10-25 館を建てます
「ナズナ、ベリル、お疲れ様!」
「あ、お館様、すみません。ここまでしかできませんでした。」
「大丈夫だよ。全然問題ないよ。むしろ、よくここまでやってくれたね。ありがとね。
少し休んでて。」
俺は残りの山頂までの道を舗装するため、土魔法を放つ。
「行け、“ディグ”……“リフィル”。あ、ベリル、ブレスか火魔法を使えるマナは残ってるか?」
「主殿、問題ありません。では、主殿のリフィルのタイミングで火魔法を加えましょう。」
「あぁ、頼む。んじゃ行くよ!」
どんどん道を舗装していく。
ドワさんズは口をあんぐり開けている…。
「ゴッツさん、カズ様は大魔導士なんですよ。」
「へ?あ、魔導師か…、どうりでサクサクと進むわけだ。」
30分ほどで山頂までの道を整備した。
ベリルはマナを相当使ったらしく青ざめている。
ベリルを木陰で休ませ、山頂付近での家の位置をどこにするのかを決めていく。
「できれば山頂には露天風呂を作りたいので、少し下に建物を建ててもらえると嬉しいです。」
「へ?こんなところにあの臭いお湯が出るのか?」
「えぇ。この辺りは確実に出るでしょうね。でも、そんなに臭くはないと思います。それに、クローヌの街も出ますよ。」
「へー。しかし、あの臭いお湯はどうにもならんな。」
「まぁ、臭くはないと思いますが…、あ、そうだ。次に来た時には温泉を掘りますね。
その時はステンレスのパイプをつなぎ合わせていきましょう。」
「ほう、ニノマエさんがステンレスを知っているとは…、あれは数百年前に鋳造された新しい金属だからな。知らない奴が多いんだが。」
「ステンレスの鋳造もできますから。これですよ。」
ステンレスの鋳物を渡す。
「お!ホントだ。
ニノマエさん、この鋳造方法を俺たちに教えてくれないか。」
「ええ、良いですよ。」
「よっしゃ。これさえあればクローヌも生き返るぞ。」
「生き返るとは?」
「あぁ、ここには鉱山があってな、昔は鉄がふんだんに採れていたんだが、鉄が採れなくなってきて、鉄だけで売ることができなくなったんだ。だから鋼などを鋳造して細々と売ってたという所だ。」
「あ、そういう事ですか。ただ、鉄はダンジョンで採れますよ。」
「そうなんだが、好んで鉄を採ってきてくれる冒険者なんて居ないんだ。わざわざ重いものを持って帰っても安い金額で叩かれるから、割が合わないんだとさ。」
「それなら、自分たちが採って来ますよ。」
「いいのか?」
「そういうのは持ちつ持たれつってな感じで良いんじゃないですか?」
「ニノマエさん、あんた話が分かるヒトだな。」
そんな話をしながら、ようやく建物を建てる位置が決まった。
「ここなら、雨が降っても問題ないな。それに山頂からもそんなに離れていないから、お湯も引き込みやすい。」
「そうですね。ここでしたら、馬車小屋やメイドさんの家、工房に工場など建てることができますね。」
「先ずは母屋というか館から建てればいいか?」
「そうですね。お願いできますか。」
「おう、いいぜ。んじゃ、ここからここまでを…そうだな、5mほど掘ってくれないか。」
「分かりました。では、行きますね、“ディグ”!」
ただ穴を掘っただけとなったので、壁に強化魔法をかけていく。
「これで、土壁が崩れてこないと思います。」
「お、おう…。それじゃ、ここから始めていくんで…、そうだな。工期は1か月だが…。」
「ふふ、そう来ましたね。良いでしょう!
これで、ヒトを雇ってください。」
テ〇ーラをあるだけ出した。大盤振る舞いだ!
「ニノマエさん、あんたホントに話が分かるヒトだな。
よっしゃ、それじゃ工期は15日で仕上げてやる!
あとは、ニノマエさんが持っている木材などを置いといてくれれば、明日からでもやり始めるぞ。」
「ありがとうございます。
それじゃ、前金で金貨30枚渡しておきますね。あ、それと地下のお風呂や水屋部分にはこの魔道具を付けておいてください。それとトイレの便座は付けなくていいですが、配管と水だけはお願いします。」
「おう!任せとけ!」
「それじゃ、みんなのバッグに入っている木材とか使える素材をここに出しておこうか。」
「はい(はい)。」
あ、そう言えばアイテムボックス付きの鞄を持っているのはディートリヒとナズナ、レルネさんにスピネルだったか…。あれ?みんなに渡していなかったか?
