12-17 夜空の下で涙をぬぐう

 皆がまだ寝ている頃、ベルタさんにお礼を言って馬車を出発させる。


 子供達5人はラノベで出て来るような”私たちは神様のお使いだ。これからも精進せよ!”、なんて言って格好よく消えるかと思っていたが、何も変わらず、ケラケラと笑いながら馬車に乗っている。


やっぱり俺の考え過ぎだったんだろうな…。


 昨日のウッディは、妙に神様のように見えた。てっきり神様が降りて来られたんだと思っていたんだが、実際はそんな事はない。

でも、ケ・セラ・セラなんて教えていないし、この世界にもそんな言葉は無いはず…。


 ま、考え過ぎはいけない。それこそ“Que Sera, Sera”だ。


 馬車にはジーナさんとサーヤさんも乗り込み、8人での旅行となった。


「おっちゃんも、隅に置けないね~。」


ウッディがニヤニヤしながら肘で小突いてくる。


「ウッディ、この人たちは俺の奴隷だ。」

「おぉ、おっちゃん、奴隷なんか買えるくらい大金持ちだったんだ。」

「おっさん、金持ちだぞ~。」

「自分を金持ちって言う奴は金を持っていないんだぞ。」

「そりゃそうだ。金持ってるって言っても、いつもどっかいっちゃうんだよな。」

「おっちゃん、そりゃ“ろーひか”って言うんだぞ。」


 そんな馬鹿話をしながら、湖の北側の街道を西に向かっていく。

もう少しでノーオの街だ。

ただ、今回ノーオの街には寄らないでおこう…。

ザックさんに会わせる顔が無い…。

強がって、粋がってた自分が恥ずかしいんだ。


「ご主人様…、何か思いつめておられますか?」


ジーナさんが後ろから囁く。


「そうだね…。何か生き急いでいる感じがあるんだ。

 ジーナさん達はスッキリしているのかい?」

「スッキリしているとは言えませんね。

 これでも数日前に前の夫に裏切られたばかりですからね。

 でも、そんな事をメソメソしていても、私たちは生きております。

 死んだ者に文句を言っても好転していくわけでもありませんからね。」

「ジーナさんは強いね。」

「そうでもありませんよ。サーヤが居る手前、強がっているだけですよ。

 それでも辛い時は辛いです…。

 でも、それでいいじゃないですか。

 ヒトは一人では生きていけません。私たちはご主人様を頼って生きていきます。

 ご主人様は奥方様やディートリヒ様達を頼って生きておられます。

 それで良いのですよ。」

「もっと頼っても良いという事か?」

「そうですね。それでよいと思います。

 奴隷の身でこんな事を言って良いか分かりませんが、メリアドール様は外交、レルネ様はご主人様がお作りになられる商品の分析と精製、ディートリヒ様は秘書兼護衛、ナズナ様は諜報、ベリル様は護衛、スピネル様とミリー様は商品開発、ニコル様は交渉、アイナ様は鍛冶と、皆得意な分野を持っておられます。

 皆様が持っておられる力を存分に出していただくことが、これからご主人様がなすべき事ではないでしょうか。」

「はは、良く見ているんだね。」

「はい。これでもオーネでは店を任されておりましたから。」

「であれば、ジーナさんとサーヤさんにお願いしたい。

 シェルフールの1号店から4号店までの全体の取り仕切りと、皆の健康管理をお願いしたい。」

「ご主人様はお優しいのですね…。

 私たちはご主人様の奴隷ですよ。『お願いしたい』のではなく、命じてくだされば良いのです。」

「まだ奴隷の扱いに慣れていなくてね…。」

「ご主人様ですからね。

 サーヤ、ご主人様からシェルフールの全店の切り盛りと従業員さんの健康管理を任されましたよ。

 二人で回していきましょう。」

「はい!何せ白金貨2枚と金貨3枚という高額で優秀な奴隷ですからね。」


 この二人、強いな…。


「ジーナさん、サーヤさん…、決して無理はしないでくださいね。」

「旦那様、そんな事奴隷に言うものではありません。ね、ママ。」

「そうですね。サーヤ。」


「おっちゃん、このおばはんとねえちゃんもおっちゃんのこれになるのか?」


 ウッディよ…、10歳のガキが小指を立てるんじゃない。

と言うより、この世界も女性は小指を意味するのか?

