1-13 お局様はお冠です
「よろしくお願いします。」
「あぁ、この人ね。冒険者ギルドに入りたいって言ってるんだ。」
バーンさんが助け舟を出してくれる。
「はい。わかりました。初心者登録ですね。では、この紙に名前と年齢、闘いのスタイルを書いてください。」
おぉ、シーラさん。やっぱりできる人だ。
俺は紙のような羊皮紙のようなものに書いていく。
そういえば、俺日本語しか書けないけど大丈夫か?
「すみません。字が書けないんですが…」
「あ、すみません。では、こちらで書きますので、順次答えていってくださいね。」
てきぱきと進むわ。
「お名前は」
「ニノマエ ハジメと言います。」
「え、名前と苗字があるってことは、どこかの偉い方でしょうか。」
あ、そういえば日本でも2、300年前までは苗字って無かったな。
「ええ。自分はここからずっと遠くの未開の村の出身で、村では皆、一応苗字を持っています。」
まぁ、嘘ではないが。
「そうなんですね。では年齢は。」
「52歳です。」
「え、52歳!? 50を越えて冒険者に登録ですか?」
「はい…。もしかすると入れませんか?」
「いえ、そんな事は無いとは思いますが…。普通は15歳の成人を迎えたら入る人がほとんどでしたので…。」
「そうですか。自分が住んでいた村ではギルドが無く、この年になってしまいました。」
「あぁ、そうなんですね。 52歳と。 次は、闘い方ですが、ニノマエさんはどんな戦闘スタイルですか?」
「戦闘スタイルというのは?」
「例えば、剣とか槍とか、それに盾というものもありますね。」
「基本、武器を持って闘うよりも、魔法を使って倒すスタイルでしょうか。」
「あ、ニノマエさんは魔法使いさんですね。 分かりました。では、魔法っと。」
てきぱきと必要事項を書いていく。そして、
「はい。これで登録は完了です。ちょっと登録用紙を奥に持って行くので少し待っててくださいね。」
ほんと、簡潔で分かりやすいです。こんな人が部下にいれば仕事もスムーズに進むんだろうなぁ。と彼女の仕事ぶりに感心する。
シーラさんが戻ってくる。
「次にこのプレートを渡しておきます。これは身分証でもありますので、大切にしてくださいね。では、次に冒険者ギルドについて説明しますが、初めての方なので要点だけお伝えします。」
シーラさん、あなたって本当にできる人だ。
初心者なんて、何も理解できない、というより話されたことなんて覚えていないんだ。そう見込んで、ポイントだけ教えておく。後は追々学んでいく。
それが正解だ。よく初任者研修だとか言って、何でもかんでも最初の1週間とかに詰め込もうとする企業等があるけど、正直言って受けた人は何も覚えてはいないんだよ。
ただ、研修をさせたぞ、後は覚えていないお前らが悪いんだ、という組織の口実だと思ってる…。
必要最小限度の説明の中には、冒険者にはレベルがあり一定量依頼をこなせばレベルが上がる事、一定期間に依頼をこなすこと。街の中では暴れない事。
当たり前の事を当たり前にしてくれれば良いという事のようだ。
わずか数分の事だったけど、すんなり理解できた。
「ありがとうございます。シーラさんでしたよね。すごく分かりやすかったです。」
「いえいえ、これが仕事ですから。」
笑顔も素晴らしい。もう接客のプロだ。
そう思いながら、その場を立ち去ろうとすると、シーラさんの後ろから声が聞こえてきた。
「あー、あんたが新しく入って来た“棺桶を担いできた冒険者”ね。」
シーラさんの後ろから、妖艶、というか厚化粧…失礼、化粧映えのする女性が歩いてくる。
「シーラ! こんな老人に冒険者証渡すなんて、どういう事よ。」
「え、冒険者登録は何歳でもできますよ。確かに52歳はすごいですが…。」
もじもじとしながらも答えている。
「はぁ?! あんた、何言ってるの! ギルドの依頼もできずにすぐ死ぬようなおっさんに冒険者証渡しても、冒険者証を作るプレートのお金の方が高くつくわよ。ギルドとしては大損なのよ。」
なんか、すごい剣幕でシーラさんを叱ってる。
「まぁ、すぐには死なないようにしますので…。」
と愛想笑いをしながら、ポリポリと頭をかく。
