12-15 旅の途中

 街に入る際は、俺のギルド証で入ることができた。

ヒトを殺しているから“うそ発見器”みたいな魔道具で調べられたらマズかったな…。

先ずは5人に“クリーン”をかけた後、服屋に行き5人の服を買う。


「おっちゃん、何だ?その魔法は?」

「ん?冒険者なら普通に使えるものだぞ。“クリーン”っていう生活魔法だ。」

「すげーな。」

「いや、凄くなんかないぞ。

 あ、そう言えばお前たちは名前が無かったんだな…。

 なら、名前を付けておくか。」


10歳の男の子にはウッディ、9歳の女の子にファイ、同じく9歳の男の子にゴル、8歳の女の子にクレイ、パンを渡した女の子にアクアと名付けた。


「おっちゃん、名前って?」

「あぁ、ウッディ。これから君たちが大人になっていくと、いろんなヒトと繋がりができる。

 その時、名前があると自分だと分かるからね。」

「いや、そうじゃなくて、名前の意味だよ。」

「あ、ごめんごめん。

 そうだな…、ウッディ、君は木という意味だ。ファイは火、ゴルは金、クレイは土、アクアは水という意味かな。この5つの要素はこの世界に必要なモノだ。その必要なものを君たちに付けたんだ。」

「そうか…、なんか格好いいな。で、おっちゃんはなんて名前なんだ?」

「俺か?俺はニノマエ ハジメって言うんだ。」

「長いな。ま、おっちゃんでいいか?」

「いいぞ。じゃ、皆、服を着替えたら、次に馬車を見に行くぞ。」

「はーい((((はーい))))。」


馬屋に行き、適当な幌馬車を一台と馬を一頭買う。

そこに皆を乗せ、出発するのだが、御者が居ないので、馬屋にレクチャーを頼み、何とか馬車を扱えるようにし、街を出発することにした。


「おっちゃん、すげーな。こんな馬車買えるなんて、大金持ちだな。」

「そうだな…。金持ちか金持ちでないかと言われれば、持っている方かな。

 でもな、金なんてあっても無くても暮らしていけるんだよ。ウッディたちは、金はもっていないけど、暮らしていけたんだろ?」

「まぁ、いろいろとあったけどな…。

 子供たちだけで生きていくって、結構しんどいんだぞ。」

「そうだよな…。俺にはできん。」

「おっちゃんは、すぐ死ぬかもな。ははは。」


 他愛のない話をしながら馬車を進めていく。

子供たちは、外の景色を見ながら、興味のある場所に行くと馬車を停め、そこでひとしきり遊ぶ。

そして寝る…。


 こんな生活も良いな…。

今までが、急ぎ過ぎたのかもしれない。

文化を1ランク上げる事に固執してしまい、周りを見る事を忘れていたんだな。


 この子たちを見ながら、そう実感する。


 そうなんだよ。焦る必要なんかない。

100年、200年先のモノを広めようとしているんだ。

そんなのたった数か月で変えることなんてできない。


 朝起きて夜寝る。ご飯を食べて寝る。

そんなスローライフも良いじゃないか。


 野営し、バリアーを張って皆を寝させる。

日中はしゃぎ過ぎたんだろう。皆熟睡だ。

誰も入ってこれないから、俺も寝ることとした。


 それから2日経ち、レルネさんの郷とオーネに分かれる道に差し掛かる。


「なぁ、みんな。少し立ち寄りたいところがあるんだが、行ってもいいか?」

「おっちゃんが行きたいなら、別に良いよ。」

「んじゃ、みんなで行こう。」


 レルネさんの郷の方へ向かう。

ジーナさんとサーヤさんは治ったんだろうか…。

心配しながら馬車を進める。


数時間後、郷が見えてきた。


「何者だ。」


門番がしっかりと警護している。僥倖だ。


「ニノマエってもんだが、ここにナズナが運んできたヒトが居るんだが。」

「え?ニノマエ様ですか?お一人で来られているんですか?」

「一人じゃないぞ。子供たち5人と旅してる。」

「え? は? はい。しばらくお待ちください。」


 門番さん、飛んで行った。


「なぁ、おっちゃん、なんでおっちゃんの顔見てびっくりしてたんだ?」

「そりゃ、俺の顔がコワイからだろ?」

「ははは、そりゃそうだ。」

「ううん。おいちゃんは優しいよ。」

「ありがとな。アクア。」


 ベルタさんが全速力で走って来た。


「ニノマエ様、来るなら来ると仰っていただければ、皆で歓待しましたのに。」

