5-15 ガールズトーク
翌朝、馬車の準備をして出発をする。
昨日の午後と同じような席順だ。
ただし、ディートリヒとナズナは満足しているし、ベアさんとエミネ母さんも腰のあたりが充実してる。
うん、青春だ。
その中で一人ムスッとしかめっ面をしているヒトが居る…、シーラさんだ。
でもギルドの評定官とか言ってたし、優秀なのは分かってはいるんだが、何故残念なヒトになってしまったんだろう…。
何か聞くのも野暮だから俺は狸寝入りを決め込み、そのままムスッとさせておこうと思ってた矢先、ルカさんが地雷を踏む。
「シーラさん、何で不機嫌なんですか?もしかしてニノマエのおっちゃんに振られた?」
うぉい!振ってもいないし振られてもいないぞ。
それに俺にはディートリヒとナズナが居るぞ。
それを聞いてシーラさんが堰を切ったように話し始める。
「聞いてください、ルカさん!
私はニノマエさんの事をギルドに来た時から凄いヒトだと感じていたんですよ。それなのに薬草採ってきては報告するだけ。また薬草採ってきて報告するだけっておかしくないですか?
私、それなりにルックスは良い方だと思うんですが、何が足りないんでしょうか?
それに、ニノマエさんがギルドに来るたびに女性が一人増え、また一人増え、そしたら今度はレルネさんですよ。そのうちハーレムできますよ。
女性にもてているのに、何で私には見向きもしないんですか?
何が足りないんですか?色気ですか?おっぱいですか?」
すでにハーレム状態なんですけど…。
それに、ガールズトークは当人が居ないところでやってください…。
たしかにルックスは、ズーイー・デシャネルに似てはいるけど…。
でも俺は色気とかおっぱいに興味を持ってはいませんので…。
「シーラよ。そちは何か勘違いをしているようじゃな。」
お!レルネさんが助け舟を出してくれるのか!
「イチはヒトの本心を見抜いておるのじゃ。」
え?俺そんな事ないです。ヤバい冷や汗が出てきた。
「そちが欲しいのはニノマエの何じゃ?」
「それは、ニノマエさん全部が欲しいです。私にだけ向いてほしいですし、ニノマエさんを独占したいって思います。」
「それは、イチを単にモノとして扱っているだけの事じゃ。
例えば、欲しい髪留めがあるとする。
その髪留めを買うまでは、その髪留めの事ばかり気に掛けるが、いざ買ってしまえばそれで満足してしまい、次のモノを探そうとする…、独占とはそういう反面も持っているんじゃ。
ヒトはモノではない。
ここに居るディートリヒもナズナも、イチをモノではなく、一人のヒトと認めておるのじゃ。
なぁ、そうじゃろ?」
「はい、カズ様は私を助けてくださいました。しかし、それに恩を着せることなく、私を伴侶として見てくださいます。結婚とも仰りましたが、私はそのような形式ばったものではなく、ずっと一緒に居たいと感じております。」
「私もお館様に助けていただきました。その御恩と仕事に生きていくと申し上げましたら、義務で行うものではなく自ら考え、自分の意志で動けと仰ってくださいました。それにプライドも仲間には必要無い、腹を割って話せば良いと…。そのようなお言葉を頂戴した方には終生誓いを立てると決めた次第です。」
うわ、なんか恥ずかしい。俺そんな事言ってたんだ…。
この場から逃げたい…。
「シーラよ。これで分かったかの?
そちとこの2人の心意気が全く違うんじゃよ。それにの、イチは2人でも3人でも10人でも、自分を許す奴であれば娶る心意気は持っとるぞ。なぁ、イチ。起きとるんじゃろ?」
この場で俺に振るか?
