5-16 スタック

 そんなガールズトークがいつの間にか説教に変わり、人生相談となっていたが、シーラさん以外は妙に納得している。

 昼食も駅舎で済まし、少し経つと目の前に湖が見えてきた。


「おぉ、デカいな…。」


 大きな湖が辺り一面に広がっている。

どうやら湖の周辺に街道が設置されているようで、湖の北側の街道を通ってレルネさんの郷まで行くようだ。


「レルネ様、あとどれくらいで着くのかい?」

「早ければ一日…、じゃが夜は魔物が出るので動くのは危険じゃ。

今晩は野営して明日の昼頃に到着くらいが良いかの。」


 ここまでスムーズに移動しているので1日余裕が出るって感じか…。

みんなと一緒に来て良かった。そう思いながら風景を見ている。


「ニノマエさん、前に人だかりが出来てる。」

「ナズナ、先に行って見てきてくれるか?」

「はい、お館様。」


 ナズナは、走っている馬車を飛び降り走っていく。

もしかしたら、ナズナは馬よりも早く走ることができるんじゃないか?など思いながら、馬車はゆっくりと速度を落としていく。

 程なくして、ヒトだかりができている場所まで到着する。

ナズナも同時に返ってきて報告する。


「お館様、どうやらこの先に大きな魔物が出没し、旅人を襲うといった案件が数件報告されたようで、領主からはこの道を封鎖するとのお達しが出ているようです。」

「ん?という事は通行できないって事になるのか?」

「はい。因みに湖の反対側の街道を通りますと、大回りになり最短でも8日かかるそうです。」

「そりゃ困るな…。レルネ様も一刻も早く郷に行きたいだろうし…。」


 俺は馬車を降り、人だかりの中を歩いていく。

そうすると立て看板がある。


「すまん。ディートリヒ、何て書いてあるんだ。」

「はい。『ここから先、大型魔物の出没が確認されている。被害も尋常であり現在冒険者ギルドに依頼している。命の保証もないため、なるべくこの道を通らないことを推奨する。 ヴォルテス・アドフォード』とありますね。」


 ん?ヴォルテス・アドフォード?

