4-10 伯爵家パーティー①

 俺たちは徒歩で伯爵邸まで行く。

道すがら何台もの馬車が俺たちを追い越していく。

だんだんと足取りが重くなってきた。


「なぁ、ディートリヒ、なんか凄そうなんだけど…。」

「そう見えますね…。」


 この場で引き返し宿屋で大人しくしていようかと思っていた矢先、遠くから声がする。


「おーい!ニノマエさん!」


 この声は“炎戟”のミレアさんだ。

声がする方を見ると、可憐な花が3輪咲いている。

ミレアさんの他のメンバーも可愛らしいドレスを着こみ、こちらに歩いてくる。

馬子にも衣裳だ…ゲフンゲフン。


「ミレアさん!」

「おう!元気だったか?」

「はい。ミレアさんたちも?」

「おう!」


 こういった何気ない話が心地よい。

気心知れた仲間と会話することがこれほど楽しいとは、これまで思ったことは無かった。


「それにしても、皆さんお綺麗ですね。」

「ははは、よせやい。でもな、少しでも貴族様とお近づきになればと思えば窮屈な服でも我慢するもんだよ。」

「そうなんですか?」

「あぁ、そうだぞ。ここに居るマルセラもイフォンネもあわよくば玉の輿を狙おうとしてるからな。」


 “炎戟”のメンバーであるマルセラさんは火使いの魔法師さんで、イフォンネさんは回復師だったな…。

そのヒトたちが食事を求めて彷徨う肉食獣のような目をしている。

怖いですよ。そんなんじゃ、誰も寄り付きませんって…。


他愛の無い話をしながら、伯爵邸の入り口に到着。招待状を見せ中に入ると入り口までの庭が今日の会場のようで、皆大勢の人が集まり歓談をしている。

うおい!一体何名のヒトを招待してるんだ?これだけでも100名以上はいるぞ。

人の多さで酔ってしまうぞ…。


 サーバーからアペタイザーと飲み物を取り、炎戟のメンバーと話をする。

あ、ドワのメルヴィルさん…、既にお酒ガバガバ飲んでいらっしゃる…。


 そうこうしているうちに、トーストの時間となる。

お、伯爵だ。


「お集まりの皆さま、遠路はるばるお越しいただき感謝いたします。

先日、この街でスタンピードが発生しました。しかし、未曾有の災害ともいわれるスタンピードを街全体で守り抜き被害も最小限度に抑えることができました。

 支援をしていただいた方々にお礼申し上げたい。

 そして、スタンピードが終息し、新たな文化が生まれたことをここにお知らせする。

今日はその文化の一つであるものを紹介したく、このようなガーデンパーティーとさせていただいた。是非、この時間を満喫していただきたい。

 それでは、スタンピードが終息したことに、そして皆さんの健康を祝して乾杯!」


「乾杯(乾杯)!」


 近くの人たちと杯を重ねる。

俺はディートリヒと笑顔で杯を重ねた。


「それでは、皆さん新しい文化をご賞味ください。」


 伯爵の掛け声と共に、テントの中からジュワーという音と共に香ばしい香りが辺り一面に充満した。

そうだ。テントでお好み焼きを作っているんだ。

その鉄板にソースを焦がした匂いは、完全に大怪獣の君臨だ。


 皆、物珍しそうにテントに集まっている。

しかし、良いのか?貴族様たちが食するものが“お好み焼き”って…。

まぁ、ちがう料理もあるから別に良いのだが、目新しいものには皆集まるってことか。

そう思いながらディートリヒを見ると、何かソワソワしている。


「ディートリヒ、どうした?」

「カズ様、私もあの場所に並んでもよろしいでしょうか。」


あ、これまで作られてきた“お好み焼き”を堪能していないことを思い出した。


「いいよ。いっぱい食べておいで。」

「ありがとうございます。では行ってまいります。」


完全に肉食モードに入りました。

でも、ちゃんとトーレスさんの店の営業PRをお願いしますね。


 結局、俺はボッチになった。

何か表面上のお付き合いみたいな感じがするから、こういう場所はやはり苦手だな…。

なんて思いながら、一人端っこのテーブルでテントに押し寄せる人生劇場を見ている。


「失礼する。この隣の席は空いておるか?」


ん?誰か何か言ったか?と思い声の方を向くと、齢30くらいだろうか女性が一人立っている。


「あ、すみません。どうぞ。」


と俺は立ち席を移動しようとする。


「いや、そなたの隣の席に座りたいのじゃが…。」


なんか、変なしゃべり方だがこれが貴族なんだろう…。それに俺の隣に座って何をしたいんだ?


