11-18 面接官はこうでなきゃ

 11人目の子の面接をする…。

メリアさんが口火を切る。


「あなたが、この店で働きたいと思った理由は何ですか?」


うん…、どうせテンプレなんだろう…。


「はい…。生活に困っているためです…。」


お!まともな回答来た!

身を乗り出して聞いてしまう。


「スタンピードで何かあったの?」

「はい…。うちはここから少し北にいったところで商いをしておりましたが、父親があの時怪我をしてしまい、店をきりもりすることができなくなりました…。」

「今は、お店を休んでいるって事?」

「はい。母を早くに亡くしましたので、父と私と妹の3人で食べ物屋を営んでいましたが…。」

「そうか…、大変だね。でもいつかは店をやりたいとは思わないの?」

「食べ物屋は父親が立ち仕事となるので、できれば違う形でお店を続けたいと思います。」

「分かった。妹さんは今回の募集に来ているの?」

「妹は19歳なので、募集対象から外れています…。」

「お父さんは今回の件は了承している?」

「父は足を怪我していますので、限りなく恐縮しています…。」

「分かった。ディートリヒ、すまないがこのお嬢さんの店に行き、お父様に話を聞いて来て欲しい。

 できれば妹さんも仕事が無いのなら、家で働いてもらって良いかって。」

「カズさ…、社長、それでよろしいのですか?」

「何か問題でもあるのかい?

 俺は、スタンピードで被害を被った方を優先的に雇いたい。それだけだよ。

 それに、彼女たちが俺達の商品で、今後何かに興味を持ってもらえるなら、その店を買い取ることもできるし、フランチャイズ契約も可能だからね。」

「ふらんちゃおす?」

「あ、加盟店契約って事ね。優先的に商品を扱って商売してもらうって事。」

「分かりました。では、この場所をナズナと交代します。」

「それじゃ、一緒にお父様に話しをさせてもらうけど、良いかい?」

「そんな好待遇、よろしいのですか?」

「問題ないよ。君を採用します。」


うまくいけば2人雇用できるぞ。

笑顔が可愛い子だ。絶対化ける。


12番目の子は残念なヒトだった…。

ヒトは外見じゃないんだよ…。中身を磨かなければ本当の美人にはなれないんだ…。


13番目の子は当たりだった。

孤児院出身の子で、これまで孤児院のお手伝いをしていたけど、そろそろ自立しなければならないと考えていたようだ。


「孤児院で君くらいの子は何人いるんだい?」

「私を含め4人いますが、私だけが21歳で、19,18,18歳となっています。」

「孤児院のお手伝いは彼女たちが居なくなると大変になる?」

「いえ、15歳になる子が3人いますので、彼女たちが今後お手伝いをすることとなります。」

「自立するって事は家が必要になるね。」

「はい。住み込みという事はできますか?」

「できるよ。ナズナ、すまないがこの子と教会に一緒に行って司教様に4人の雇用ができるか聞いてきてもらえるか?住居はこちらで対応するからって。」

「分かりました。詳細はこの子に聞いて、司教様とシスターさんにお話しをすれば良いという事ですね。」

「あぁ、頼む。それと最近教会に援助していなかったから、金貨1枚寄付をしてきてほしい。

 あと、帰りにレルネさんの店に行き、部屋を計画上3部屋から出来るだけ多く…、そうだな6部屋取れないか調整してきて欲しい。」

「分かりました。」

「え、あ、あの…、採用という事で良いのでしょうか。」

「あぁ、採用だよ。それとさっき言った3人もこちらで働けないか聞いてきて欲しい。」

「ありがとうございます!彼女たちにも早速話してみます!」


 ほらね、笑顔が凄く可愛い子だよ。


14番目から16番目は残念な事に貴族の息がかかっており、どうも鼻にかけるような口調がイヤだったので、即お帰りいただいた。

当人はプンスカ怒っていたが、誰だってお高くとまった販売員から化粧品や石鹸なんぞ買いたくなんて思わないでしょ。


17番目は実家が酒蔵の娘さんだった。

お!酒作ってるんだ!と感動し、最近売り上げが悪く店番だけしているのも気が引けるので働きに出たいと思い、面接に来たのが理由だ。

酒蔵か…、そう言えばアルコール度の高い酒はなかなか無いという事は蒸留の技術が無いということかもしれない…。

そんな事を思いながら採用した。


18番目は貴族絡みなのでお帰りいただく。


19番目…、なんか凄いヒトが入って来た。


「なぁ…、あたいなんかが面接を受けても良いのか?」


ケモ耳キター!

獣人族?亜人族?…。それも白い虎?豹?なんだろう?


