6-13 ダンジョン研修

 いつもどおり3時間半かけてダンジョンに行く。

その間、森の中で薬草を採取しながら進むのだが、スピネルさんの鑑定が思うような結果が得られない。

まだまだ経験不足という事なのか、それとも違う鑑定が得意なのか…。

思案しながら、ダンジョンに到着する。


「さて、何階層が適当か…。

俺的には、オークくらいを相手にして実力を見てみるのが良いと思うが、肉ゲットよりは素材をゲットした方が効率的ではあると思うが…。」

「そうですね。

 では第11階層を中心に、行けるなら第12階層の素材集めですか。」

「出来れば17階層のアラクネの糸やシルクの糸を多く集めておきたいところだけど、それ以外の素材…、例えば楮や綿、そういったものも下着を作るには必要だな。あと石鹸の材料となる石灰などもたくさん必要になる。」

 

「あ、あの…、ニノマエ様…。」

「どうした、スピネルさん?」

「はい。その石鹸というものは、あの貴族が使っているというものですか?」

「あぁ。ただし、どんな製法で作られているか分からないから、自分が知っている知識でなんとかならないか試行しないといけないんだ。」

「そうですか。灰を使って髪の毛を洗うんですよね。あれを凝固できるものが石鹸という事になるんでしょうかね。」

「ん?スピネルさんは、そういった本とかを読んだことがあるのかい?」

「本というモノはありませんでしたが、そういった話を聞くのが好きでした。」


 あ、この子、もしかしてリケジョ?エルフのような調合師とか錬金術師にあこがれている?


「スピネルさん、もしかしてだけど、君は冒険者よりも家で何かを作ったりしている方が好きなんじゃないか?」

「え!?あ…。ハイ…。できれば、そういった方が私には向いているような気がします。」


 そうか。無理に冒険者にならなくても良かったんだな。

じゃ、ベリルさんが冒険者で俺たちのパーティーに参加し、スピネルさんが家で研究すれば良いのか…。

そうすると、今日必要な素材は先ずは石鹸か。

灰と岩塩、消石灰、そして油か…。油は市場にもあるし、これまでに使った油もあるよな。


「ディートリヒ、ナズナ、ベリル、予定変更だ。

先ずは、8階層で岩塩、石灰を中心に採取する。ベリルはゴーレム相手にどこまで耐えれるか見せて欲しい。スピネルは採取スキルと鑑定スキルを駆使し、岩塩、石灰を採取してほしい。

 俺の魔法は使わないので、どこまでできるのかを見せてほしい。」

「分かりました。では第5階層から一気に第8階層に行きます。みなさんついてきてください。」


 俺たちは5階層から一気に8階層に来た。


「ここが第8階層だ。御覧の通りの山岳地帯。この中から岩塩と石灰石を探す。探すのはスピネルが中心となってくれ。その間、3人はスピネルを守りながら周囲を警戒。可能ならゴーレムをベリルに当てるようナズナが誘導してくれ。それで一度状況を見よう。」

「はい(((はい)))。」

 

 山岳地帯を歩いていく。

 俺も一応鑑定をかけながら歩いていく。

うん。今のところスピネルさんの鑑定も働いているようだ。


「あ、石灰石がありました。」


 うん。塊を見つけたね。

その塊の下にあるモノも見つけているかな。


「それをどうやって採石するのかな。」

「えぇと、ピッケルのようなもので掘り出すのが一番かと思います。」

「普通ならそれが正解だけど、自分たちは少し違うんだ。見てて。」


 俺は、ウル〇ラ水流でその部分だけをカットする。

そしてその塊だけを削り出した。


「ニノマエ様、すごいです。こんな簡単に採掘できるのですか?」

「これは、あくまでも一つの方法なだけだよ。それよりも鑑定がおろそかになっていないか?」

「は、はい。そうでした。すみません。

 あ…、この下にも大きな石灰石の塊がありますね。」

「うん。そうだね。ではこれも削り取ろうか。」

「お願いします。」


 石灰石の採掘が終わる。

岩塩も採れている。やはり彼女は戦闘向けではない。


 一方、ベリルはというと、ゴーレムを完全に抑え込んでいる。

ラウンドシールドで相手の攻撃をいなしながら関節を攻撃している。

戦闘の方はまだ雑だが及第点だ。

後は恐怖に勝てるか否か…、これに勝てないとタンクはできない。

そこまで追い詰める必要があるか…。


 ゴーレムとの戦闘を見ながら、ディートリヒに聞く。


「なぁ、盾役は一気に敵の注意を自分に集め、攻撃を受けるんだよな。

 そうすると、100体いたらその敵が襲ってくるんだよな…。

 耐えられると思うか?」

「普通でしたら、“ヘイト”と同時に“アイアンウィル”も取得するんですが、ベリルさんは取得していません。その替わりに“鉄壁”というスキルを取得しているのですが、鉄壁は自分を守るスキル…、盾役よりももっと防御に徹した、そうですね。守備兵などが持つスキルになります。」

