9-14 新たな門出

 トーレスさんが、俺がバッグを出すのを今か今かと待ち構えている。

こりゃ、出したら即もっていかれそうだな…。

まぁ、売ることが目的だからいいか。


「えと、先ずトーレスさんが欲しがっていたバジリスク・ジャイアントの皮ですね。」


バッグの中から大量の皮を出す。この皮が一番多い。

何体倒したか分からないが、恐らく50kg以上はあるだろう。


「うほ!こんなにも売ってくださると?」

「ええ。」

「そうですね。この量ですと㎏換算で大銀貨90枚でどうでしょうか?」

「別に構いませんよ。でもすごい量ですよ。」

「いえいえ、ニノマエ様にいただいたモノで大分儲けさせていただきましたから。」

「まだまだあるんですが、出してもいいですか?」

「ええ、構いません。そのためにお金貯めましたからね。」


 トーレスさんのお言葉を信じ、どんどん出していてく。


「ニノマエ様、これは?」

「ホワイト・バジリスクの皮です。」

「そんなレアな魔物まで討伐なさったんですか?」

「え、ボス部屋に普通に居ましたよ。」

「流石ニノマエ様ですね。」


 ホワイト・バジリスクの皮は結構綺麗だったので、みんなの防具にしようと思って、30kgほど取っておく。さらにワイバーンの素材を出すと、流石のトーレスさんも驚いている。


