5-6 正義の露天風呂
「おおよそ小屋サイズのバッグですと、金貨5枚で取引されています。
アイテムボックス付きのバッグは冒険者には垂涎のアイテムです。
そのバッグを冒険者に安く提供できることも、今後の冒険者ギルドの展開にも使えます。」
ナズナさん、ユーリさんと対等に張れますよ。
スケジュール管理とロジ整理、そして戦闘要員のディートリヒ、計算と交渉、そして斥候のナズナ。
これは凄い!俺居なくてもいいじゃん…。
何か寂しくなってきた…。
「お館様、どういたしましたか?」
「ん、あぁ、ナズナが優秀だから、俺が嬉しくなっちゃってね。」
「え。優秀…ですか…。わたしが…。
お館様に褒めていただいた…。
今日はご褒美に…ゴニョゴニョ…。」
あ、ナズナさんクネクネし始めた…。
こういう所、ディートリヒと似ているんだよな…。お花畑に旅行に行かないようにしておかないと…。
「ありがとう、ナズナ。じゃぁ他のバッグと併せて収納の変更をかけるよ。」
順調にバッグの容量を変えていく。
あ、宿屋に戻ったら、俺のバッグも解除しておこう。そうすればたくさん持ってこれるな…。
あれやこれやしていたら夕方になったので、今日は魔物がいない所まで行き、バリアーをかけて野営することとした。
今晩はナズナのリクエストのトンカツ。
それも揚げたてのトンカツを食べてもらう。
ディートリヒもナズナも口をホクホクして食べている。
食べている表情は笑顔だ。とても良い表情だ。
なんなら定食屋でも開くか?でも、俺料理人じゃないし…。
そんな事を思いながら、お風呂を準備し3人で入る。
あ〝――――気持ちいい。
バリアーが張ってあるから安全…、なので今日は露天風呂を味わっている。
「ディートリヒ、ナズナ、これが露天風呂ってやつだ。
どうだ?全方位大自然の中3人で風呂に入る解放感。
究極の幸せだと思わないか。
美味しいものを食べ、美味しい酒を飲み、いろんな話をする。
そこに風呂がある。風呂こそ正義だと思わないか。」
「お風呂が正義かどうかは私には分かりませんが、カズ様と入るお風呂は幸せそのものです。」
「このお風呂というものは、私たちを堕落させますね…。それほど気持ちがいいものです。」
「だろ。だから、今後の家の屋上にお風呂を作ろうとしてるんだ。」
「え、お風呂(お風呂ですか?)!」
ナズナがびっくりしている。
「あ、しまった…ナズナには内緒にしていたんだった…。」
「お館様、家にお風呂があるんですか?」
「カズ様!毎日お風呂に入るんですよね?」
二人の目がキラキラしている。
仕方がない…。全貌を説明することにした。
「3階建ての屋上にもう一つ部屋を作って、室内風呂と露天風呂を作るんだ。
まぁ、街の中だから景色は良くはないけど、室内だけだと解放感がないだろ。
だから風呂桶を2つ作って欲しいと棟梁にお願いしたんだ。
そしたら、屋上に重いものを置くと家が潰れるから補強が必要になったんだ。
だから、鉄を一杯集めて壁を強くして、屋上にお風呂が入れるようにするって事で、現在鉄を集めているという訳。」
「そういう事ですか。分かりました。では、明日からはいっぱい鉄を取りましょう。」
「それと、鉄は水に弱く、すぐ錆びるだろ。だからそれなりの鋼材を作らなきゃいけないんだけど、それに必要なものがここで採れるクロムとニッケルだ。」
「あ、だからこの間クロムとニッケルと仰ってたのですね。」
「そういう事。でもな、この風景を見ながら風呂に入ると、もうどうでも良くなるんだよな。」
「お館様、それはいけません。お風呂こそ正義です!明日からは死に物狂いで鉄を集めます。」
二人ともやる気になってくれたことが嬉しい。
それにお風呂を好きになってくれることも嬉しい。
その後、二人の髪をしっかりと洗ってあげ、風呂から上がってドライヤーをかける。
「お館様、髪の毛がサラサラになっているのですが…。」
「おう!それがナズナ本来の髪だ。とても綺麗だぞ。」
「カズ様、私は?私は?」
ディートリヒも綺麗ですよ。でもその前に服を着ようか…。
