3-30 魔法の講義

「で、ニノマエさんよ、もう一つのお願いって何だ…。」


 随分と落ち込んでる…。


「もう一つは、ここに居るディートリヒの剣を買い替えたいんだ。

先日のスタンピードの時に折れちゃってね。」


「鋼だぞ?そうそうに折れることは無いと思うんだが…。

まぁ、スタンピードだし、嬢ちゃんの活躍も聞いているから分からんでもないな。」

「え、私の活躍ですか?」

「そうだ、吟遊詩人の詩ではな…

『戦場に咲いた一輪の月光花。

 主を守り近寄る魔物をバッタバッタと切り倒す。

 例え鎧が壊れようと、例え剣が折れようと、例え我が身が切り刻まれようとも、

 光り輝く月光花は、主とともに果て無き世界を駆け巡る』

なんて詩だったぞ。それだけ可憐だったって事だな。」


「私の詩…、月光花…、光り輝く…、むふう。」


 あ、あかん…。ディートリヒさん、いつの間にかクネクネし始めている。

早くこちらに戻ってもらわなくては…。


「こほん…。で、剣が欲しいって言ったところです。」

「おう!分かった。それじゃ、見繕ってくるから店で待っててくれ。」


 店に戻り、俺は神様やレルヌさんと話したことを思い出していた。

 彼女は一般のヒトよりはマナが多いと言っていた。強化や生活魔法といった魔法であれば使えるって事だが、俺が彼女に付与できればそれは可能なのか?

 強化魔法は慣れてしまえばマナの消費量も少なくて済む。生活魔法も同じ。

だとすれば、彼女の弱点を補えるようなものを習得させれば良いのか?

彼女の弱点は近接のみに特化している事…、故に遠距離、中距離からの攻撃には防戦一方になる。

魔法が撃てるよりも、剣で何かできないか…。


 お!閃めいた。

剣の風圧を飛ばしたり、剣が持つ属性を飛ばすことができれば、遠距離、中距離にも対応は可能となるな。では、魔力を持った剣があれば…。


「待たせたな。嬢ちゃんに合う剣だと、これくらいだと思うがいっぺん見てくれ。」


 マルゴーさんは、5,6本の片手剣を持ってきた。

俺は鑑定をしてみる。

6本の剣のうち鋼が3本、ミスリル2本、アダマン何とかが1本か。

鋼の3本のうち2本は付与なし、1本は切れ味+1か…、鋼はやめよう。

ミスリルが、1本がブロードソードで、切れ味+1、自動修復か…、もう1本がレイピアで、切れ味+1、自動修復に耐久性向上だ。

アダマン何とかもレイピアで、切れ味+2、耐久性向上、軽量化だった。


「マルゴーさん、このアダマン何とかってマナを注ぎ込むことができるの?」

「あ、アダマンタイトか? ミスリルよりは少ないと思うが、それでもマナは注力できるぞ。」


 俺はアダマン何とかのレイピアを持ちマナを注ぎ込んでみる。

お、スルスルっと入っていくイメージだ。これなら大丈夫かもしれない。

あとは、後付けで属性を付けるだけでいいかもしれない。


「ディートリヒ、このレイピアが良いと思うが、どうだろうか?」

「カズ様、これは流石に私が持つには不相応だと思いますが。」

「ん?そんな事はないよ。この間のフランベルグでは耐久限度を超えての戦闘では無理だって分かったからね。それにこれならもう一段階、二段階、君の攻撃に幅が出るかもしれないからね。」

「でも、高いです…。」

「値段なんて、ヒトの命に比べればどうって事ないんだよ。

それに、さっき伯爵様からボーナスももらったしね。」

「“ぼーなす”ですか。」

「そう、ボーナス、臨時収入って事だよ。」

「いえ、あれは臨時収入ではなく戦闘の対価です。」

「なら、戦闘の対価であれば、戦闘で使えなくなった武器を対価で買う事はできるよね。」


 ふふふ、勝った。論破したよ。

どっちみち、買わなきゃいけないものだから、良いもの買っといた方が良いからね。


「んじゃ、マルゴーさん、これください。」

「おい、ニノマエさんよ…、値段聞かずに買うのかい?」

「聞いたらびっくりする値段?」

「まぁ、この間よりは多少上に行くぞ。」

「じゃあ、構わない。で、いくら。」

「金貨5枚と大銀貨50枚だ。

と言いたいところだが、少し鑑定してもらいたいものがあるから、それをやってもらう事を差し引いて金貨5枚ちょうどだ。」


 おうふ!デカい。でも、ここは漢気!

