11-14 メイドさんズの暗器製造

「あぁ、カズ様、奥様、大変です。張り紙を張った途端にこの有様です。」


ディートリヒがシュンとしている。


「で、商業ギルドの張り紙は外したのか?」

「はい。張ったのは一時間ほどでしょうか…。にも係らずこの有様で…。」


 おそらく口コミで広がったんだろう…。

それにしても多い…、一体何人来ているんだ?


「しかし、これだけの人数を面接するのは至難の業だぞ。

 冷やかしで来ているヒトと本当に働きたいヒトを分ける必要があるが、あ、そうだ。

 レルネさんのところにあったヒトのマナを感知する魔道具で一次選考をかけるか。」


幸いにも、マナを感知する魔道具が2つあったので、それを測る人物としてサーシャさん、ネーナさんを、マナがあるヒトに割符を持たせるヒトに明日から面接に来るように伝える担当にナズナを、残念ながらマナのレベルが足りなかったヒトには石鹸を持たせて帰ってもらう担当をディートリヒとして、何とか事なきを得た。


「で、明日から面接だけど、一次面接に残ったマナを持っているヒトは何人いたの?」


今晩の夕食はパスタにした。

肉系は昨日食べたから今日はあっさりとしたパスタを、と思ったのだが、皆肉系が良いということで、ミートソースとした。


「マナが中レベルのヒトが10人、それ以上のヒトが15人、魔導師が1人です。」

「という事は、明日は26人を面接するという事かな?」

「いえ、それだけではなく、私の眼から見て、販売員として見た目が良いヒトを20人ほど割符を渡しています。」

「えと…、販売員さんとして雇うのは10人だよね…。」

「はい。しかし、化粧品を作る際には少なくとも3人以上、錬成ができるヒトを育てなければいけませんので。」

「確かにそうだけど、レルネさんの店って、3人しか部屋作れないよ。」

「あれだけの大きさは必要ないでしょうから、通りに面した部屋を2分割し5人までいけることで対応できます。さらに、販売員さんは基本自宅から通われると思いますので、部屋は不要ですね。」

「さよですか…。流石です。」


 何かとんでもないくらいの雇用人数になりそうだ…。

錬成できる魔導師クラスを3人としても13人…。1か月金貨1枚と大銀貨3枚か…。

何とかなりそうだ。


「選考漏れのヒトは文句は言ってなかった?」

「はい。むしろ冷やかし程度に来ていたヒトも居て、そのヒト達からは、自分のマナの量も調べてもらった上に石鹸までもらえるなんて、と感謝されました。」

「で、明日からの面接は、レルネさん、ルカさん、アデリンさん、ディートリヒで大丈夫?」

「私が面接をするよりも、クラリッセさんに入ってもらった方が良いかと思います。

 私は受付で順番にヒトを誘導していく方に回ります。」


「全員が街のヒトなの?」

「一応は。しかし確信は持てませんので、一次選考を終えたヒトの身辺調査をする必要があります。」

「という事は販売員と錬成の両方という事だね。」

「先ずは錬成の方からでしょう。」

「販売員であれば、面接の際にシェルフールの話題を少し入れながら聞けば良いと思います。」

「良いヒトだと良いね。あ、ナズナとサーシャさん、ネーナさんが影伏という魔法を覚えたから、追跡とか身辺調査は可能だからね。」

「影伏?それは闇魔法でしょうか…?」

「闇も光も分かりません…。」


皆でお風呂に入り、久しぶりに皆の髪を洗った。

クラリッセさんたちは更衣室で羨望の眼差しを向けてくるが、やはりそれはそれ、これはこれとして我慢してもらう。


 風呂から上がり、少し研究室を使って、ピアスを作る。

メリアさんとレルネさんに渡したものと同じものを15セット作っておく。

それと、サーシャさんとネーナさんが普段持てるような得物も作っておく必要があり、それを作ろうと思っている。

護身用のダガーはヤットさんたちが作ってくれたから大丈夫だ。それよりも暗殺者が欲しがるような得物を考える。

先ずは女性という事もあり簪は必須。これなら簡単にできるね。

玉簪をイメージし錬成をする。…うん。飾りの部分にガーネットを付けて出来上がり。

次は得物となるものだが、牽制のためのものと暗器となるもの。

牽制はクナイか。

スリットの入ったドレスの下にクナイを忍ばせ投げる…。うわ!色っぽい。

おっさん、完全にスパイ大作戦ワールドに入りました。

暗器はツィストダガーかな。

フランベルグでもいいが、片手剣になってしまうからな…。

“迷い人”ではないが、刃の部分がマナを込めれば色が変わる仕掛けにする。


あぁ…、俺もやっぱり“ファンタジー大好きヲタク”なんだろうな。

そのうち、ミサイルとかビームとかも作るのか?