「あ、失礼いたしました。どうぞ空いておりますので。」


アヌーク・エーメに似た女性だ。綺麗な金髪で瞳はブラウン。うん。美人だ。こんな美人が何用?

一応、レディーファーストという言葉を思い出し、椅子を引き座ってもらうようエスコートする振りをする。


「そなたの名前は?」

「自分はニノマエと申します。しがない冒険者と商人です。」

「そうか、妾はメリアドールと申す。」

「メリアドール様ですか。よろしくお願いいたします。」

「それにしても、この人数は多いの。」

「そう思います。しかし、スタンピードが終息したという事実を公表するのには良い機会ではないかと思います。」

「そうじゃの。あの数のスタンピードを終息させたのだからな。それにこれだけの力がこの街にあったのかの?」

「この街のヒト全員で街を守ったという事実がある、それだけの事だと思います。」

「そのようには聞いてはおらんが…。

 まぁ、それはさておき、今回のソースとマヨネーゼという調味料であるが、あれの作り方をこれから公表すると言っておったが、それはそれで良いのかのう。この街の専売特許にすれば街も潤うと思うが。」

「それは領主様のお考えなのでしょう。すべてのヒトが食を通して笑顔になる。そんな思いを持たれているのではないかと思います。」

「あのバリーがか?」


あ、伯爵の名前、今思い出した。バリーさんって言うんだった。


「バリー伯爵もそうですが、奥方様のユーリ様、ティエラ様も素晴らしい方であると聞いております。先日の大慰霊祭もさることながら、おそらくご夫婦でお決めになられたのではないでしょうか。」

「そうか…、夫婦でのぅ…。」


メリアドールさんって言ったっけ?

何やら考え事をされているよ。


「妾の亭主は3年前の戦争で戦死しての。幸い子供たちも成人して家督を継いでもらったので、今はこうして遊び事を楽しむために一人でおるのじゃ。」

「悲しい事を思い出させてしまい、申し訳ありません。」

「良いのじゃ。それよりもニノマエと申したかの?ニノマエは姓であるか?」

「はい。ニノマエが姓でハジメが名でございます。皆からはイチとかカズとかと呼ばれております。」

「ほう、ハジメではないのか。」

「はい。ハジメですと呼びにくいというヒトも居りましたもので、呼びやすい名で呼んでいただきたいと思い、あ、それと冒険者の仲間からは“薬草おっさん”と呼ばれていますよ。」

「ははは、“薬草おっさん”とは。」

「まぁ、齢も50を過ぎていますので。」

「齢はそう関係ないがの。」


 うん。ハジメなんて呼ばせないよ。上司を思い出してしまうじゃないか…。

それにこのヒト、話術が凄いと感じるよ。これが貴族なんだろうな…。

いつもなら、すぐ終わる会話なのにいろんな話題で話を盛り上げる。話をしていて楽しい。


「そろそろかの?」


 ん?何か仰った?


「ご堪能された方もおみえになられますので、これより室内にて舞踏会を開催いたします。」


 え?舞踏会だって?

よくアニメとかで観てたみんなの前でクルクル踊るやつか?

そんなの踊れないから、まぁここに座っていればいいか。などと思っていたが、突如メリアドール様から声をかけられた。


「ニノマエ ハジメよ、普段であれば男性が女性をエスコートするのが常ではあるが、そちはこういった世界の腐りきった事情には疎いようじゃから、妾が最初のダンスの相手となることを拒否するのではないぞ。」


え?!俺、踊ったことないんですが…。これまでの世界では、若い頃マ〇ラジャとかに何度か行って踊ったことはあった(すみません。2回だけです。)けど、合間に入るチークタイムは、水分補給していたから、踊り方なんぞ分からんよ・・・。


「すみませんが、自分は踊ったことがございません…。」

「そうであろうの。しかし、これくらいの嗜みは必要じゃぞ。」


 と、手を取られ屋内に移動する。

さながらドナドナだ…。

俺たちを見て、周りのお貴族様たちからは、こそこそと言われる。


「カズよ。踊りなんてものはあって無いようなものじゃ。適当に身体を揺らしていればそれだけで何とかなるんじゃぞ。」


とは言っても、クルクル回るとかできないし、見ず知らずの女性の腰や手をサポートしながらなんてできるはずもありません…。

とにかく、ドレスを踏まないようにだけはしたよ…。

どんな音楽が流れてどんな風に踊ったのかは全く覚えてませんよ…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る