それに、ウッディの言葉に静かなる闘志が芽生えたジーナさん…。

背中に黒い炎が燃えてますよ…。


 ノーオの街を通り越し、一路シェルフールへと向かう。


 このまま行けば夕方にはシェルフールに到着するか…。


「みんな、夜にシェルフールに着くけどいいか?」

「おっちゃん、腹減った。」

「んじゃ、シェルフールまでの途中に休憩所があるから、そこで今日は野宿しよう。」

「おー!で、おっちゃん、今晩も宴か?」

「昨日あんだけ食っただろ。」

「でも、腹は減るんだよ!」


 こういった会話が楽しい。

夕方少し前に休憩所に到着し、土魔法で壁を補強して野宿の準備をし、夕食の準備に入る。


 肉はまだある。

んじゃ、今晩はオークカツにするか。


簡易魔導コンロを取り出し、衣をつけ揚げていく。

その横でご飯を炊く。調理している横で5人が涎を垂らして見ている。

懐かしいな…。こんな姿、つい最近にもあったな…。


「決めた!」


皆、オークカツを頬張りながら、俺の方を向く。


「おっさんは、これからゆっくりと皆と一緒に過ごすことにする。

 みんなと食う、寝る、遊ぶ。」

「おっちゃん、それじゃ金がなくなるぞ。」

「みんなが働いてくれる!」

「それだと、おっちゃんはヒモになるぞ。」


どこからそんな言葉を仕入れてくるんだ?


「んじゃ、言葉を変えると、仕事をするときはする、しない時は遊ぶ。」

「んー。ま、いいんじゃないか?

 おっちゃんだしな。」



 電池の切れた子供たちは馬車の中でスヤスヤと寝ている。

と言えば言葉は綺麗だが、馬車の中は違う意味で大運動会だ。


 子供の寝相は凄い。

世界一周というか、360度寝ながら一周するんだ。

ウッディは隣で寝ているクレイを乗り越えて向こう側へ行くとか、馬車の側面と喧嘩したりとか…。

見ているだけで和む。


 焚火の傍に行くと、ジーナさんが火の番をしてくれている。


「サーヤさんは寝たのかい?」

「はい。あの子も気を張っていて疲れているんでしょうね。」

「そうだな…。」


 二人で火を見つめる。


「ご主人様、少しお願いがあるのですが…。」

「どうした?」

「奴隷の身分でこんなことを言うのも何ですが、少しお胸をお借りしてもよろしいでしょうか。」

「うん。いいよ。」


 彼女は胸に額を付けジッとしている。

やはり、辛いんだろう…。


「ジーナさん、思いっきり泣けるときは泣いた方がいい。」

「はい…。すみません…。」

「自分に正直に生きることも必要だよ。」

「それをご主人様が言いますか?」

「だよな…。でも、いつでも泣いていいからな。」

「それだと甘えてしまいます。」

「ん~。それでいいんじゃないか。」

「ご主人様は優しいんですね。」

「そうでもないぞ。

 俺は弱いし、脆い、それにヒトに言えない悩みもある。

 こんなに多くのヒトを愛することはヒトとしておかしな事だと思っている。」

「いえ、そんな事はありません。

 ご主人様が愛しておられる方は輝いておられます。それにご主人様に好意を抱いておられる方も同じです。

 愛が一つだけだなんて思いません。

 愛は多くあると思いますし、いろんな愛があると思いますよ。」

「ジーナさんが泣いているのに、俺が泣いてちゃいけないな。」

「いいえ。泣くことは必要です。我慢する必要もないです。

ですから、私もご主人様の胸で泣かせていただきます。」


 声に出さず彼女は泣いた…。その意味は分からない。

併せて俺もこれまで心の中に詰まっていた部分を涙で流した。


「ご主人様、ありがとうございました。」

「俺こそ、ありがとう。

 ジーナさんもサーヤさんも、そして、ここに居る5人も一緒に笑顔にできるようにするよ。」

「それと、奥方様とディートリヒ様達も笑顔にしてくださいね。」

「あぁ。そうするよ。

 その前に、みんなに謝らないとね。」

「そうですね。」


 いろいろと悩んだ。

でも、俺が俺として生きていくことが一番だ。


 何故かスッキリした。





 夜空には、まばゆいくらいの星が輝いていた。

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