1-12 街とギルドと人間模様と
お昼を少し過ぎた頃に街に到着した。
街には守衛が居て、一人一人チェックして中に入れている。
俺と“ヤハネの光”のメンバーも一緒に並ぶ。
30人ほどだろうか、誰一人として文句も言わずに並んでいる。
いやぁ、すごい事です。遅いとか、早くしろとか言って、文句も出そうなもんだろうけど、これが日常なんだろうな。あ、そう言えばこれまでの世界でも、某ネズ〇ーランドやU〇Jでは2時間も3時間も文句も言わずに待っているか…。
「ニノマエさん、この街以外に住んでる人は、初めて街に入るとき、入街税として銀貨1枚が必要なんで、これ渡しておきます。」
と、銀貨1枚を渡してくれた。
え、俺がお金持ってないこと知ってたんですか?
あ、そうか、さっきエミネさんにアイテムボックスの中身全部見られてたんでした。
エミネさんが俺を見つめるお母さん的な笑顔が心に染みます。
「ありがとうございます。実は、お金持っていないので、どうしようか思案していたんです。」
「ニノマエさん、私たちに甘えてくだされば良いんですよ。」
「そう…、ニノマエさんは命の恩人…。」
いあ、ベアトリーチェさん、重いです。
「街に入ったら、さっそくギルドに登録して、素材を換金してもらえば問題ないっす。」
「でも、あそこのギルドの姉ちゃんには気をつけなよ。ピンハネすることで有名だからね。」
まぁ、世の中そんなもんなんだろうな。どの世でもそういう奴は横行するしね。
「貴重な情報をありがとうございます。注意します。」
ようやく、俺たちの順番になった。
守衛さんとバーンが何やら話している。
どうやら、俺のことを話しているらしい。
守衛さんが俺を呼び寄せる。
「バーンから聞いたが、あんたがこの街に初めて入る奴だな。」
「はい。ニノマエ ハジメと言います。」
「では、これからいろいろと聞くが、先ずこの石に手を置け。この石は嘘を見分ける石だ。もし、お前が嘘をついているのであれば色が変わる。色が変われば、犯罪人として扱われ、街に入る事ができないが良いか。」
「わかりました。お手柔らかにお願いします。」
「では、この街は、ブレイトン伯爵様が治める街だ。この街に入る者は最初に銀貨1枚支払うことになるが、ギルドに加入しているものはお金は必要ない。お前はギルド証を持っているか?」
「いえ、ギルドにも入っていません。」
「では、お前は人を殺めたことはあるか。」
「いえ、ありません。が、魔獣?魔物?なるものは、ここに来る途中に殺しましたが問題ありますか?」
「魔物や魔獣は問題ない。要は人と呼ばれるようなものを殺したことがあるかという事だ。」
「では、殺したことはありません。」
「この街には何をしに来た?」
「何をするかはまだ決めていませんが、何かしら生活をしていきたいと思います。」
「そうか、石を見るにお前は嘘を付いていないな。よろしい。では、銀貨1枚でこの街に入ることができるが、この場で支払ってもらうが良いか?」
「はい。では銀貨1枚です。」
「わかった。よし、通っていいぞ。」
えらく簡単だった。
そういえば、どこから来た?とか聞かれたらヤバかったな…。なんて思いながら門をくぐると、“ヤハネの光”のメンバーが待っていてくれていた。
「ニノマエさん、よかったね。」
「みんな、ありがとう。」
「じゃぁ、これから冒険者登録して素材を売ろう。ギルドはこっちだ。」
バーンが先導してくれる。
人の親切がこれほど嬉しく感じている自分に感動している。俺は皆と一緒にギルドまで歩く。
道すがら街を観光する。
見た感じ、ヨーロッパの下町にあるような石畳の道路、往来には馬車も走っている。
建物はレンガか石積みのものもあれば、気骨で作られているものもある。時代的には中世といった感じだと思うが、俺には分からない。実際、欧州に旅行した時も、それが昔からの建物なのか、現代の建物を昔風にアレンジしたものか区別がつかなかったから…。
まぁ、そんな道路を歩けば、店もあるし宿屋もある。さすがにお土産屋さんは無いか…。
「さぁ、ここが冒険者ギルドですよ。入りましょう。」
白っぽい建物の中に入ると、右奥にカウンターがある。
左側にはテーブルがあり、冒険者らしい人が昼間から酒らしいものを飲んでいる。
「ニノマエさん、こっちです。」
バーンに連れられてカウンターに行く。
「こんにちは、シーラさん、依頼達成の報告と素材の買い取りをお願いします。」
「はい。ヨハネの光の皆さんですね。分かりました。では、報告書を作りますので、しばらくお待ちくださいね。」
シーラさんというのか、仕事がてきぱきと的確にこなす優秀な人だな。それに応対の際の笑顔が良い。
俺はシーラさんとバーンとのやり取りを見ていると、エミネさんから後ろからこそっと話してくれる。
「あのシーラさんって女性は、このギルドの看板娘って言われてますよ。」
「やはり、そうなんですね。仕事をてきぱきとこなされているように見えましたので、できる人なんでしょうね。」
「ふふ。やはり殿方からは、彼女は一目置かれる存在、という事になりますか。」
ふと、振り返ってエミネさんの顔を見ると、目が笑っていない。それにエネミさんの背後にどす黒いオーラが見えます…。
「あ、あのエミネさん…」
「なんでしょうか。」
「一目置かれる存在というのは、どのような意味でしょうか…。」
「殿方から好かれるという事です。」
「エミネさん…」
「はい。」
「一目置かれるっていうのは、てきぱきと仕事をこなし、上から認められるって意味なんです。」
エネミさんは、顔を真っ赤にする。
「あ、そんな意味だったんですか。私はてっきりニノマエさんもシーラさんの事が好きになって…って思ってました…。」
「少なくとも自分は仕事ぶりだけ見て、好きか嫌いかなんて判断できませんよ。」
「で、では、私の事は…」
「昨日からのお付き合いですからね。エミネさんの性格、生き方なんかを見て、好きとか嫌いとか考えます。でも、好きか嫌いかって聞かれれば、好きって言いますよ。」
「そ、それは…、ニノマエさんからのプロポーズだと思って良いのですか?」
あら?エミネさん…、純情なのかそれとも残念な子なのか…。
「いえ、そういう意味ではありません。それに、こんなおっさんからプロポーズされても、プロポーズされた方が気の毒ですよ。ははは。」
「はぁ…、そんなものでしょうか。」
エミネさん、すごくがっかりしている…。
「そんなもんです。エミネさんに相応しい方がいらっしゃると思いますよ。」
「え、それはどこに?」
「まぁ、そのうち分かりますよ。」
そのうちにね…。それも身近に居るって事もあるから、しっかりと人となりを見ておくんだよ。
俺は笑顔で答える。
父親という感覚なのかは分からないが、エミネさんのような若い世代が生き生きと人生を闊歩していく姿をこれからも見ていきたいと思った。
「ニノマエさん、お待たせしました。次はニノマエさんの登録ですよ。」
とうとう、俺の冒険者としてスタートを切る順番だった。
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