8-17 シャンプー実演

「コホン…、続いて、石鹸に類する商品とは、具体的には何でしょうか。」


 ヴォルテスさん、メリアドールさんの言葉に飲まれちゃったね…。

取り合えず体裁を整えてくれればいいよ。


「はい。石鹸を加工し、髪を洗うものを販売します。」

「ふむ…、よく分かりませんが、髪を洗うモノをわざわざ作って売る必要があるんですか。」

「では、少し説明させていただきます。

 そもそも髪は肌よりも敏感で脆いものです。

 手入れをしないと私のような頭になってしまいます。」


 自分のスキンヘッドをぺしっと叩く。

皆、笑いをかみ殺している。


「日々の手入れを怠った反省を踏まえた者の意見として聞いていただきたいのです。

ここまで光ってしまえば頭皮も強くなりますが、髪で覆われた頭皮は非常に弱く、すぐ荒れてしまうのです。

 ただ、先ほどの石鹸は非常に強力で、頭皮を痛めてしまうのです。

 また、泡立てるのに時間がかかるため、効率が悪くなります。

 そこで、石鹸を予め液体にして売り出します。

 さらに、髪を洗うもの、髪に艶を与えるものの2種類を売り出すつもりです。」

「ニノマエ様、、言われている意味が良く分かりません。」

「では、どなたかで実験をさせていただきますが、どなたが…。」


 おいおい、何故アドフォード家全員がこちらを向く?

アナタたちの頭皮も見る事になるんだぞ。


「では、先ほど玄関でお会いしましたメイド長さんに実験させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」

「はい。喜んでこの身を捧げますわ。」


 あれ?俺って、いつの間に生け贄を食らう魔物と化した?


「ただ、一点だけ失礼な事を申し上げますので、ご容赦願います。」

「そんな事、なんの問題もございません。ニノマエ様の奥方様のような髪になれるのであれば、苦になりません。」

「分かりました。では、メイド長さんはヴォルテス様にご自身の髪をみていただければと思います。

その間に、たらいにお湯を…、あ、お湯は自分が魔法で出せますので、タライを5個、先ほどの大きさの洗面器を2つお借りできますか。」


 ふふ、先日、メリアドールさんの部屋を出た後、厨房でこのメイド長さんと打ち合わせをしておいたんだよ。たらいも洗面器も既に準備できている。


「では、先ずメイド長さん、結ってある髪をお解きいただき、この椅子におかけください。」


 予め買っておいた防水シートを敷き、背もたれが立っていない椅子と机をアイテムボックスから取り出しそこに座ってもらう。

 全員アイテムボックスに驚いているが、お構いなしに進める。

髪をほどいたメイド長さんの髪は結構痛んでいる。おそらく頭皮の油もあるんだろう。

俺は魔法でタライにお湯を入れる。

お湯を出したことでも驚いている。

ん?お湯って魔法で出せないのか?


「では、先ず髪をお湯で流します。」

 