 

「も、問題ないでしゅ。」


 あ、噛んでしまった…。

支払う手が震えるものの支払う。


「マルゴーさん、デスクを借りたいんだけど。」

「おう、良いぞ。俺も見て良いか。」

「どうぞ。」


阿吽の呼吸ってやつかな。


 さて、始めましょうか。


今回買ったこのレイピアに付与魔法で属性を付けてみようと思う。

レイピアの区(まち)の部分にマナを集中させる。

そのマナに風属性を付与する。よし、付与は完成した。

次にディートリヒ本人によるマナの伝播と区に集まったマナを剣全体に行き渡らせたうえで剣圧として飛ばす。


 ここで、剣圧を飛ばすと商品を壊す可能性があるので、裏庭をかりることとした。

当てるのは5m離れた折れたフランベルジュ。

イメージさえ伝達できれば、彼女も使えるかもしれない。

俺は、ディートリヒの手を取り、一緒にマナを剣に注ぎ込むことからやってみる。


「いいか、ディートリヒ。自分の中にあるマナを感じる近道は、おへその下あたりに球体のマナを創造することが一番なんだ。そのイメージしたマナをゆっくりと移動させる。

おへそから胸へ、胸から腕へ、そして腕から剣へと移動させる。やってみて。」

「はい。カズ様。」


 ディートリヒは心を落ち着ける。

が、すぐにはできない。

何度もやるが、イメージができない。

んじゃ、違う方法でやってみよう。


「ディートリヒ、目をつむって。」


 目をつむったディートリヒの眉間に指を軽く当てる。


「今の指先の感覚は感じたでしょ。」


 目を閉じたまま頷く。そして俺は指を眉間に近づけもう一度触る。

その後、指先をゆっくりと近づけたり遠ざけたりしてみると、ディートリヒが反応し始める。


「カズ様の指から感じる体温でしょうか、何かが遠のいたり近づいたりするのを感じます。」

「うん。よくできたね。んじゃ、その感覚を一つにまとめることはできる?」

「モワンモワンしたものでしたら、一つに集めることができました。」

「そう。それがマナの一種で“気”というものなんだ。俺は、マナも気も同じようなものだと思っている。

マナは感じることができなくても、今のような気を一つに集めるといったイメージができればいいんだよ。じゃぁ、気をおへその下に集めるようにしてみて。」

「はい・・・・なんとなくですができました。」

「じゃぁ、その気を胸へ移動し、胸から腕へ、手に集めて握っている剣に流し込むイメージで、気を動かして。」

「・・・・・・はい。イメージできました。」


これで第一段階終了。次なる段階は…


「んじゃ、今、ディートリヒの気を入れた剣だけど、まだ気はディートリヒが握っている部分しか伝わっていないんだ。その気を剣全体に行き渡るようにしてみて。」

「はい。でも、カズ様、それではいったん気が握っている所で止まってしまうので、おへその下から徐々に剣全体に気を移動するようなイメージではどうでしょうか。」


「その方がやりやすいんだったらいいよ。でも辛かったらやめてね。」


 うお!いきなり上級の考え方だな…。それ結構きついけど大丈夫かな?

しばらくすると、剣がボワーと淡く光り始める。

出来てる、出来てる。最終段階だ。


「最後だよ。剣全体に行き渡った気を剣の風圧に乗せて前に飛ばすイメージで剣を振ってみて。」

「こうですか、えい!」


ブォン!という音を立て、空気が動き、5m先の折れたブランベルグが背後に吹っ飛んだ。


「あ・・・・」

「できたね…。」


ディートリヒが真ん丸な目をして剣を見つめている傍で、マルゴーさんとアイナさんが口を開けたまま呆然と立ち尽くしていた。

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