6-2 必要不可欠なモノとは…

「売れるとは思うが、このままでは売れないよ。」


「え(え!)、それは何故ですか?」

「これは、俺が居た世界から持ち込んだものだ。

 この中には、この世界で作られていないものがたくさんある。

 例えばこの生地。これはこの世界ではまだまだ作られない素材だ。

 それにこのビヨンビヨンする紐、これも作られていない。」


 そうなんだよな…、レーヨンとかゴムとか見たこともないし、そもそもこの産業レベルに石油なんかあるはずもない…。まだまだ先の話だ。

そんな先の産業を見せて売ったところで、すぐに廃れてしまう。


では、どうするか?

この世界に存在するもので作るしかない。


「だから、これをこの世界にあるもので作って売る!でも、大問題があるんだよ。」

「それは何ですか?」

「この縫製、ヒトの手で出来ると思うか?」

「これは規則的な縫い方ですね。これをヒトが縫っているのであれば、凄い技術を持った方ですね。」

「そうなんだよ。これはヒトでは縫う事ができないんだ…。

 でも、一台機械を持ってこれば縫うことは可能だと思う。」

「機械ですか?魔道具ではなく?」

「そう。ヒトが動かす機械を持ってくる必要がある。そして、その機会をこの世界で作る。

その為には…、うーん。先ずは機械を持ってきて、その機械を分解し、その部品を一個一個作り、組み立てるといった膨大な作業が必要であり、その作業ができるのがドワーフ族だと思う。

さらに、二人がつけている部分にヒラヒラしているのがあるだろ。それは“レース”と言って、女性を綺麗に見せるための布だ。その布を作ることができるのがエルフ族だと思う。」

「カズ様、そこまで大がかりなものになるんですね。」

「そうだよ。それに、布地を作る作業も、その布を染める作業も必要だね。

布を織る事はできると思うし、染めることもできるから、後はその布を如何に入手し、加工し、縫製していく場所、つまり工場を建てることになるかな。」


 俺は、彼女たちの髪を撫でながら話す。

うん。つるつるだ。綺麗な髪だよな…。

、と俺の頭にもう一つ浮かぶ。


「あ、それと石鹸の事忘れてたよ。それとシャンプーとリンス。

 これは売れるかい?」

「お館様、あれは凄い商品となります。今まで私の髪はどうやってもまとまらなかったのですが、あれを使わせていただいてからは、髪の質が変わったように思えます。」

「確か、王都のサボーが銀貨10枚だっけ?」

「はい。」

「灰の手配も何とかなりそうだし、一度ユーリ様と話す必要があるかな。」

「そうですね。王族の手法と同じでなければ良いのですが…。」

「あ、それは大丈夫だと思うよ。何せ、俺たちは王族の手法が何か知らないから。

 もし、製法が同じでも灰を加工して作ってるって言えば文句は言えないと思うな。」

「はい。では、少しその方向で動きましょう。」

「そうだね。それと石鹸とシャンプー、リンスを作るにも、今度は調合をしなくちゃいけないから、レルネさんのような調合ができるヒトに頼む必要があるかな。

 あとは、売り出す際、店を任せられる人も必要になってくるね。」


「カズ様には、それが何人くらい必要なのか頭の中におありなんですね。」

「おぼろげながらだけどね。

石鹸であれば作るのに3,4人と調合師が1人、店員で2名の7名くらいで出来るね。ただ、シャンプーとリンスまで作るとなれば、さらに追加で8人、計15人は必要になるかな。

それと、下着を作るなら、生地の精製、型取り・裁断、縫製、組み立てと少なく見積もっても、6,7名は必要となるよ。」

「あ、あの…、お館様…。それだけ大勢の人を娶られるという事でしょうか…。」

「あ、ははは。ナズナ、違うよ。これらのヒトを雇うんだよ。」

「しかし、製法などを盗まれる可能性もあると思いますが…。」

「あ、製法ね。別に盗まれても良いんじゃないかな?

 いろんな人が切磋琢磨してより良い商品を作っていく事ができれば、皆喜ぶんじゃない?」

「カズ様は、本当に欲がないのですね。」

「え、だって、俺はもうディートリヒとナズナという素晴らしい女性を手に入れてるんだよ。

これ以上欲を出したら、神様に叱られるよ。」

「しかし、複数の女性がお館様の前に現れるという事でした。」

「あ、そうだった…。でも、そのヒトがどうかは、ディートリヒとナズナの目で見て欲しいからね。」

「はい(はい)。」


「それはそうと、カズ様、わ、私たちの下着姿は、その…、そそられないのでしょうか。」

「ん?下着姿は凄く綺麗だけど、そそるというものではないけど…。」

「では、そういった下着も欲しいのですが…。」

「それはどういう事?」

「はい。やはり愛し合うという事には、その場の環境というものも必要かと思います。確か伯爵様の奥方様は伯爵がベッドに来て、腰を動かして果てておしまい、という些末なものだと嘆いておられましたので、もし、こういった下着でもあれば、伯爵様であってももう少し奥方様を愛していただくようになるのではないかと思いまして。」