「問題ないよ。もしかして冒険者だった?」

「あぁ、スタンピードまではね。それまではDランクの冒険者だったんだけど、あの時、たまたま門から出てきた馬車の傍に居てね…、魔物の遭遇と鉢合わせしてしまい利き手の指を無くしちまったんだ。

 それに、あんたLate Bloomerのニノマエさんだろ、あたいは冒険者を引退したけど、あの時の凄まじい魔法はあたいの中にはまだ鮮明に残っているよ。」

「残念だったね…、で、君は一人で住んでいるのかい?」

「あぁ、家を借りて姉貴と住んでいるんだが、家賃も滞納気味で…。」

「姉さんは冒険者なのかい?」

「あぁ。あたい達“虎族”は力が一番なんだけど、姉貴は病弱で戦闘はからっきしだからな…。

 今はスカウトとして冒険者をしているよ。」


竜人族のような感じなのか…。


「なぁ、モノは相談だが、姉さんと君の二人を雇いたいんだけど、出来そうか?」

「そりゃ、姉貴に聞かなきゃ分からないが…。」

「うちには竜人族も居るのは知ってるよね。」

「店の前に居た女傑だろ。あの人は強いな…。」

「ベリルって言うんだが、妹が戦闘職ではなく魔導師なんだよ。」

「へ?竜人族が魔導師?」

「あぁ。マナが多くてね。今石鹸とかを作る錬成師というか調合師として働いているよ。

もし、君のお姉さんがマナを持っているのなら、そういう道もあるかな、と思ってね。」

「それは良い話だと思うけど、あたいが売り子になって儲かるのかい?」

「問題ないよ。それに今は店に居ないけど、2人の販売員は兎人族だよ。

 先ず君は採用!お姉さんの都合も聞いてきてくれると嬉しい。

 あ、それと家賃が払えないなら、宿舎も準備する。」

「え、いいのかい? それじゃ、早速聞いてくるよ。」


嬉々として帰って行った。結果報告は明日にでも来てくれるだろう。


20番目のヒトは単に美しいという事を前面に出していたのでお帰りいただいた。



「取り合えず、保留併せて7、8名確保という事で良いかな?」

「はい。しかし、ディートリヒが外したヒトをすべて採用されるとは…。

 ディートリヒが聞いたら泣きますね。」

「いや、彼女はもう分かっているよ。

 見た目だけで選ぶと貴族の息がかかるって事も分かったから、今後は考えていくと思うよ。」

「しかし、イチよ。

 主はヒトの本質を引き出すのが上手だの。

 あとは錬成ができるモノじゃが、さっきの虎人族を1名加えるとすれば、採用は1名で良いかの…。」

「そうですね。」

「それじゃ、採用試験は風と火を組み合わせた魔法ができるかどうかかの?」

「レルネさん、それっていきなりハードル高くないですか?」

「そんな事ないぞ。温風を出すためには何が必要かを理解すれば良いだけじゃ。

 先ず属性が無いと言って文句を言う奴は、その場でお帰りいただこうかの。

 属性に捕らわれず、風と火を組み合わせるまで導き出せれば補欠合格。

 温風を出せるようになれば即合格。これでどうじゃ?」

「それで構いませんが、レルネさんってドライヤーの魔法使えましたっけ?」

「あぁ、これじゃろ?」


フワッと温風が吹いてくる。

なんだ、ドライヤーの魔法できるじゃん。って、それを黙ってたってことか?

毎晩ドライヤーを俺とメリアさんにやらせてた訳だな…。

今度、とっちめてやる!


5人一緒に部屋に入って来た。


「皆、早速で申し訳ないんだが、30分以内に魔法で温風を出してくれないか?」

「え?そんな魔法ありましたか?」

「どんな魔法なのでしょうか?」


皆口々にいろんな事を言う。


「出来ない事を言って、私たちを落とすつもりなんですか?」


中には逆切れするヒトも出てくる。


「それじゃ、温風の魔法を見せるよ。“ドライヤー”」


5人に温風を当てると、皆青ざめた表情になった。

だよね。そもそも属性と属性をかけ合わせるという概念なんてあるのかも知らない。

でも、実際に出ている魔法を見て、皆が驚愕している。


諦める者、何とかして駆使しようとしている者それぞれだ。

出来なくても良いんだよ。何かのきっかけがあればできるという事に気づいてほしいだけなんだ。


属性が無いという理由で、早々に2名が脱落した。

あとの3人は試行錯誤している。

30分経過したところで、皆に何故温風が出るのかを聞いてみた。


「温かい風を吹かせるという魔法が有るはずです。」

「術式を書き換えることで何とかできるのでは?」

「温かい風という事は、風と熱が重なり合って温風が出るのでは?」


 はい。最後の方、採用します。

これで一名の錬成担当が決まった。


こうして面接が終わり、販売員と錬成師が仮ではあるが決定した。

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