どこかで聞いた名前だな…。


「なぁ、ディートリヒ、ヴォルテス・アドフォードって、あのヴォルテス様か?」

「その通りです。ここはアドフォード侯爵領です。」

「そうか…。伯爵とお隣さんだったんだ…。」


若い領主が領民のために踏ん張っているんだな~、なんて考えていると、ナズナが傍にやってきて耳打ちする。


「お館様、どうやら魔物は湖で生息している龍種のようです。」

「龍?」

「いえ、龍そのものではなく龍の派生と言いますか、龍に似た魔物です。」

「それってどんな魔物なの?」

「実際に見てみないと分かりませんので…。」


 そうか…龍種か…、一度見てみたいな。


「カズ様、『命の保証もないため、なるべくこの道を通らないように』という事は、命の保証があれば道を通っても良いという事ですよね。」


まぁ、その通りです。

ですがディートリヒさん、それは詭弁ですよ。どんな魔物かも分からないんですから、命の保証はされません。


「幸い、カズ様以外にもレルネ様、ルカさんといった結界を張れる方が三名いらっしゃるのであれば問題はないのではないでしょうか?」

「そりゃそうだけど、俺たちが馬車でこの道を行こうとすると、みんな付いてくるぞ。そのヒト達まで守ることはできないけど…。

 なぁ、こういう時ギルドはどう対応するんだ?」


 俺は馬車まで戻り、シーラさんに状況を伝えた。

シーラさんは少し考え、二つの提案をする。


「ニノマエ様、ギルド職員として考えられるのは2つございます。

一つ目は討伐体を編成し、その魔物を討伐すること。おそらくこの領内では既に募集がかけられているので討伐されるまで待つという事になります。

 二つ目は、ここに居るヒトでキャラバンを組んで通ること。

 多少の犠牲は覚悟の上で通るという事です。」


 それ誰かが犠牲になるって事だよね…。


「イチよ。もう一つ策があるぞ。」


 レルネさんが馬車から顔を出しニヤリと笑いながら話す。


「ここに居る者で、できればスカウトか隠密を持った者を同行させ、儂らの馬車が先行する。

 儂らの馬車が安全に通り過ぎることができれば、その者をこの場に戻させ安全を報告する。

 どうよ。良い策じゃろ。」

「確かに良くは思えますが、たまたま襲われなかったという可能性もありますね。そうすると、後からきた馬車が襲われますね…。」

「魔物も気まぐれじゃからの。しかし、イチが前に言っておった自分の縄張りを犯す者が入って来たら攻撃するのであれば、何故水の中に生きている魔物が街道を襲うのかの?」

「考えうる事は、湖の中の生態系が変わって来たという事ですかね。」

「そう言えば、昔大きな生き物が水の中で生活しておって、数百年に一度腹が減って起きるという事を聞いたことがあるの。」

「分かりませんが、そういった可能性もあるという事です。

いずれにせよ、大型の魔物がどれくらいなのかも分かりませんし、このまま指をくわえて待っていても仕方がないので、レルネ様の提案に乗っかりましょう。

幸い自分たちは3人結界が張れますからね。」

 

 俺たちは、ヒトだかりに行き、スカウトや斥候の職業のヒトがいるか確認する。

男性1名、女性2名が該当したため、そのヒトを大銀貨3枚で一時的に雇い、魔物が討伐でき安全であること、最悪な場合、俺たちの馬車が襲われ全滅したことを、この場所に戻って報告してほしいとの依頼をした。

3名とも追加報酬の額が大きいことから二つ返事で了解をもらった。

 

 街道を馬車がゆっくりと通る…。

波打つ音や鳥の鳴き声などのどかに感じるが、索敵をかける俺とナズナは集中している。

嵐の前の静けさのようだ…。でも何事も起きない。

 たまたま良かっただけなのかもしれないが後続がやられると心に残るんだよな。

なんかスッキリしない。


「お館様、湖の中心あたりで動きがあります。」

「うん。すごい数がやってくるな。何だろうな。

 皆、注意して。馬車を湖と反対側に退避させてください。

 レルネ様とルカさんは馬車に結界を、それと斥候の3名もその中に入って。」


 俺は指示を続ける。


「ヤハネの皆さんは馬車の前で陣取り防御を。

 俺とディートリヒ、ナズナで前に行き一撃入れます。

 撃ち漏らした魔物の掃討をお願いします。

 ディートリヒは俺の攻撃の後、剣撃をできるだけ多く出して討伐。

ナズナは水から出た魔物の首を。」

「分かりました。」


 索敵にかかった魔物は湖に近いほうから数十匹、その後にデカい嫌な感覚が一匹。

久しぶりに感じるこのドロ~とした嫌な感覚がする。

バジリスクと同じような感覚だが、少し大きいような…。

嫌な感覚に飲み込まれそうになりながらも、もう少しディートリヒとナズナに指示する。


「最初は小物が数十匹。そこに魔銃50%で2発範囲攻撃する。

ディートリヒは撃ち漏らした奴に剣撃を。

 ナズナは状況を見て、陸に上がる奴から掃討。

 それでも手が足りない場合はヤハネに任せる。

 その後デカい奴が一体来る。

そこにフリーズを撃ちこみ凍結させ魔法を連発、ディートリヒも合わせて剣撃を。

状況を見ていけそうだったら、ナズナが首を。

 それでもダメだったらインドラを放つ。

 それでいくぞ。」

「カズ様、インドラは弱めにお願いしますね。そうしないと湖が干上がってしまいますから。」


 こんな時冗談を言って緊張をほぐしてくれるディートリヒ…、愛してるよ。


「そうだな。半分、いや3分の1くらいで行こうかね?」

「そうですね。」

「んじゃ、ディートリヒ、ナズナ、それじゃ行きますか!」


 俺の掛け声で3人の周りに淡い光が集まり、そして消えていく。

よし!バフ成功!


「ディートリヒ、ナズナ。ヤバいと思ったら引け、後は俺に任せろ!

 それと、二人とも愛してるぞ。」

「はい(はい)。」


 二人が笑顔になる。誰も死なせやしない。

さて、俺のマナが続く限りいきますか。

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