

「知らんよ。

 あんたたちが考えた事なんだろ?なら、ちゃんと自分の尻くらい自分で拭けよ。」

「奴隷となった今、私達に出来る事はありません。」

「そんなの知らないって言ってるだろ。

そこまで考えて動くのが作戦とか戦略ってもんだろ。」


おっさん、完全にどす黒いオーラをまとっていると思う。

皆、引いてるわ…。


「所詮、駒にはそんな考えは無いか…。なら、作戦を練ったヤツに責任をとらせないとな。

 なので、あんた達の奴隷の買い取りは、その伯爵というヤツと帝国の貴族からもらう事にする。

 ただし、足りなかった分は働いてもらうか、転売するが、それで良いか?」

「転売とは?」

「そりゃ、誰かに買ってもらうんだよ。こんな不良債権うちに置いておいても仕方ないから。

 さしずめ王宮にでも買ってもらって、洗いざらい今回の事を自供するんだろうね。」


「それだけは勘弁してください。

 私だけならそれを受けますが、娘だけでも助けてくださいませんか。

 あ、そうだ、私であれば何でもいたします。

 夜伽もいたしますし、なんなら遊郭に行ってでも働きますので、娘だけは…。」


あ、またこの人地雷踏んだ…。


「なぁ、ジーナさん…。俺には夜伽なんて必要ないよ。

 それにな…、遊郭に行って“でも”だと!

あんた遊郭に居るヒトをなめてんのか?

 遊郭で働いているヒトだって、信念もって仕事してるんだよ。

 それを借金を返すために身体売るって?

それじゃ聞くが、遊郭の女性がどれだけ自分を高め、自分を商品として売れるのか、毎日研鑽していることを知ってるのか?

毎日毎日、来客してくれるヒトが満足するために何をすべきなのかを考えていることを知ってるのか?

今度来てもらう時には、もっと美味しい料理やお酒を出せるように献立を考えていることを知っているのか?

単に股開いてれば金が貯まるなんて考えてるんじゃない!

 世の中、甘くねぇんだよ。」

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