レルネさんめ、後で覚えてろよ。
「ん?大体は合ってますね。でも流石に10人はキツイですよ。
それよりもシーラさん。あなたは凄く優秀です。その優秀さ故に気づかないこともあるんです。
それは、相手に任せる事、委ねる事ですよ。
自分だけで切り抜けたとしても、その経験は他のヒトには蓄積されません。
他のヒトと経験を共有し仕事を任せられるヒトを育てることも重要なんです。
一人では生きていけません。
それを他人に任せ、信頼する。そういった事が必要だと思うんです。」
「信頼って、どうやって得るものなんですか?」
「難しい質問ですね。
信頼って、長い時間かけて築くものなんですよね。
でも、その信頼って脆いんですよ。
単に一つの言動で崩れることもあります。
そこですべておしまいにしてしまうのか、自分のプライドを捨てもう一度信頼を勝ち取ろうと足掻くのかは相手次第ですが、真に必要と思ったヒトであれば足掻かないといけないと思うんです。
そしてもう一度信頼をひとつひとつ得ていくことが必要だと思います。
自分はそういった意味で、ディートリヒには左側をナズナには右側を預けていけるんです。」
「でも裏切られることもあるんじゃないですか。」
「あるかもしれません。でも、もう一度初めから積みなおしていくんですよ。」
シーラさん、本気で考え込んでるよ。
それに、ヤハネの皆さんも真剣に考えている。
うん、青春だよね。
「イチよ。やはりお主はヒトの中で徳を積んできたのじゃな。」
ん?いきなり仏教用語か?徳なんて積んだことは無いぞ。
「自分は徳なんて積んでいませんよ。ヒトと接することが多かったから、それなりに経験を得たという事だと思います。
だけど自分は弱くて脆いことも知っています。だからその部分を彼女たちに助けてもらっているんですよ。」
「助ける、助け合う…。」
シーラさんが悩み始めた。
「んじゃ、少し角度を変えて話しますね。
護衛をまかせている“ヤハネの光”さんも、信頼が生まれているんですよね。だから、昨日のような戦闘形式ができるんですよ。
先ずはベアトリーチェさんが砲台となり魔法を撃つ、怯んだ相手に近接でバーンさんとブライオンさんが突っ込む。そのサポートをエミネさんがする。これが一人でも欠けてしまうと自分たちの戦闘スタイルが崩れてしまう…、結果死に至ることもあるんです。
だから、バジリスクの襲来の時、バーンさんとブライオンさんはベアトリーチェさんとエミネさんの傍を離れなかった。おそらく死ぬときは一緒に…と思っていたのでしょうね。
そこまで相手を信頼し、思うことができるかという事なんです。ね、エミネさん。」
俺はエミネ母さんに振ってみた。
エミネさんは御者席で声を震わせて泣いている。
「あの時は何故このヒトは逃げないのかって思っていましたが、心のどこかで一緒に死ねれば本望だとも思っていました…。」
「はい。その光景を見て、自分は羨ましいと思いましたよ。」
「え、羨ましい?」
「はい。自分はあの時一人でした。
あの時、バジリスクが来た時、石化したお二方の足元で守ろうとしているバーンさんとブライオンさんは、なんて凛々しいんだろうと思いました。
そこまで信頼されているヒトを自分も探そうとしました。
幸い、自分はディートリヒとナズナを見つけることができました。
それにもっと増えるかもしれませんが、そのヒトとも信頼が生まれれば、この二人と同じようになると思います。」
少し話を盛ってみた…。
「ニノマエさん…、俺たち恥ずかしい事だけど、これまでは幼馴染の関係だけだったんだ。
あの時ニノマエさんに助けてもらって初めて仲間という意識を持てたと思っているよ…。」
お、ブライオンさん、久しぶりに声を聞いたよ。
「ね、シーラさん。これが信頼って言うんだ。
その信頼が生まれれば、愛情も生まれるんだよ。」
あ、地雷踏んだか?と思うが、ヤハネのメンバーは感づいていなかった…。良かった…。
「久しぶりに良い話が聞けたの、ルカ。そちもこれくらい懐の大きい奴を見つけないといけないの。」
「はいはーい。でも、私はまだまだひよっこですから、これからですよ。」
「ふふふ。それもそうじゃの。で、シーラよ。何か自分の中に残った事はあったかの?」
シーラさんは少し考えて笑顔で言う。
「はい。やっぱりニノマエさんが好きだという事が分かりました。
あ、でも安心してください。今すぐという事ではなく、先ずはディートリヒさんとナズナさんを落としてから本丸を攻め落とします!見ててくださいね、ニノマエ様!
必ずや私の手中に…、むふぅ!」
シーラさん…、もしかして脳筋だった?
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