やはり、齢をとるといかん…。誰に渡したか分からなくなる。
今日、改めてみんなに渡そう。
炎樹の木材50本、これまでに集めた素材をこれでもか、というくらい出す。
「ニノマエさんよ…、どれだけ出すつもりだ?」
「館を作るには、まだまだ足りないですよね?」
「そりゃそうだが、施主さんがこんなに木材とか材料を持っているなんて初めてでな…。」
「集める手間を少しでも省ければいいですからね。」
「はは、ちげえねぇ。」
「それでは、お願いします。」
ベリルも落ち着いたようで、皆で街に戻る。
「ディートリヒ、みんなにアイテムボックス付きのバッグを持たせておいた方が効率的だよな。」
「そうですね。では、ベリル、アイナ、ミリー、ニコル分をここで買っていきましょう。」
「という事だから、全員、気に入ったバッグをここで買うよ。」
「主殿からのプレゼントですか?」
「うん。そう言う事になるね。」
「イチ様、ありがとうございます。では、早速見つけてきます。ニコル!お願い、俊敏のバフかけて!」
「分かった!んじゃ、かけますよ。えい!」
ベリル、アイナ、ミリー、ニコルの4人はバフをもらい一気に街に向かって走っていった。
「なぁ、ディートリヒ…、バフをかけて走るのが速いか、フロートを使って空を移動した方が早いのかどっちなんだろうね。」
「ふふ、カズ様はやはり女心が分かっておりませんね。
カズ様からのプレゼントであれば、自分の足で店まで行き、自分の手で触って確かめ、自分の目でバッグを見定めたいんですよ。」
「そうなのか。それじゃ、ディートリヒやナズナに渡したバッグは気に入っていないって事なのかい?」
「もう、カズ様は“いけず”ですね。
これはこれで嬉しいんですよ。」
「それじゃ、ディートリヒもナズナも気に入ったバッグを選んで来てよ。」
「え、良いんですか?」
「あぁ。今持っているものはダンジョンとかで共用で使えばいいんだからね。」
「ありがとうございます。では、早速行ってまいります。
ナズナ、行きましょう!」
「では、お館様、後ほど街でお待ちしております。」
猛ダッシュだよ。
あっという間に居なくなった。
やはり女性の心を理解するのは難しい…。
おっさんという口実ですべてうやむやにしているが、世の男性はどうなんだろうか…。
ちゃんと女性の気持ちを察して動いているんだろうかね…。
久しぶりに一人で歩いている。
ここに来てほんと久しぶりだ。寂れた街ではあるが、街並みがなんとなく落ち着いて、ゆっくりと時間が過ぎていくような感じだ。
商店が立ち並ぶ通りに来た。
念話でディートリヒの居る店を確認し中に入る。
ディートリヒは、まだ悩み中。
ナズナも同じ店で品定めをしている。
ベリルは、向かいの店でバッグを2つ持ち、どちらが良いか考えている。
皆、それぞれ性格が出て可愛いよ。
・
・
・
彼女たちが選んだバッグはそれぞれ違った。
ディートリヒは普段でも着用できるようなポーチ型、ナズナはヒップバッグのようなもの、ベリルは大太刀を抜く際に邪魔にならないような小さな巾着のようなもの、ミリーとニコルはポシェット、アイナはリュックサック…、ん?リュックサック?
「アイナ…、何故リュックサックなんだ?」
「社長、そりゃいっぱい入るからですよ。」
「あの…、バッグの中身は皆同じにするけど…。」
「えー!それじゃダメじゃないですか?」
「いや…、でも、アイナのリュックも似合っているから。」
「えへへ~、そうですかぁ~。」
全員のバッグを購入し、宿屋に戻る。
そして、一つ一つのバッグに三間×三間×三間の重量無制限の空間魔法を付与した。
皆、最初は恐る恐るモノを出し入れしていたが、満足したのか、バッグを胸に当て幸せそうな顔をしている。クローヌに来て良かった。
「あ、一日早いけど、明日シェルフールに戻ろう。」
「はい!是非早く帰りましょう!」
アイナ、ミリー、ニコルが眼を輝かせている。
彼女たちにも真正面から向かい合っていこう…。
出張終了まで、あと2日か…。
何か忘れているような気がするが、思い出せないな…。
部屋に戻り、身体をベッドに沈み込ませた途端、眠気が襲ってくる…。
深い眠りにつく前に、それはやって来た!
「思い出した! トーレスさんのところでヒップバッグ作ってもらってたんだった!」
やはり、おっさんの脳はポンコツだ…。
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