4-9 真の味方の見分け方
お昼を過ぎた頃、伯爵邸にトーレス夫妻とともにやってきた。
多分、今日の準備で忙しいのだろうと思っていたのだが、今日はガーデンパーティー形式のようで、ところどころにテントが張ってある。
テーブルも芝生の上に置かれ、もはや準備はできているようだ。
バスチャンさんを呼んでもらい、ユーリ様とティエラ様にお話があることを伝えると、館の応接室に通された。
程なくして、両夫人がニコニコ笑いながら入ってくる。
「これは、ユーリ様、ティエラ様、ご機嫌麗しく…。」
「トーレス、杓子定規な挨拶は抜きにしましょう。それにニノマエ様、この度はいろいろとご助力をいただき、感謝申し上げます。」
ユーリ様が従兄のトーレスと挨拶する。
「ニノマエ様、教会でのご寄付、ありがとうございました。おかげで孤児たちも生き生きと仕事をしております。」
「そうですか。それは良かったです。」
と、通り一辺倒の挨拶をし、ティエラ様の方を見る。
ティエラ様はディートリヒを見ると、『あら?』と声を出し、そしてトーレスさんに向かって尋ねた。
「トーレスさん、このディートリヒさんが身に着けていらっしゃる宝石は何ですの?」
「はい。この度当店で取り扱いをさせていただきますものです。」
「ディートリヒさん、少しこちらにお寄りいただけませんか。」
「ひゃ、ひゃい。」
ふふふ、ディートリヒさん金額を聞いてからというもの、動きがロボットです。ビビってますよ。
「あらあら、これは綺麗な宝石ですね。これはどちらのモノなのでしょうか。」
「こちらは、ニノマエ様の故郷で採れた希少な宝石です。」
「あら、ニノマエ様の故郷で?」
「はい。身寄りの者が送ってくれたのですが、自分はまだ商いをしておりませんので。」
「そうですか。」
「で、本題ですがよろしいでしょうか。」
俺は、話を切り出す。
トーレスさんであれば、商業ベースな話なので、そんなに乗ってこなかったのではないかと思う。
でも、俺が話すという事は何か楽しい事があるんだろうと、ユーリ様もティエラ様も目を輝かせている。
「こほん。では、お話をさせていただきます。
こちらはユーリ様、こちらはティエラ様にお渡しいたします。」
俺は、先ず念珠を渡す。
「ありがとうございます。なんだか催促させてしまったようで、申し訳ないですね。」
ユーリ様、目が怖いですよ。
「いえ、これはほんの心づもりですから。
さて、ユーリ様もティエラ様も、トーレスさんのお店からバジリスク・ジャイアントの皮製品を購入されたと思いますが、いかがでしょうか?」
「あのシルバーの綺麗なバッグですね。はい。主人にお願いして買っていただきましたわ。」
「あのバッグの意味はご存じでしょうか?」
「いいえ、主人が購入したものですから。何も告げられておりませんわ。」
「では、真の意味をお伝えいたします。
あのバッグの材料は私が討伐したもので、トーレスさんから見て、真に信頼に値する方に格安で購入していただき、そのバッグなどをパーティーなどで持っていらっしゃる方を見分けるものです。
しかしながら、おそらくバッグだけでは似たようなものを持っていらっしゃる方もお見えになられると思いますので、これをお付けいただいた方こそ、真に信頼できる方であり、皆さんの味方になる方であると見分けていただきたいのです。」
俺は、女性用の腕時計を2つ机の上に置く。
「これは綺麗な。時を刻むものですね。」
「はい。これも故郷で作られたものですが、数は出回っていません。これを着用することによって、味方を見分けてください。男性には懐中時計を渡すようにしております。」
俺は懐中時計を指さす。
「この時計はほぼ一点ものとお考え下さい。故障した際にはもう修理できませんが、ブレスレット感覚であれば着けているだけで良いと思います。」
「これを着用している人は、真の味方であるという事ですね。」
ユーリ様がニヤリと笑いながら時計を見る。
「その通りです。自分は貴族のお付き合いは分かりませんが、聞くところによれば凄いものだと聞き及んでおります。皆さまの身を守るものとしてお使いいただければと思います。
では、ユーリ様とティエラ様に時計をフィットさせますので、お着けいただいても良いですか?」
俺は両夫人の腕に時計をはめていただき、コマを調整した。
「これで、両夫人のお見方は今のところ他に2名いらっしゃることになりますが、トーレスさん、相違ございませんか?」
「はい。その通りです。」
「本日のパーティーでは、まだ時計はお渡ししておりませんが、今後その方を見つけお見方としてお付き合いいただければと思います。」
ユーリ様もティエラ様も腕時計と念珠をじっと見つめている。
思う所はあるのだろう。
おそらく、貴族社会は上下関係や親族関係その他もろもろとおどろおどろしいものなのだろう。
肉親との衝突もあるかもしれない。
信頼できる人物を見つけるというのは至難の業だ。
俺も何度も失敗した。その経験からのものだ。
「ニノマエ様、この策略はあなたの故郷で行われている見分け方ですか?」
ユーリ様が切り込んできた。
「いえ、これは自分の経験から得たものです。こう見えても自分は皆さまよりも多く齢をとっていますので。」
「いえ、ニノマエ様、それは齢をとっているとは言いませんわ。齢を重ねていると言いますのよ。」
「ありがとうございます。」
あとは普通の報告会となった。
大慰霊祭の入場料が金貨15枚を想定したが、皆の寄付もあり20枚となった事。
そのうち15枚を遺族にお渡し感謝された事。
5枚は街の壁を補強する事。
これからの広場での運営は教会が責任をもって行う事などを教えてもらった。
そろそろ、自分たちも着替えなければいけないため、館を失礼することにした。
「ニノマエ様、本日のパーティー楽しんでくださいね。」
「ニノマエ様、あなたにとって最良の日となりますことをお祈りいたします。」
何か歯に物がはさまったような言い方をされるが、まぁ気にしないでおこう。
トーレスさんと途中で別れて、宿屋に戻る。
「カズ様、やはり行きたくないですぅ…。」
今度はディートリヒがイヤイヤ病になっていた…。
「そんな事言わずに、美味しい料理も出ると思うよ。」
「ドレスを着て、バクバク食べている女性を男性がエスコートするとお思いですか?」
「え?エスコートって、俺がするんだと思っていたけど違うの?」
「パーティーの入り口まではそうですが、中に入ればバラバラで行動するものですよ。」
「あ、そうなの?んじゃ、俺と一緒に隅っこの方で料理食べていようよ。」
「はぁ、それも良いかもしれませんね。でも私はトーレスさんの広告塔ですから少しは動かないといけませんものね。」
ようやく決心してくれたようだ。
「ディートリヒ」
「カズ様、何でしょうか?」
「とても綺麗だよ。もし、他の男性から声がかかったらどうしようか…。」
「それは大丈夫です。私にはカズ様しかおりませんので。
それに何かしてきたら、これを出しますので。」
ディートリヒはドレスの裾をまくり、左足の紋様の部分に革ベルトで固定してあるナイフを見せた。
「これがあれば、私は大丈夫ですし、いざとなればカズ様もお守りいたしますよ。」
ディーさん、とても怖い顔で笑っていますよ…。
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