「そういう奴ほど、すぐに死ぬのよ!あんた、悪いことは言わないから、冒険者証を返して、あんたの村に帰りな! あんたのような奴がここで冒険者をやっているって他の冒険者が知ったら、うちのギルドが馬鹿にされるじゃない!」
なんか、すごい剣幕だ。
まぁ、そういうお局様もいっぱい見てきたから、軽くあしらうか。
「まぁ、死なないよう皆さんがやっておられないような依頼だけでもやっていきますよ。それに他の冒険者とも会わないように努力しますし。それにあなたにもご迷惑をかけないようにしますので。」
「ふぅん。イヤな仕事ね。まぁ、良いわ。それじゃ、肥溜め集めとかゴミ集めとかでもしてもらおうかしらね。」
「それがギルドに依頼され、請け負っていればやるつもりですよ。」
これまでの世界では、そういった仕事を生業としている企業だってあるから。
「きぃーーー。シーラ! とにかくこの死にぞこないをサッサと外に追い出しなさい。」
まぁ、これだけの街並みだし、人もいっぱい居そうだから、生業としてちゃんとあるんだよな。もし、なければ、起業すればいいんだし。
「それでは、私は失礼させていただきます。シーラさん、いろいろとありがとうございました。」
「いえ、お気をつけて!」
「きぃーーー。もう二度とここに来るな!じじぃ!」
あーすっきりした。
まぁ、懐柔策もあったとは思うけど、俺は上から目線の奴は嫌いだ。
上司であっても、同じ目線でモノを進めた方がスムーズなんだよな。
俺は、なんかスッキリして外に出る。
すると、バーン達も外に出てくるが、少し困った顔をしている。
「ん?どうかしたんですか?」
「ニノマエさん、ヤバいっすよ。あいつ、アシェリーって言って、ここのギルド長の女っすよ。
あいつを怒らせるとギルド長に伝わるんで、みんな避けてるんです。」
「あ、そうなの。でも、シーラさんって言ったっけ?別にその人と毎日顔を合わせなければいいんだし、それに戦闘できない自分ができる依頼なんて限られてるから問題ないんじゃない?」
「ニノマエさん、気楽なもんですね。」
「うん。いろいろ考えたって仕方ないよ。Que Sera, Seraだよ。」
「くぇせ・ら・せら? ですか?」
「そう。Que Sera, Sera。何とかなるよ、って意味ね。」
「そんなもんですか?」
「そんなもんだよ。」
「でも、素材とかギルドに売らないとお金ないんじゃないですか?」
あ…、しまった。俺、お金なかったんだ…。
「そうだった。すみません。もしよろしかったら、自分が持っている素材を売ってきてもらえますか?もちろん、手数料は払いますので…。」
「いや、俺たちのランクでバジリスクとかは流石に売れないっすよ。それにギルドに持って行っただけで、あの厚化粧…、あ、アシェリーに何言われるか分からないし、それにギルド長からも因縁つけられたら、俺たちここで活動できなくなっちゃいますよ。」
そうだよな。どの世界でも弱者は弱いんだ。強くなるまでじっと待たなきゃいけないんだよな。それまで実力をつけて、上から認めてもらうことが必要なんだ。
まぁ、流石に街中には魔獣は出ないと思うから、いざとなれば広場とかで寝ればいいんだし、こんなおっさんを襲うような奴もいないから。
「みなさん、心配していただきありがとうございました。自分は何とか生きていけると思います。あ、お借りした銀貨1枚は必ずお返しします。
じゃぁ、皆さんとはいったんここでお別れしましょう。またお会いしましょうね。」
俺は、バーン達に精一杯の笑顔を見せ、その場を後にする。
「Que Sera, Seraだよ…」
本当は少し心配だったよ…。強がってみたよ…。
若者に心配はしてほしくないって思う足掻きだったかな。
2日目にして、モノはあっても売れないという状況に陥ってしまった。
バーンの話では、この街の広場には市が開かれているとのことなので、何か売れれば当面の目的は達成されるか…。とギルドから北にある広場に向かって歩き始める。
と、後ろから声をかけられた。
「突然呼び止めてすみません。少しお話をさせてもらっても良いでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます