8-19 研修会
「ここにミスリル製のアクセサリーがあります。
スティナ様であれば、ネックレスがよろしいでしょうね。
あとはソフィア様はイアリングでしょうか。
そこに付与魔法をかけましょうか?」
「ほう、そんなすごい芸当もカズはできるのか。」
「できると言えばできます。」
「ではそれらをいただくとするかの。
で、いくらになるか。」
「原価が大銀貨8枚です。それに付与魔法をかけていきますので、付与魔法一つにつき大銀貨5枚にしますか。ただし、付与は2個までです。」
昨日調子にのって3つ付けようとしたら壊れちゃったからね。
「よし。では、妾にも指輪を。そうさの、スティナのネックレスには精神安定と体力向上、ソフィアのイヤリングには精神安定とマナ増強を。
妾の指輪には健康増進と愛情増幅ではどうじゃ。」
「愛情と言うのは母性という事で良いですか?」
「何を言うか、異性との愛じゃ愛!妾も愛に生きるのじゃ。」
「それは、病気を完治なさってからでお願いしますが、鑑定でもされた時には、恥ずかしいことになりますよ。」
「うぅ…、それはいかんの。では何が良いかの。」
「慈愛というものであれば問題ないかと。」
「そうか、ではそれでいこうかの。では、これとこれとこれで頼む。代金はこれで。」
メリアドールさんは金貨2枚を出す。
「流石に多すぎですよ。」
「いや、そんな事はないぞ。これで会談は終わり故、あとは何ももらえなかったメイドどもが騒ぎ立てるじゃろうて。その者へネックレスを渡してやろうと思っての。ただし付与は要らぬ。」
「メリアドール様、慈愛は必要ございませんね。」
「ふふ、すべてカズのおかげじゃ。礼を言うぞ。」
「こちらこそ、有意義な交渉をさせていただきました。ヴォルテスさんも今後ともよろしくお願いしますね。」
「はい、師匠!
あの…、ひとつ良いでしょうか…、俺には何も無いのですか?」
基本、野郎はスルーだよ。
「ヴォルテスさん、男はモノよりも大切なモノがあるんですよ。
・・・
それは人脈です。人脈に勝る宝はないんです。」
「そうか!師匠は私に人脈と交渉術という2つの贈り物をしていただけたわけですね。
ふふふ、これでソフィアに負けないぞ。」
モノの数で決めるなんて、まだまだ若いね。
でも仲の良いお二人だね。
メイドさんも帰って来た。ディートリヒたちは…、疲れた顔だ。
後でよしよししてあげるからね。
「さて、どうでしたか?」
「はい。ニノマエ様、これは今までのものとは比べ物にならないくらい、素晴らしいものです!」
「その、私は“すぽおつぶら”というものを付けましたが、非常に動きやすいです。」
「はい。胸も邪魔になりません。」
Lサイズのヒトだね。
着れなかった10数名は羨望の眼差しだよ…。
メイド長さんがふんすかしながらヴォルテスさんに物申すようだ。
「ヴォルテス様、この石鹸と下着を当館のメイド全員に配備していただければ、私どもも仕事に張りが出るというものです。伏して配備をお願いいたします。」
「お願いいたします(((((お願いいたします)))))。」
「ふーむ。考える余地はあるな。で、ししょ…、ニノマエ様、いくらで売る予定ですか。」
「はい。先ずは貴族を相手に売り出しますので、価格は高く設定いたします。」
メイドさんズ、がっかりしている。
そうだよね。でも、ヴォルテスさんがちゃんと助け船を出してくれるから安心してね。
「ほう。貴族相手にか。
しかし、その貴族にどのように広めていくのか。」
うん、良いところに持ってきたね。
「えぇ、問題はそこです。シェルフールでは伯爵家の皆さまが広めていただけることとなっておりますが、ビーイの街、さらには王都まで、となりますとなかなか難しくなります。
故に、アドフォード家のお力をお借りできればと思っております。」
「そうか、その件了解した。
然るべき価格で買うことにし、家族は勿論、当館の侍女どもにも着させることとする。
しかし、アドフォード家が出ていくとなれば、他の店舗と同じ扱いをしなくてはならぬな。
となれば、独占販売という提案ではなく、製法特許権のみで終わらせることは可能か。勿論、ガーターベルトも同じであるが…。」
とりあえず、考えるふりをする。
「分かりました。ヴォルテス公爵がそのように仰って頂けるのであれば安泰です。
すべて製法をしたためた上で、特許といたします。」
「うむ。双方ともに有意義な面会であったな。
ししょ…、ニノマエ様、今後ともよしなに頼む。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
俺はお辞儀をし、ヴォルテスさんに向けサムズアップをした。
「カズよ、妾も満足しているぞ。
さて、交渉事はおしまいじゃ。
皆よ、ここからは無礼講じゃ、忌憚のない意見をニノマエ氏に伝えてほしい。」
・
・
・
そこからは大研修会だった。
面会会場の中央に衝立を置き、こちらでは髪を洗う研修会、あちらでは下着の試着会が始まっている。
俺も最初に髪を洗う手ほどきをし、後は一人ずつ研修という名目で髪を洗っている。
皆、とろんとした顔で髪の毛を洗ってもらっている。
向こうでは、キャーキャー言いながら下着をつけているんだろう。
その声を聞きながら俺は3人のアクセサリーに付与魔法をかける。
その所作を見ているソフィアさんが寄って来た。
「ニノマエ様の魔法は、他の魔導師の魔法と全く異なるものですね。」
「お、ソフィアさんか…。そうなんだ。だから教えることが出来る者と出来ない者に分かれるんだ。」
「その違いは、詠唱なのでしょうか。」
「そうだ。ソフィアさんもそうだが、詠唱を行うことによって紋様を作り出し、その紋様から撃ち出すというのが魔導師さんの魔法だと思うが違うかい?」
「その通りです。紋様に文字を描くというイメージです。それを詠唱という方法で描いていきます。」
「俺の魔法は、その紋様というものをイメージしない。つまり無詠唱という事になるね。」
「そのような事ができるヒトを見たことがありません。」
「いや、ここに居ますが…。」
「それと、お湯や温かい風を出すという魔法は複合魔法になるのでしょうか。」
「うん…、そこはよく分からないが、イメージとしてはそうなるね。」
「カズよ、何を話しておるのじゃ。」
「あ、メリアドール様、お身体は大丈夫でしょうか。」
「何度も聞くな。疲れたなら、とっとと部屋に籠っとるわ。
それにしても、皆良い笑顔じゃの。」
「はい、この笑顔を多くのヒトに味わってもらいたいですね。」
「ふふ、カズは帝王学を熟知しているようじゃの。」
「そんな学問があることは知りませんし、習ってもいませんよ。
『最大多数の最大幸福』が良いと思います。」
「ふふふ、そうか。やはりカズは違う観点で物事を考えておるのじゃな。」
「そんなことはありませんよ。
あ、メリアドール様、ひとつご質問があります。
メリアドール様が氷の魔法を撃たれるとき、どのような詠唱をされるのですか?」
「ん?詠唱とな?そう言えば、そんな詠唱のようなものを言った覚えがないがの?」
はい。このヒト創造魔法いけます!
俺と同じイメージで魔法を作れるヒトだ。
「メリアドール様、もう一度魔法を習ってみたいとは思いませんか。」
「そうじゃの。こやつらが一人前になってくれると良いのだがの。」
「そうですね。メリアドール様は逸材ですが、お子様を一人前にするという責務もありますからね。」
「カズよ、それは求婚と見てよいのか。」
「なんで求婚になるんですか。それに俺は4人も居るんですよ。」
「なに、強い男には女が集まるものじゃ。
して、魔法がどうのとか言うておったが…。」
俺は、マナの感じ方を教え、どれくらいの水と火を加えればお湯ができるのか、どれくらいの風に火を加えると温風が出るのかをイメージし、練習しておくと良いとアドバイスした。
何度目かのトライ後に、それは出来るようになった。
「メリアドール様、出来ましたね。」
「うむ、できたの。
しかし、問題があるのじゃが…。」
「それは何でしょうか。」
「妾ができても、妾の髪を乾かしてくれる侍女がおらぬ…。」
あ、そこまで考えていなかった…。
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