「ニノマエ様、一体何階層まで行かれたんですか?」

「えと、第25階層です。」

「踏破目前じゃないですか。ふふ、でもこれだけのモノを加工して売れば…ブツブツ…。」

「あ、あとこれが出たんですが、何に使えるか知ってますか?」


 ワイバーンの卵を見せる。


「うわっと、これはワイバーンの卵ですね。

 これは、竜騎士の乗り物となるワイバーンを育てる卵ですね。」

「でも、バッグに入ったという事は死んでますよね。」

「詳しいことは分かりませんが、確か仮死状態となっているだけで、マナを通せば卵がかえるって聞いたことがありますね。

 ただ、竜騎士は国にしかいませんので、国に買って貰うことになりますね。」


「そうですか。んじゃ、持っていますか。」

「その方がよいですね。

 ニノマエ様、今回これ全部買わせていただいても良いのですか?」

「大丈夫だけど、凄い額になるんじゃない?」

「いいえ、たかが白金貨2枚と金貨8枚、大銀貨80枚です。」


 「へ?((へ?))」


 3人が唖然としている。


「では、いつものようにギルドカードに入れておくという事で良いですか?」

「えと、白金貨は入れておいてください。あとは現ナマでもらえますか。」

「はい。構いません。ではこちらが現金の金貨8枚と大銀貨80枚です。

 白金貨分は後ほどギルドカードでご確認ください。

 いやーーー、久しぶりに良い買い物をさせていただきましたよ。

 今後ともよろしくお願いしますね。

 あ、それと、隣の商店ですが、金貨25枚であれば買取ができるようですが。」

「んじゃ、買っておくよ。」

「分かりました。では買取で進めていきます。後日契約書を持っていきますので、サインをお願いしますね。」

「よろしくお願いします。」

「こちらこそ。どうぞよろしくお願いします。」


 トーレスさん、完全にニコニコ顔だ。

これだけの素材が、いくらに化けるんだろう…。

おそらく2,3倍になるんだろうな…、凄い商売だな。


「あ、あの…、ニノマエさん…」

「はい、なんでしょう。」

「一体ニノマエさんは何者なんですか?」

「と言いますと?」

「奴隷商は分かりますが、トーレス商会と言えば、国で1,2を争う大商店ですよ。

 その店主と知り合いで、しかも素材の買取で白金貨を動かすクラスって…。」

「それがカズ様ですよ。」

「でも、その分支出も多いんだよね。」

「はい。隣の商店に金貨25枚をポンと支払っちゃいますからね。」

「はは、先行投資だよ。

 それじゃ、ジョスさんにまた改修を頼もうか。」

「そうですね。ジョスさんであれば、一週間で作っちゃいますからね。」

「だな。あ、浴槽一個余ってるから、向こうにもつける?」

「カズ様、それは良い案だと思います。」

「あ、あの…、」

「どうした?エレメンツィアさん?」

「次元が違い過ぎて、どこを突っ込んでよいのか分からないのですが…。」


 店に戻る前に、ジョスさんの家に行き、裏のお礼と隣の商店の改修を頼む。

ジョスさんには金貨15枚とスピ〇ッツ、そしてパンもどきを渡す。

これで二つ返事をもらった。


「おう、また一週間で仕上げてみせるからな。それと風呂を…」

「どうぞ入ってください。」

「ありがとな!これでみんな喜ぶぞ。

 あとは、毎日あの柔らかいパンが食えるんだな…。くーーー!嬉しいぜ。」


 帰り道、エレメンツィアさんが独り言ちしている。


「次元が違い過ぎる…、白金貨稼いだら、その半分は買い物するって、貴族でもない限り無理…。」

「なぁ、エレメンツィアさん、金を回せばみんなが喜ぶんだよ。

 俺だけが持ってても、誰も喜ばないよね。」


 その一言で納得したようではあるが、次元が違い過ぎるとは何度も言ってた。


 彼女たちの宿泊場所である琥珀亭に着き、ここでみんなで夕食を食べようと提案する。

ベリルはそれならと店のみんなを呼びに行ってくれた。


「イヴァンさん、お勧めを20人前ね!あとエールも!」

「あいよー!今日は太っ腹だね。」

「臨時収入だよ。あ、バジの肉かコカの肉って要る?」

「そうさね。両方5kgくらいほしいかな。」

「んじゃ、後で渡すね。」

「いつもいつも悪いね。今日の一杯目のエールは家のおごりだよ~」

「はは、いいよいいよ。この3人を泊まらせてもらってるからね。」

「すまないね~。」


 こんな会話をしながら、3人に話を向ける。


「これが、”一期一会”という付き合いだよ。

 ヒトは一人では生きていけない。だから助け合って生きていくんだ。

 大店の商人だろうと、奴隷商人だろうと、宿屋の女将さんだろうと皆一緒なんだよ。

 持ちつ持たれつ。

そんな事をしながら生きていけれれば良いかな、って俺は思っている。」


 皆が俺を見てる。納得したんだろう。

笑顔になっている。


「それじゃ、エレメンツィアさんの新たな門出に餞別を出さなきゃね。」


 俺は3人に金貨5枚と5等分した金塊を1つ渡した。


「私たちには必要ありません。」


 ミリーさんが固辞する。


「これは、奴隷を解放したお金の残りだと思って受け取ってほしい。」


 ニコルさんが少し考え、話し始めた。


「それでは、私からエレメンツィアにお願いがあります。

 このお金を私の家族に渡してください。」

「私もそれでお願いします。」

「そうね…。分かったわ。必ず渡すわ。それと家族の方にはシェルフールで働いているって言っても良いの?」

「うん。元気で働いているって言っておいて。心配はいらないよって。」


 別れにはなるけど、皆笑顔だ。

こういうヒトたちには応援したくなっちゃうんだよね。


「んじゃ、3人の新たな門出に、俺から全員にプレゼントだ。」


 1か月前に作った2t限定のアイテムボックス付きのバッグを3人に渡す。


「へ((へ))?」


「3人にプレゼントだよ。認識させれば、そのヒトだけしか開かないように改修しておいた。」

「こんな高価なモノ、いただけません!((いただけません!))」

「じじぃの言う事は聞くもんだよ。」

「そうですよ、みなさん。私たちも持っていますからね。」


 あ、ヤバい。全員に渡してなかった…。

取り合えず、明日にでもバッグに付与してあげとこ。


「あ、社長~、お待たせしました~」

「おう!みんな今日は臨時収入が入ったから、ジャンジャン食ってくれ!」

「はいな~!」

「…といういう訳で、エレメンツィアさんは故郷にいったん戻り、冒険者として再出発されることとなりました。

メリーさんは家の研究室で、ニコルさんはサポート魔法を研修して皆さんをお助けすることとなりましたので、よろしくお願いしますね。」

「はーい((((はい))))。」


 皆、笑顔で食事をしている。


 明日は皆の研究などの報告を事務室でしようと思う。

勿論、新顔も同席して。


 どこまで仲間が増えるのかは分からないけど、うまく回っていくといいな…。


「カズ様、よろしいでしょうか?」

「ん?どうしたディートリヒ?」

「これから二人増えるという事は、愛し合う回数が減ってしまうのですが…。」

「あの…、今すぐにって事じゃないからね…、信じ合える状態にならなければ、このままで…。」

「そんな事言いながら、今日明日にでも信じ合っちゃうんですよね…。

 ホント、カズ様はいけずです…。」


 あ、ディートリヒさん、目が座っている…、完全に酔っぱらってるわ…。

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