6-4 かば焼きパーティー

 時間になったので、伯爵邸に行く。

バスチャンさんが迎えてくれる。


「ニノマエ様、お久しぶりです。」

「バスチャンさん、お久しぶりですね。今日は皆さん分もちゃんとありますからね。」

「それはそれは、私どもの事まで考えていただき感謝申し上げます。

 では、奥方様がお待ちですので、早速、厨房に参りましょう。」


 お、奥方ズ…、しまった…、俺普通の顔できるかな…。

俺たちは厨房に入っていく。


 あれ?奥方ズだけじゃなかったの?

何やらメイドさんも全員いるようだけど…。

何か怖い…。


「おう!ニノマエ氏!久方ぶりだの。」


 お、この声は伯爵さんだ。


「伯爵様、お忙しいにも関わらず、お時間を取らせてしまい申し訳ございません。

少し遠征しておりましたら、珍しい食材が捕れたもので、皆さまに食べていただきたいと思いお邪魔させていただきました。」

「構わんぞ。それにとても美味しいものらしいじゃないか。」

「それは個人差がありますので、何とも言えませんが。皆は好きだと言っておりました。」

「そう、謙遜するな。では、早速調理してくれ。

 それと…、後で話があるのでな。」


 話って、なんだろうね。とは思うが、先ずは料理。

でも室内で作ると匂いが充満するんだけど…。


「あの、調理は外でします。」

「ん?何故だ?」

「匂いが充満します。」

「そんな匂い、気にせぬぞ。」

「それでも、やめた方が良いと思います。」


「旦那様、ニノマエ様の意見を聞かれた方が良いかと思いますわ。」


 あ、ユーリ様、すみません。


「まぁ、そういう事であれば仕方がない。」


 俺たちは庭に出て、土を自由に出して良い所に移動する。

それじゃぁ、という事で、土魔法でU字溝を1mだけ作る。

そこに炭をおこし、郷から少しもらってきた串を刺して炙り始めた。


最初は何も匂わないから、誰もが普通にしているが、皮が焼ける匂いがしてくると、だんだんと表情に変化が出てきた。

エドモンド君だったかな?伯爵に早く食べさせろって煩い。

アイネスちゃんもマチルダちゃんも、目が釘付けになっている。


 ふふふ。まだ甘い!

俺は郷で作った壺に入ったタレを取り出す。

実は持ってきているんだよ。俺も秘伝のタレを作りたかったんだよ。

焼けた肉をタレにつけ、もう一度焼く。


 よし、嗅覚を一撃にするリーサルウェポンの完成だ!

みな表情が変わった。


今回も勝った!


 さて、焼いたかば焼きを皿に移し、一人ずつ食してもらう。

しかし、この匂いはやはり強力だ。料理人さんもメイドさんも涎出てますよ。


 先ずは伯爵、次にユーリ様、ティエラ様とサーブしていくが、エドモンド君まで行った時、伯爵が「お代わり」と言い出した。

 こいつ、場を読めない奴だなと思いながら、料理人さんにも手伝ってもらい、どんどんかば焼きを焼いていく。焼くスピードより、食うスピードの方が早くてなかなか追いつかない。

一時間くらい焼いていただろう…。ようやく伯爵ファミリーが満足したので、次はバスチャンさん、料理人さん、メイドさんに食べてもらう。


 はい…。合計3時間焼いてました。

もう、服が嗅覚へのリーサルウェポン状態ですよ。

多分、俺の服の匂いだけでご飯一杯はいけると思う。


 皆満足していたが、まだ、何の肉なのかは言ってない。

そうミステリー食事会、別名“闇鍋会”としたのだ。

鍋ではないが…。


 ようやく皆がお腹がいっぱいで満足されたのだろう。

各々の持ち場に戻り、エドモンド君たちも部屋に戻っていった。


 残されたのは伯爵、ユーリ様、ティエラ様、俺、ディートリヒのいつものメンバー。


「ニノマエ氏よ、今日は美味しいものをすまない。で、そろそろ教えてくれるか?あれは何の肉だ?」

「それは、これを奥方様にお渡ししたら分かります。

 では、遠征のお土産です。」


 俺は綺麗な箱に入った髪留めを渡す。


「ニノマエ様、開けてもよろしいのですか?」

「どうぞ。」

「まぁ、これは?綺麗な貝のような宝石のような…、いったい何ですか。」

「ユーリ様、それはサーペントの鱗で出来ております。そして、本日の料理はその肉です。」

「まぁ、サーペントですか。」


 そんなに珍しいのかな?