その後、テントに戻り、ディートリヒとナズナを両脇に、お互いの体温を感じながら就寝した。
翌日からは、それは地獄でした…。
二人の目が違う…。死に物狂いというか、鬼気迫った迫力というか…。
ゴーレム戦もいつの間にか攻撃を掻い潜って、コアに一撃を浴びせるくらいの能力が身についてきているし、昨日の今日でこんなにも動きが違うものなのか、それとも今までが本気でなかったのかと疑ったくらいだった。
「お館様、あの塊をみていただきたいのですが…。」
ナズナがゴーレムを倒した後ろの山肌を指さした。
何となく青白い金属の塊がある。
鑑定をしてみると、『ミスリル』と出た。
ほー。これがミスリルか…。塊としては初めて見る。
どことなく青白く、どことなく光っている。
確か魔力を通しやすいと言ってたな。
俺は少しマナを流してみると、スルっとミスリルの中に入っていく。
するとミスリルの塊がほんのりと光り始める。
「ミスリルって、なかなか綺麗なものだな。」
「これがミスリルなんですね。」
「ナズナのように魔力を持っているヒトであれば、武器とかに魔力を流せば強くなるみたいだな。」
「はい。しかしミスリルの武器は高いですよ。」
「ん?そんな事はないぞ。そりゃ、ナズナが使っている鋼よりは高いとは思うが、ディートリヒのレイピアはアダマン何とかってやつだが…。」
「お館様、それってアダマンタイトの事でしょうか?」
「ああ。そのアダマンタイタイってやつ。」
「お館様…、いくら何でもそのような高価なものを従者に渡すなど、気は確かですか?」
「正気だけど。だって、皆俺が愛している女性だぞ。だからナズナもこのダンジョンから帰ったら、それ相応の武器に換えるつもりだよ。」
「我々はお館様の従者ですよ。その従者がお館様よりも高価な武器を持つことは…。」
「ナズナ、それは君の固定観念ってやつだ。俺の魔銃はそのアダマンタイテイよりも強いぞ。
それにな、『高価な武具が強い。だから持つのではなく、己を守る最適な武具を持つ』ってのが一番だと思う。なのでディートリヒはアダマンテイト?…、あぁ面倒くさい、アダマン何とかで良いな、そのアダマン何とかなんだ。
ナズナの場合、一撃必殺の武具が必要だからミスリルだとマナを込めたところで弱いと感じている。だから、アダマン何とかそれ以上の切れ味で折れない武具の方が良いと思う。
しかし、アダマン何とかって、いつまで経っても覚えられないな…。齢を感じるよ。
まぁ、落ち着いたらマルゴーさんの店で頼んでみようか。
あとは防具だよな…、もう少し強くて軽くて着心地の良いものだとダンジョン探索も楽になると思うんだけどな…。」
ナズナが口をあんぐり開けて呆けている。
「ん?どうした?」
「お館様はやはり面白い方です。
私たちのようなモノにまで目を配り、皆が全力と言いますか、全員が生き残るとでも言いますか…、普通そんな事はいたしませんよ。」
「でも、俺はそうしたいだけ。これが理由だよ。」
「ふふふ。本当にお館様は…。Chu!」
ナズナが俺に唇を寄せた。
そして照れながら
「お館様、この階でミスリルが出る事は稀ですので、この場所は秘密ですよ。」
と言いながら、次の地点へと走っていった。
「ナズナも生き生きとしてきました。これもカズ様のお力ですね。」
うお!いつの間にか後ろにディートリヒが居た。
恐る恐る後ろを向くとディートリヒが微笑んでいる。
「ディートリヒ居たのか。」
「はい。ずっと前から。それにナズナは気づいていましたよ。」
「え、俺だけ知らなかった?」
「はい。」
「そうか、すまんな。」
「いえ、そんな事はありません。ナズナが変わっていくのがいじらしくて、可愛くて。」
「ナズナはディートリヒの妹みたいなものか?」
「いえ、妹ではなくカズ様の伴侶の一人として認めたヒトです。」
「はは、まぁお手柔らかに頼むよ。」
「はい。では今晩も野営で露天風呂、そして3人で愛し合いましょうね。ふふ」
ディーさん、あなたはナズナ以上に変わってきていますよ…。
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