2-7 奴隷は買いません!①

 翌日、もう一度パーティーについて考える。

パーティーを選ぶか、奴隷とするか…。

ただ、奴隷については、まだ情報が足りない。


 踏ん切りがつかないんだ。

小心者である俺は、今一度自分の気持ちを確かめるために、トーレスさんのお店に向かった。


 奥の部屋に案内された俺は、頬をかきながらまだ迷っている話をトーレスさんに伝える。

トーレスさんは、俺の本心を察したかのように奴隷制度について説明してくれた。


「ニノマエ様、簡単に言えば奴隷は購入した者の所有物です。

ただし、所有者が奴隷に何をしても良い訳ではありません。先ず奴隷を食べさせていかなければなりませんので、奴隷を保有すること自体で余分なお金がかかります。また、年1回奴隷商を通じて奴隷税を支払う必要があります。

奴隷は所有者と契約した際、奴隷の身体に奴隷紋が魔法で付与されます。契約にもよりますが、主には主人を傷つけたり殺したりすることはできません。

また、そういった行為を行った奴隷は、奴隷紋を通じて強烈な痛みが与えられる仕組みになっています。お時間があるのなら、昨晩私が紹介したカルムの商館に行かれればどうですか。勿論、私の名前を出していただいても構いません。」


奴隷は所有者の所有物。何をしても良い訳ではなく、あくまで契約条項の中で取り決めされるって事だ。元の世界での契約に近いものなんだなぁと、ある意味すっきり。

トーレスさんにお礼を言い、紹介されたカルムの商館に向かうことにした。

勿論、トーレスさんには、商店で次に売ろうとしている新商品について、市場をリサーチした上で、どの客層をターゲットとするか宿題を出しておいた。


 道すがら、また考え事をしていた。

奴隷を商品として商売することは問題ではない。ちゃんとしたルールに従って商いしていれば問題ない。違法な奴隷を扱っている店もあるようだが、違法な奴隷ってのは何なんだろう。そのあたりも聞いてみようと思いながら街路を10分程歩くとトーレスから教えてもらった店の前に到着する。


店は小綺麗な構えで、如何にも奴隷を扱っているような暴〇団の事務所のような佇まいではなかった。

店のイメージってのは大切だな。しかし、店の前には、目印となる身長2mくらいのマッチョな体格で、いかにも「私は用心棒です!」と思わせる黒服の男が立っている。サングラスなんかかけさせたら、完全にボディガードだよ。まさしく、ここがトーレスさんが教えてくれた店だ。

 そういえば、元の世界で30年ほど前にマ〇ラジャって名前のディスコに行った時、店の前に黒服の男が立っていたけど、こいつ、そんな感じのやつだ。


とにかく顔が怖い。顔に刀傷は無いにせよ、メンチでも切られたら(睨まれたら)確実に縮み上がるくらい(どこが?)、「寄らば切る!」オーラが出ているよ。

用心棒か、ボディガードかは知らないが、情報を入手しなければ何も動かない。「考えるな、感じろ!」だ。俺はその男の前に立ち尋ねる。


「すまんが、この店はカルムさんの店か?トーレスさんから教えてもらったんだが、カルムさんと話したい。」

「あ″! お前誰だ?」(ヤバい、ちびりそう…。)

「トーレスさんの知り合いでニノマエってもんだ。」

「少し待ってろ、お館様に聞いてくる。」


黒服は俺を一瞥して店の中に入っていく。

程なくし、扉を開けた黒服は「入れ。」と一言言って俺を中に入れた。


店の中はアイボリーを基調とした落ち着いた雰囲気で、置いてあるソファやテーブルも趣味が良い。

俺は立ったまま、部屋の中をいろいろと見て回っていると、奥の扉が開き、一人の男が入ってきた。


「お待たせしました。私が当店主のカルムと申します。」


丁寧に自己紹介をされたので、こちらも返す。


「お忙しい中、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。初めまして。自分はニノマエ ハジメと言う者です。トーレスさんに奴隷について質問したら、こちらのお店を紹介されました。」

「先ずはお座りくださいませ。」


着席を勧められる。お互いが座った後、カルムさんが話し出す。


「ほう。トーレス氏から?彼が他人を紹介し、ここに人を寄越すなんて珍しい事ですな。」

「そうなんですか?」

「ははは。彼は、温厚そうに見えて、ああ見えて、なかなかしたたかな御仁ですからな。信頼できるに値する者しか自分の情報を渡しませんからね。」

「商人は信頼が命という事でしょうか。」

「そういう事です。我が店も同じですよ。信頼が第一です。」


と給仕が持ってきてくれたお茶を勧められながら話を続ける。


「で、貴方があのニノマエ様ですか。彼からいろいろとお話は聞かせていただいておりますよ。」


あ、カマかけられてた…。さっきはトーレス氏から?とか知らない振りしてましたよね。

トーレスさん、昨晩、飯の後にでも来たんだろうか…。


「いろいろな話というのは、少し不気味ですが…」


と頬をポリポリとかく。


「いえいえ。ニノマエ様は、おひとりでバジリスクを倒し、その素材を提供していただいたとか。

バジリスクの皮は大人気で、防具や財布、バッグに至るまで使われています。さらに骨や牙は武器やアクセサリーに加工されますからね。

しかし、バジリスクは凶暴な上、上位クラスの冒険者がパーティーを組んでようやく倒すか倒せないか…、それくらい強い魔獣です。そんな魔獣の素材をそう易々と採って来れるもんじゃないんです。今回、2頭分の材料を仕入れることができた彼は、もうウハウハなんでしょうな。」

「たまたま運が良かっただけですよ。」


謙遜するも、

「運も実力のうちとも言います。」

にこやかに切り返される。


少し歯がゆくなった俺は、話を変えることにする。


「ここに来たのは、奴隷というものを知りたかったためです。自分は遠くから来たため、この国や地方のルールというものには疎くて…。そんな中でも細々と冒険者みたいな事をしてきたんですが、ソロと言うんでしょうか、一人で依頼をこなすのがそろそろ限界に来ているようなので、仲間を探そうと思ったんです。

その際、奴隷というものも選択肢にいれて考えてみろ、と知り合いから言われたもので…。」


と、そんなアンニュイな動機で教えてもらえるものなのかと思いつつ、少しバツが悪そうに伝える。


「トーレス氏たっての事もありますし、お相手がニノマエ様ですからね。承りました。」


と微笑みながら、「そもそも奴隷とは・云々・・・」と、カルムは奴隷について俺の知りたい情報を説明してくれた。

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