第七章 二つの街

7-1 2回目の出張が終わりました

「おひさしぶりですね。ニノマエさん。」

「ラウェン様、お久しぶりです。」

「なかなか会いに来てくださらないので、少し寂しいですよ。」

「ははは。そんなに命とか気を失うことの無いように気を付けていますので。

 そうそう、この間お話ししていた“お好み焼き”を持って来ましたよ。

 勿論、ソースはこの世界で作られたものです。」

「あ、覚えていてくださったんですね。すごく嬉しいです。

あ、話しがそれましたが、私も話し相手がおりませんのでそこを考えていただきたいです。」

「あ、そうですね。では何か話せる場所を見つけましょうか。」

「ふふふ。そうですね。では、ニノマエさんが思う私の像を作ってください。

 それをデスクに置いていただけると嬉しいですわ。」


 何となく、神様も寂しいという気になるのだろうか…。

でも、こうやって話していると和むんだよね。


「どうですか?この世界は?」

「そうですね。今回は少し旅行もしましたし、いろいろなヒトと出会えました。」

「エルフ、竜人族、それに、あの無頼漢ですね。ホントにニノマエさんの周りにはいろいろなヒトが集まってきますね。それと“渡り人”の縁を感じますね。」

「まぁ、良い意味に捉えておきますね。

 ただ、弱いところや脆いところも多く出るようになりましたね。」

「それは良いことだとは思いませんか?」

「はい。とても良い事だと思います。

 今までの自分は、一人で何でも対応しなくてはいけないと思っていました…。

 でも、この世界ではその弱さや脆さを助けてくれるヒトがいます。

 そのヒトたちを大切にしていきたいと考えるようになりました。

 でも、自分はあの世界では異邦人です。

 生活の根拠がどちらにあるのか、時々不安になる時もあります。

 あ、そう言えば、前の“渡り人”さんは、これまでの世界で元気に生きていらっしゃるのですか。」

「ふふふ。ニノマエさんはホントに興味深いヒトですね。

 はい。元気に生きておられますよ。彼もニノマエさんと同じように悩んでおりましたね。」

「やはりそうですか…。彼はあの世界で生きようとしなかったのですか。」

「それは彼に聞かないと分かりませんね。」

「でも、自分も悩んでいるのは確かです…。」

「それは、ご家族の事ですか。」

「そうです…。自分が住む世界は愛すべきヒトは一人…。それ以上愛することはタヴーとされています…。宗教の関係かもしれませんが、罰せられることもあります…。

 でも、自分の性格か個性なのかは分かりませんが、本当に愛する人が一人なんだろうか、という事に疑問を持っています。」

「それは、ディートリヒさんが解決してくれましたね。

ニノマエさんが住む世界でのニノマエさんと、向こうの世界で住むニノマエさんは別です、と。」

「でも、根幹は一緒なんですよ。だから悩むんですよね。」

「ふふふ。そうですね。

 でも、悩んだ結果、ニノマエさんは皆さんを笑顔にしてくださいました。

それに、これからも出張を続けていただけるのであれば、もっと多くのヒトを助けることができるでしょうね。」

「ちょと、それは勘弁ですよ。

 これ以上、身体は持ちませんよ。」

「そうですね。4人ですからね。

 では、こうしませんか?向こうに居る時間は齢をとることをストップします。

 それと、少し若返るって事もできますよ。」

「あ、それは少し困りますね。

ナズナやベリル、スピネルは千年生きる種族ですが、ディートリヒはヒトですから、自然に齢をとることになります。

自分は、皆と一緒に齢を重ねていきたいと思っていますので、自分だけ若返るってのは流石に皆びっくりしますよ。」

「そうですか…。良い案だと思ったのですが。

 では、身体能力だけは10代という事では?」

「それは、コ〇ン君の逆ヴァージョンになるので避けたいですね。

ただ、自分も何年もあの世界で暮らして、もっともっと生活を向上させていきたいと思っていますので、皆が気づかない程度でお願いできればいいな、と思います。」

「ニノマエさんは正直ですね。

ではもっと女性を愛してあげてください。その後、私も…ゴニョゴニョ。」

「ちょ。今何か変な事言いませんでしたか?

それは違いますからね。」

「でも、愛し合うことが繋がる事だという考えには驚かされましたよ。」

「そうですかね?」

「はい。」


 俺は少し考える。今まで神様にいろいろな迷惑をかけてきたのだろう…。

そんな神様も笑顔にできることはないだろうか…。


「ニノマエさん、そんな事は考えなくて良いですよ。」

「あ、そう言えば考えを読まれるんでしたね。

 でも、本気でそう思っています。

 あ、例えばですが、あちらの世界でコンタクト出来る時には、何か料理を持って来ましょうかね。」

「それは嬉しいです!

 では、私からもニノマエさんにチートともいえる能力をあげましょう。」

「へ?チートってご存じなんですね。」

「そりゃ何でも知っていますよ。」

「あ、そう言えばゲームも詳しかったですものね。」

「その言葉はペナルティになりますよ。」

「すみません…。」

「さて、本題に戻しますね。ニノマエさんは既に錬成と集合ができるようになられているので、次に必要なスキルとして、調合、即ち化学合成です。それが出来ますと、石鹸もシャンプーもリンスもできるようになりますね。さらに調合を駆使すれば下着の繊維も出来るようになりますよ。」

「え、そんな重要なヒントとスキルをもらっても良いのですか?

 あ…でも問題があるな…。自分ができても、それを引き継ぐヒトが居ないか…。」

「相応しいヒトを探してください。ある程度目途が立った時、そのヒトは現れます。」

「また、とんでもないことを仰りますね。」

「ふふふ。その方が楽しいですからね。

 そろそろお時間ですよ。それと来週もお願いできますか。」

「勿論です。必ず下着と石鹸、シャンプーとリンスを開発してみせます。」

「是非お願いしますね。では、また来週にお会いしましょう…。」


 いつものオフィスの前に居た。

俺に似たスーパー下僕さんと同調し、仕事の内容を確認し、自宅に戻った。


 はい…。それからの一週間は地獄のような毎日です。

仕事はサクサク進むが、向こうに持っていくモノがなかなか集まらない…。

仕方がないので、問屋に電話をかけ、ベビードールなるものの大量発注を行う。

さらにネットで、特定サイズの下着をいろいろと20セット購入。

それ以外に分解できるものとして数十点と様々な形の下着の型紙をネットで入手した。


 いやぁ、凄い世界になったと感心したよ。

型紙だけでなく、糸の作り方や繊維の織り方までネットで勉強できるんだから。

それに中古の足踏みミシンもネットで4点ほど購入できた。勿論自宅送付ではなく受取場所指定で。


 あと、持参するものとして酒と調味料は欠かせない。

米も玄米、籾と2種類購入。

 最後の切り札として、トイレ事情の改善として、ダンジョン用に簡易トイレを数基と、ウォ〇ュレット式の便座とソーラーパネル、蓄電池をセットとして家のトイレ分を購入、配線工事が極力必要が無くなるようにした。

 あ、居合刀とパソコンも持っていこう…。

最近、金銭感覚がマヒしてきて、金貨8枚とかポンポン払ってしまっている…。

 今回も金貨10枚をリサイクル屋数件に持ち込み換金したけど、あちらの世界では1千万だもんな…。

もう少し金策を考えよう。


 そんなこんなで一週間なんてあっという間に済んでしまう。

多分、買い忘れもあるだろうな…。でも仕方ない。


 さて、3度目の出張に行きますか。

今度は、どんな展開があるのか、やる事も多い。

焦らず、急がず、ケ・セラ・セラで行こう。


 土曜日の朝、オフィスに行くといつものとおりドアがある。

ドアを開け、俺は独り言ちする。


「行ってきます。」

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