俺には宝石類は全然分からないから…。


「で、今晩の料理がサーペントの肉だと。」

「はい。今回はソースではなく、タレというものを使いました。」

「あの香ばしい良い香りですね。」

「はい。あの匂いを嗅げば、もう誰でも食べる秘伝のタレです。」

「そのタレを売りに来たという事ですか?」


 ユーリ様がキラリと目を輝かせる。


「いえ、今回はこのタレではありません。もう少し大きな話になります。」

「大きな話ですか?」

「はい。ユーリ様、ティエラ様、ディートリヒを見て何か気づきませんか?」

「ディートリヒですか?そうですね。綺麗ですね。

あ、髪留めも一緒ですね。

それと髪がとても綺麗です。」


ティエラ様、良いところに目が行きましたね。


「そうですね。先日来ていただいた際も、髪がサラサラしておりましたわ。何故あんなにサラサラなんでしょうって言ってたんですよ。」


 お、ユーリ様も気づいておられましたか。

流石女性ですね。


「はい。これから髪をサラサラにするモノを大規模に生産し販売しようと思っています。」

「まぁ!皆がディートリヒのように綺麗な髪になれるというのですか?」

「はい。試作品もお持ちしましたが、どなたかで試してみましょうか?」

「それでは私が」

「いえ、私が」


 あの奥方ズ…、誰が髪の毛を洗うと思っているんだ?


「あの…、お風呂で洗わないといけないという事ですが…。」

「構いませんよ。湯浴み着であれば問題はないでしょう。ね、旦那様。」

「うお…、そ、そうだな…。」

「では、伯爵様もご一緒にどうでしょうか。」

「え、あ…。」

「あなた!行きますわよ。」

「は、はい。」


メイドさん数名と奥方ズと伯爵、俺にディートリヒでお風呂に行く。

これが貴族家のお風呂か…、なかなか広いね。

でも、そんなに大きくはないんだ。2、3人で一杯になっちゃうね。

全員が入れないため、2班に分ける。

最初はユーリ様、メイド1名、伯爵と俺。

第2班はティエラ様、メイド1名、伯爵と俺。ディートリヒは外で髪を拭く係だ。


 俺はメイドさんに髪の洗い方を教えるが、伯爵さんにも見ててもらう。

最初は2度洗い、泡が立てば1度で良いこと。

その後しっかり流してリンスを付ける。洗い流したらタオルでくるんで着替えてもらい待っててもらう。

ティエラ様も同じようにし、お二方とも着替えられた後、風魔法のドライヤーで乾かす。

その後、櫛でとかして感触を確かめてもらった。


「まぁ、これが私の髪なのですか?」

「ユーリ様、触ってみてください。サラサラですよ。」


 奥方ズはキャッキャ喜んでいる。

伯爵は呆けた顔をしている。これから何が起きるのかも分かっていないようだ。

ふふふ、これはあんたも少し関与したであろうナズナの件のリベンジなのだよ。

“江戸の敵を長崎で討つ”んだよ!


「のう、ニノマエ氏よ。綺麗になるのはわかったが、何故儂にそれを見せたのじゃ?」

「はい。普通髪の毛を洗うのはメイドさんの仕事ですよね。」

「その通りだが。」

「そこです。当たり前だと思っていることを疑問に思わないのですか?」


 先ずは一石を投じる。


「それはどういう事だ?」

「髪はメイドさんが洗うもの…、でもメイドさんがいない家はどうしているんでしょうか?」

「そりゃ、自分で洗うに決まっとる。」

「でも、奥方様が綺麗になっていかれるのは嬉しくないですか?」

「そりゃ嬉しいが。」

「ですよね。綺麗なドレスを着て、綺麗な宝石を付けて…化粧をして…。

でも、化粧をしてごまかせても、髪はごまかせません。

それに、奥方様をご自身で綺麗にされたいという欲求はございますでしょう。」

「そりゃ、綺麗になってくれるのであれば嬉しいし、儂も自慢できるし…。」


よしよし、では二石目を投入。


「では、伯爵様が奥方様の髪を洗って差し上げれば良いのです。」

「は?!そちは何を言っておるのだ?男がそのような事できるか!」

「では男は何ができるというのでしょうか。子を産めません。子を育てることもなかなかしません。

 せいぜい仕事をしているだけです。家の事は何一つ出来ないかもしれませんね。」

「な…、無礼な!」

 

 ふふ、伯爵さん、ヒートアップしてきたね。

さて、三石目を投入し、ぎゃふんと言わせましょうかね。

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