「そういう事か…。

さっき、スピネルが自分のスキルが戦闘スキルに特化していないからベリルも一緒に追い出されたって、何でかな?って思っていたんだが、別に戦闘スキルさえ備わっていれば追い出される必要はなかったんだよな。という事はベリルも戦闘集団には使えなかったとうい事なのか…。」

「おそらくはそうでしょうね。」

「“アイアンウィル”のスキルが付けばいいけどな…。」

「多分、今のままではつかないでしょう。」

「では、付くように仕向けるのか?」

「ナズナの時のような事をしますか?」

「正直迷ってる。

彼女たちは、まだ自分がどこまでできるのかを知らない。それが分からないと一歩前に進めないと思う。だからスピネルが倒された…、そのことにベリルが自ら気づかないと…。

 でも、辛い事になるかもしれないぞ。それでも教えるのか?」

「カズ様はもうお決めになっていらっしゃるのですよね。

おそらく、スピネルさんは採取、鑑定の能力を活かした方向で、そしてベリルさんは、私たちの最前列で注意を引き、私とナズナの攻撃がしやすいようにするのでしょう。

 そして、カズ様はダンジョンでの活動を私たちに任せようとしているのではないでしょうか。」

「ディートリヒは優秀だな。『一を聞いて十を知る』だ。でも、それはもう少し先になるかな。」

「いえ、一とか十ではなく、私はカズ様と一心同体ですから。」


 ホントに可愛いやつだ。

それに“一心同体 少〇隊”なんて、すごく懐かしいよ。

俺の考えていることを忠実に説明する。ベクトルも合っている。


「それじゃ、今日はきついが14階層のモンスターボックスで自信を無くしてもらい、15階層のボスを倒して帰るとするか。」

「はい。でも、カズ様もフォローしてあげてくださいね。」

「あぁ、できることはやるよ。でも、彼女たちが気づいてくれることが優先だよ。」


 俺たちは、そのまま9階層をスルーし、パーティーにベリルとスピネルを入れ10階層のボスを倒す。

まぁ、ボスがアラクネなので、ディートリヒの剣撃とナズナの攻撃で終わる。

そう考えると、ディートリヒもナズナも個人戦であれば無双状態に近い。


 11階層から13階層を最短ルートで行き、目的の14階層。

ここは昆虫ワールドかオーク三昧のどちらかだ。

どちらもヘイトをすれば相応の数がやってくるが、昆虫の場合は範囲攻撃がなければ、攻略が難しい。


「さて、今日のラス2の大規模な戦闘だ。

 ここはモンスターボックスと呼ばれる部屋で、どれくらいの魔物がいるのか分からない。

そこを攻撃するわけだが、もちろん盾役のベリルはヘイトをすれば、ほとんどの敵の注意が自分に向く。

まぁ、簡単に言えば、ベリルのヘイトができなければ、俺たちが蹂躙されるって事、つまり死が待っている、という訳だ。

 ベリル、どうする?冒険者となるなら、これくらいの試練を越える必要があるが…。」

「は、はい。やります。」


「次にスピネル。正直言って、君のスキルと能力ではこの部屋の討伐は無理だ。

 だが、鑑定を上手く使えば、どこかに攻撃の糸口が見つかるかもしれない。

ボス部屋ではないから、先ずはどの集団がどのような攻撃をしてくるのかを瞬時に考え、その考えを共有し、味方に伝えなければならない。

 では、これまでの4人の戦闘を見て、どのように戦えば良いかな?」


 スピネルが首をかしげる。


「すみません。私にはまだそこまでの考えを整理して伝える事は無理です。」

「うん。それも自分の力が分かって来たという事だ。

 じゃぁ、今回は自分が指揮をする。

 先ずはベリル、部屋に入って半分くらいの場所でヘイトをかけてくれ。

 その間にスピネル、ディートリヒ、ナズナで周囲を掃討する。

 だが、決して鉄壁を発動しないで欲しい。これを発動されると俺たちが危なくなる。

 俺は遊撃として周囲を掃討するので、数をどんどん減らして殲滅まで持ち込む。

 では、行きますか!」


 3人はバフに包まれるが、ベリルとスピネルは光が包まれていないことに気づいていない。

さて、どんな戦闘となるのか、冷静に判断しておかないとね…、と思いながらモンスターボックスの部屋に入って行った。

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