「いや、いいんだよ。

 それより、数日前、ナズナが運んできた2人の女性は無事か?」

「はい。快方に向かっています。

 ですが、ケガの部分がどんどん再生していく姿を見ますと、もしかしてとは思いましたが、ニノマエ様が治療されたのですね。」

「あ、あの時は急いでいたからな…。すまない。

 あの二人に会わせてもらってもいいか?」

「それはもちろんです。

 では、馬車も郷に入れましょう。今宵はここにご宿泊されるという事で良いですか?」

「よろしく頼むね。あ、食材を渡しておくよ。」


ここまでの道中、魔獣の襲来も無かったが、まだダンジョン産の肉がしこたま残っている。

それを次々と出していく。


「ニノマエ様、もう十分です。これだけあると宴が何日もできますので。」

「はは、そうだね。じゃ、今日は焼肉大会だね。」


 馬車を郷の中心まで走らせる間、ベルタさんにこれまでの事を聞く。

エンペラー・サーペントの鱗を使った飾りはすこぶる人気で、作れば即売れるというモノになった。

 だが、在庫も限られているので、それ以外のモノで髪飾りやブローチなどを作っているとの事。

オーネとの往来も、ザックさんの子会社のお陰で頻繁に行き来しており、村の生活も変わって来た事。

 そして、なにより石鹸が入って来たことにより、皆が衛生的になっているとの事だ。流石に風呂まではないので、しゃんぷりんは使えないが、石鹸だけでも流通し始めていることは良い事だと思う。


 ベルタさんの家に行き、ジーナさんとサーヤさんが休んでいる部屋の前で立ち止まる。

何て声をかければ良いんだろうか…。

でも、顛末を話さなければいけない…。俺にはその義務がある。

コンコンとドアをノックすると、


「どうぞ。」


 中に入っていく。

彼女たちはもう元気なんだろう。ベッドで寝ておらず、窓側にある椅子に腰かけている。


「あ、ご主人様。」


 二人が立とうとするのを止め、座らせる。


「ジーナさん、サーヤさん。すまなかった。

 俺の見込み違いだった…。あいつらが君たちを殺すことまで考えてはいなかった…。」


 土下座して謝る。


「ご主人様、そんなことはなさらないでください。」


 ジーナさんが駆け寄り、俺を起こすと、抱きしめてくれる。


「それよりも、ご主人様の方が大変な思いをされたと聞いております。」


 あ、ナズナか…。


「いや、そんな事はない。ジーナさんとサーヤさんが受けた苦しみに比べれば、俺の苦しみなんてたかがしれているから。」

「そんなことはございません。ご主人様は、すべてご自身が背負うおつもりでオーネに行かれ、そこで、帝国の貴族を…。」

「闇に葬るってみんなが言ってたな…。あ、伯爵は、この国の法で裁かれるからね。

でも、何でジーナさんとサーヤさんを殺めることをしたんだろう。」

「それは、私の夫であった者のせいです…。」

「そう言えばジーナさんの旦那さんの存在がなかったけど…。」

「あの夜、門で落ち合った後、夫は馬車を準備していたのですが、急に早馬で行くこととなりました。

 しかし、夫は馬車は操縦できても馬に乗ることもできず、さらに馬に乗るには一人余分だったため、その場で…。」

「そうか…、すまなかった。」

「いえ、いいんです。

 あの人も今回の片棒を担いでいたんです…。

グルだったんです。

 私たちは利用されていたのです…。

 それが分かったので、サーヤと覚悟を決め、喋れない、手が動かないという振りをしましたら、不要と判断されあの場所で…。」

「そうか…。」

「でも、悔いはありません。

 それに、サーヤと言っていたんです。

 私たちには、ご主人様がいる。絶対助けてくださると。」

「ジーナさん、サーヤさん…、それでも死の淵を彷徨わせてしまい、申し訳なかった。」

「良いのです。それに私たちはご主人様の奴隷です。」


 闇は闇同士引き合うのだろうか…。

ヒトを殺したという闇、愛するヒトに裏切られたという闇。

どちらも心の中にぽっかりと穴が空いた状態だが、何とか彼女たちだけでも助けてあげたいと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る