 お湯をゆっくりかけながら髪に水分を浸透させる。


「これはお湯だけで流した髪の汚れです。」


 先ずはメイド長さんに見てもらう。素晴らしく残念な顔だ。


「あの…ニノマエ様、これほどまでに汚れていたのですか…。」

「はい。頭皮は汗をかきます。その汗がそのまま髪の根元に溜まり汚れとなります。」

「やはり、この汚れを他のヒトに見せるのは…。」

「では、公爵家の皆さまだけで…。」

「分かりました。では、ヴォルテス様、皆さま、お湯の汚れをご覧ください。」


 皆が走って来る。

あ、防水シートは滑るから…、と言う前に、ソフィアさんが滑るが、間一髪ベリルに助けられた。

皆がお湯の汚れを見る。


「のう、カズよ。これが頭皮の汚れかえ?」

「左様でございます、メリアドール様。メイド長さんは、毎日館の中を隈なく掃除し、他のメイドさんの指示をするなど、一番動かれている方だと思います。

一番お忙しい方ですので、汚れるのは当たり前です。敢えて言えば、この汚れはメイド長の証であると感じます。」

「ほう、そのような考えもあるのかえ?」

「そうです。例えば埃がいっぱいの部屋を掃除しますと服にも髪にも埃がつきますよね。

 メイド長さんは、そういった部屋にも入り、馬車小屋にも入り、いろんな部屋を入られます。

 なので、汚れがつくのです。」

「ほう。それは良い話じゃの。

 では、汚れが少ないメイドは楽をしているという事になるのかえ?」


 一部のメイドさんが青ざめる。

あ、あのヒトたち、さてはサボってるな…。


「いえ、それは一概には言えません。そもそも仕事の内容によって違いますから。」


 みんなホッとしている。


「そうか。ではカズよ、このメイド長の髪がどうなるのかを見せてたも。」

「分かりました。今回は汚れが多いので2回洗った上で髪に栄養を与えます。

 おそらく一度目は泡が立ちません。これは汚れを落とすためです。

 二回目は泡が立ちますので、ご安心ください。」

それでは始めますが、メリアドール様、もしこの商品を使うとすれば、ご自身で使いますか?それともメイドさんにお願いしますか?」

「カズの奥方はどうしておるのじゃ?」

「私自身で4人の髪を洗います。ディートリヒ、どれくらいの頻度で洗っているかな。」

「はいカズ様、私たちは3日に1度お風呂で主人に洗ってもらっております。」

「ほう!カズ自らが洗うのか?」

「左様です。」

「それは何故じゃ。」

「髪の健康を確認することで、彼女たちの健康状態も確認できます。」

「ほう、具体的に教えてたも。」

「健康状態が悪くなれば髪の水分が少なくなりパサパサになります。もっと悪くなれば髪の毛の先が木の枝のように分かれてしまいます。

 そうですね…、メイド長さん、髪を一本抜いてよろしいですか?」

「はい、構いません。」

「ではっと。先ほど見つけましたメイド長さんの髪にも、先が分かれている髪がありました。

 おそらく、メイド長さんはお疲れだと思いますので、少しお休みが必要だと思います。」

「そうか…、そんな事まで分かるのか。

 ヴォルテス、そちはメイドの管理は出来ていると申しておったが、メイド長は疲れているとの事じゃ、一日休ませてもよかろう。

 それと、妾は独り身であるので侍女に洗ってもらうとするが、ソフィアは王宮に戻るため商品はまだ手に入れられないとして、スティナよ、そちはどうする?」

「お母さま、私はニノマエ様と同じように旦那様に洗ってもらいたいです。」

「よし、では、洗う実験を見るのは、ヴォルテスと妾、そしてメイドでよいな。」

「ママ…、あ、お母さま、それはあんまりです。私も見たいです。」

「と、ソフィアが申しておるが、カズよ、如何する。」

「お任せいたします。では、メイド長さんの周りに集まってください。これから洗い方をお教えします。」


 俺は、メイド長さんの眼のあたりに温かいタオルをかけ、髪を洗いだした。

やはり一回目のシャンプーは泡が出ない。しかし、頭皮をしっかりと洗っていく。

髪についているシャンプーをしっかり流す。大量のお湯が必要となるが、お湯が魔法でどんどん出るから問題ない。

そして2回目のシャンプー。泡がいっぱい出る。

髪と同時に頭皮のマッサージをしていく。


「2回目はこの泡が髪に着いた汚れを落としていきます。

メイド長さん、どうでしょうか?痒いところはございませんか。」

「ひゃい…、ニノマエ様…。余りにも気持ちが良くて眠くなってきます。」

「え、そんなに気持ち良いのですか?」


 だから、ソフィアさん…、あなたは王都で使えるのはまだ先ですって…。


「はい。頭皮のマッサージがこれほど気持ちの良いものとは思いませんでした。」


 メリアドールさんが、俺の傍に来てこそっと小声で言う。

「のう、カズよ…、面会が終わってから妾にも同じ事を所望するのじゃが。」


 その話、メイドさん達みんなが聞いてますよ。


「はは、それはメイドさんが出来るようになるまで実験に立ち会っていただくという事になりますが、ご体調は大丈夫ですか。」

「ふむ。大丈夫じゃ。」

「それでは面会後にメイドさんの実習をしますか。」


 メイドさんたちは目を輝かせながら真剣に見ているよ。

その後、泡をしっかりと流した上でリンスを付けて、温かいタオルで髪を包み込んだ。

まぁ、そこまでやる必要はないんだけど、より浸透しやすくしてもいいかなって思っただけです。


 その後リンスを流し、ドライヤー魔法で髪を乾かした。

メイド長さんは、自分の髪を見てうっとりしている。

他のメイドさんは、羨望の眼差しでメイド長さんとディートリヒたちを見ているよ。


「これで一連の作業は終了しましたが、なにかご質問はありますでしょうか。」


 そこから怒涛の質問コーナーだった。

髪を触らせてほしい、石鹸の成分、製法、ドライヤー魔法、お湯魔法…云々。


 シャンプー出す機会、早まったかな…?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る