1-11 お母さん、君臨!

 なんやかんやいって、朝食も終了。

結局、焼けたお肉はバーンとブライオンの二人で完食しておりました。

しかし…、朝から肉とは…。若いって良いね。


「さてと、ニノマエさん。」


 唐突にバーンが話しを始める。


「ここにあるバジリスクの素材、全部引き取ってくださいね。」

「へ?」


 ここにある肉の山ですか?

いや、さすがにこれは持てませんよ。


「いや…さすがに無理ですし…。そうだ、皆さんで分けましょうよ。」

「ダメです(却下)(無理)。」


皆にダメ出しされた。


「ニノマエさん…、そもそも魔獣などの素材は倒した人が持って行く権利があるんです。それを横取りしたりすると、ギルドで罰せられるんですよ。」


あ、そうなんだ。


「でも、流石にこれは無理じゃないでしょうか。」

「ニノマエさん、アイテムボックスあるじゃないですか。」


あ、忘れてた。


「じゃあ、入れてみますが、入らなかったら知りませんよ。」


とりあえず、素材なんかを入れ始める。

先ずは小さなもの、魔石、牙、骨、皮と入れ始め、肉を収納する。

5.4m四方の俺のバッグは肉を6割入れたところで一杯になり、入らなくなった。


「でしょ。やはり入りませんね。」


残った肉をどうするか…。俺じゃ無理だ。

「これは皆さんにもらってほしいのですが…。」

「いや…、ニノマエさん…、これだけの肉をどうやって運べと…?」


そうだよな…。目の前に残っている肉は、どう見ても100㎏、いや200㎏はあるか…。

「でも、自分のアイテムボックスもいっぱいですし。」

「整理してみればいい…」

「へ?」

「アイテムボックスの中身の整理…」


 あ、そんな感覚ありませんでした。

単に入れっぱなしの空間だと思っていました。

ベアトリーチェさん、グッドジョブ!


「では少し待っててください。中身を整理してみます。」


俺はバッグの中に入っている有象無象をその場に出す。

“ヤハネの光”全員が、あっけにとられる。


「ニノマエさん、差し出がましいことかもしれませんが、少しお手伝いさせていただきます。」


 お!エミネさん、おっさん嬉しいよ。実はおっさん、整理整頓が余り得意じゃないんだ。

これまでの世界でも整理整頓が苦手だから、極力机の上には何も置かない。引き出しの中も使えるだけの文房具しか入れてなかったんだ。


「ありがとう。手伝ってくれると助かります。」


 そこから小一時間、エミネさんに小言を言われながらアイテムボックスを整理し始めた。


「この木の幹は何でアイテムボックスに入ってるんですか?」

「あ、それは、一番最初にどれくらいの大きさが入るか試してみたときのものです。」

「無駄です。」


「なんで、木の枝がいっぱい入っているんですか?」

「それは、焚火に使えるかと思って…。」

「じゃぁ、この石ころは?」

「投げる武器にもなるんじゃないかって…。」

「じゃ、この大きな石は?」

「なんか、綺麗だなって…。」

「すべて必要ありません。」


完全におかぁちゃんになってます。

まさに、散らかった子供部屋を掃除するおかあちゃんです…。

エミネさん、良いお母さんになれますよ。


「はぁ、ニノマエさん…」

「はい…。」

「ニノマエさんのアイテムボックスは定期的に整理する必要がありますね。」

「すみません…。反省してます。」


 ようやく整理できた。

 その間、エミネを除く“ヤハネの光”のメンバーは、俺のバッグの中に入っていたものとエミネとの掛け合いを見ながら笑ってはいたが、隠してた飴ちゃんをエミネに発見された瞬間、目の色が変わる。

結局、戦利品として奪われてしまうことになった。

 あぁ、あの“のど飴”美味しいんだよね…。

個別包装じゃないから、ゴミも一つで済むし、何よりも環境にも良いよね…。

なんて思いながら、俺は遠い目で彼らを見ていた。

あ、それと飴はなめるもんだから! バリバリと噛んで食べるもんじゃないから!


 そうこうしているうちに、ようやく俺のバッグの中身も整理された。

でも、結局すべての素材は入りきらず、肉が50㎏ほど余った。

 相談した結果、彼らにこの肉をもらってもらうことで、納得してもらった。

全員恐縮していたけど、こればかりは仕方がない。

この場で捨てても仕方ないから。これも有効活用だよ。


「なんか、俺たち何もしてないのにバジリスクの肉とか貰ってもいいんだろうか…」


 バーンは恐縮している。


「いいんですよ。自分のバッグもエミネさんのおかげで綺麗になりましたので、お返しです。」

「そうそう!そういうことで納得したんだから、後からグチグチ言わないの!」


 おう、さすがエミネ母さん…。しっかりしてます。

それでいいんですよ。持ちつ持たれつ、袖すりあうのも他生の縁ですからね。


「んじゃ、出立しますか。」

「はい(はい)」


野営地を後にする。

町までは約4~5時間といったところだそうだ。


 森の中を進んでいる道すがら、たくさんのことを教えてもらった。

これは薬草、これは毒消し草、昨晩焼いたハーブの一種である香草等々。

おっさん、神様から鑑定をもらっているので、教えてもらった薬草を覚えれば、次から手に取って鑑定をかければ、おおよその事が分かるようになったよ。これもチートだな…。今度、神様に会ったらお礼言っておこう。


 途中、大きなイノシシのような動物に遭遇したが、それ以外は何もなく平穏であった。

基本動物は臆病なので襲ってこない事、襲ってくるのは魔獣と呼んでいる四本足もしくは羽の生えた生物、魔物と呼んでいる二本足の生き物が存在している事、彼らが知り得た情報すべてを教えてくれている、そんな感じがした。

 

 人と関わることで今まで知らなかった事が分かる、視野が広がる。

俺はなんだかんだ言って、人が好きなんだろうなぁ、と思っている。

そして、この世界を見て感じて、何かを変えることで彼らが笑顔で生きてくれればいいな、なんて思い始めていた。


 途中、川があり、そこで休憩を取った後、道が見えてきた。

道があるって事は、人が行き来しているって事だ。


「ようやく見えてきたな。」


 遠くに城壁のようなものが見える。


さぁ、ここが出発地点、異世界の文化とご対面だ!

初めて海外旅行に行った時と似た感覚を抱く。

未知の文化、知らない人との出会い…。

武者震いがする…。

言葉では表せないくらいワクワクしていた。

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