ディーさんや、他人の情事をあからさまに言うもんじゃありませんよ…。

ただ、そういった相談を受けているという事は、この世界のあれは醸成していないって事になる。

そう言えばザックさんのところの遊郭はどんなだろうね。


「聞いてはいけない部分もあったかとは思うけど、女性がされるがままってのもいけないし、男性が腰動かして自己満足だけするってのも何か変だね。」

「はい。ですので、私は愛する方法を奥方様にお伝えしております。」

「へ?もしかして、俺とディートリヒ、ナズナの事を話しているって事?」

「いえ、ナズナとの事は話しておりません。

 専ら話すのは、私とカズ様がどのように愛しているのかという事を…。」

「ディーさんや…。」

「はい。何でしょうか?」

「俺、もう伯爵家に行けないよ…。」


 顔を真っ赤にして言うが、ディートリヒはきょとんとしている。


「え、何故ですか?」

「だって、行けばそのような事をディートリヒとしているって想像されるじゃないか。」

「ええ。そうですね。でもよろしいのではありませんか。」

「何故?」

「私たちは、お互いが満足して愛し合っているのですよ。他の方々とは大違いなのです。

そんな目で見られるなら、伯爵さまと奥方様がお互いが満足できる愛し方をしてみてください、と思えば良いのです。」

 

「ディートリヒ、君は強くなったね。」

「はい。これもカズ様のお陰です。ね、ナズナ。」

「はい。私もお館様と愛し合っている悦びは甘美なものですから。」


二人とも凄い笑顔です…。


「分かりました…。

どんなものがあるのか分からないし、それにサイズもまちまちだから、3種類でそういったものを見繕ってきます…。」

「是非、お願いします。」

「だけど、これまでの世界で持ってきたモノは使う場所と渡す人は限定するよ。

そうしないととんでもないことになるかもしれないから。」


 下着を販売するとなると、そういった相談は来ると思う。

だから、少しずつ作っていくのもいいかもしれない。

ただ、それを俺が作る訳にはいかない。だれか信頼できるヒトを見つけ、そのヒトに託すことになる。


 ふと、ザックさんの事を思い出した。


「ナズナ。申し訳ないが、ナズナの足で郷までに行くと、往復でどれくらいでいける?」

「そうですね。行きは一日、帰りはコカっちに頼めますので、最短で1日半というところでしょうか。」


 うお、そんなに早く行けるんだ…。どれだけ早いんだよ。


「すまないが、2日で二か所寄ってきてもらいたい。

 ディートリヒ、すまないが手紙を書いてくれないか。

 一か所目はあの色街のザックさん。

 ザックさんに、今ナズナとディートリヒが付けられない下着を持って行ってもらいたい。

それを遊郭の女性でサイズが合う人に付けてもらい、感想を聞いてほしい事。

ただしザックさんには遊郭のみで使用し、口外しないこと。

それと、遊郭でもさっきディートリヒが言ったような男を誘うような下着のようなものが欲しいかどうか、欲しいのであれば、デッサンしてほしい。ただ、デッサンは時間がかかると思うから、ザックさんがここに来る1か月後に持ってきてもらいたい。

 そして、この話に興味があるヒトが何人くらいいるか。

 二か所目は、郷のレルヌさんとベルタさん、こちらは連名でいいよ。

 これから事業を進めていくにあたり、俺のところで調合師が必要となった事。

作るのは肌用の石鹸と髪用の石鹸、それに見合う匂いやヒトの健康を害しない薬草に通じているヒトが居れば俺の所で住み込みでも構わないので働かせたい。良い返答をお願いしたい。

 こんな内容で書いてほしい。

 ナズナ、帰って来たばかりで申し訳ないけど、もう一度郷まで行ってくれるかい?」


「お館様、私はお館様に使えることができて幸せです。

そのような大切な事を任せていたけるだけでなく、本当に信頼して愛していただいている事を身に染みて感じます。

 ディートリヒさん、2日間、お館様をよろしくお願いします。

 それと、あの…、帰ってきましたら、今度は私だけを愛してくださる時間をいただければ…。」


 うおい!こんな時に下着姿でそんな事を言うもんじゃありません。


「ナズナさん、そうですね。これからいろいろと調整していきましょう。」


 おい…、ディーさん、何を調整するんですか…。

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