ふふ、俺も残念な“迷い人”になりそうだな…。

そんな世界に浸りながら、ようやくもとの世界に戻ると、いつの間にかナズナが居る。


「うぉ!ナズナ、いつの間に…!」

「お館様が違う世界にお入りになった時からずっとおりましたが…。」

「え、そうだったの?」

「はい。しかし、その武器は何ですか?」

「あ、これね。サーシャさんとネーナさんが使えるようなモノは何かと思って作ってたんだよ。」

「お館様、私のモノは無いのですか?」

「あなたは、とても切れ味抜群なエンペラー・サーペントの双剣がありますがな。」

「そうですが、それ以外には。」

「護身用のダガーとシャムシールも…。火属性もありますね…。

 でも、これは預けておくよ。最後の手段として使ってね。」


簪を渡した。


「これは頸動脈を刺すという事で良いでしょうか。」

「どこを刺すのかはお任せします…。」

「では、みなさんのところに参りましょう。」

「え、みんなまだ起きてるの?」

「はい。お館様の事を心配されております。

 お風呂から出られたら、すぐに研究室にお入りになられたので…。」

「あ、ごめん。これを作ってたんだよ。」


ピアスを見せる。


「これは奥方様がお着けになられているものですか?」

「ダイヤモンドは付いていないけどね。」

「嬉しいです!お館様は私たちの事をお忘れになられていませんでした!」

「当たり前だろ。忘れることなんてないよ。」


いきなり抱き着き、キスをしてくる。

うん。ナズナ達も寂しかったんだろう。

「…と言う訳で皆にもこれを渡しておくね。」


ディートリヒ達に一つずつピアスを渡していく。


「カズ様、早速穴を開けてください。」


みんなにピアスを付けてあげる。


「ただ、明日までは激しい運動は控えてね。ピアス飛んでっちゃうからね。」

「はい…。」


全米中がしょんぼりした…。


「あとね、クラリッセさんとサーシャさん、ネーナさんにこれを渡しておくけど、使わないに越したことはないからね。」

「ありがとうございます。あ、これは暗器ですか?」

「恐ろしいけど、そうだね。一つ目はツィストダガー、二つ目はクナイ、最後に簪ね。」

「主殿、これは殺傷力が高そうですね。」

「フランベルグよりは高くないけど…。」

「このクナイはどこに仕込んでおけばよいのですか?」

「腿のこの辺りに…、でもドレスの時でしか無理だよ。」

「簪はどのように使えば…。」

「普段は髪をアップにして纏めておく道具として使ってね。

それにメイドさんだから髪を上げてた方が動きやすいでしょ。」

「さすが、ご主人様。そこまで私たちの事を考えていただけるなんて…。

 この上は、メイドという身だけでなく、すべてを…」

「クラリッセ、要りませんよ!」


あ~ぁ、メリアさんに叱られた。


 夜、メリアさんとレルネさんと一緒に話しをする。


「政治的に動くことは無いと思われますが、何分帝国領と隣接している伯爵領ですから、何を企てているのかを知ることが肝要ですね。」

「皆の安全を守ることができればそれで良いと思う。

 ただ、こちらに何か仕掛けてくるのであれば、それは全力で排除するよ。

 俺たちには俺たちの生活があるんだ。それに、皆と笑顔で暮らしていくという夢もあるからね。」

「イチは“ろまんちすと”じゃの。

 じゃが、それが良い…。儂らにとって心地良いという事が一番じゃな。」

「そうですね。退屈な貴族社会よりも毎日何が起きるのかワクワクしますし、カズさんとこうやって寄り添って、体温を感じながら眠ることは幸せですものね。」

「明日からも面談踏ん張りますかね?

 メリアさんはこの事を王都に知らせるつもりですか?」

「思案中ですね。一応王都での身分は監視役ですから…。」


いろんな画策が蔓延る中、俺たちはどこに向かっていくのだろう…。

ただ、行き着く先は笑顔があふれる世界を信じて踏ん張って生きることだと感じている。


あ、一度神様にも相談してみないとな…。

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