7-11 ディートリヒさん、大噴火!
次にベリルが帰って来た。
「主殿、パンは堅いものです!」
「はい…。で、作り方とかは。」
「小麦粉をこねて叩いてぶつけて、窯で焼いておしまいです。」
うん。非常に分かりやすい説明です…。
そうなると分かっていました…。
「それじゃ、明日の朝、そのパン屋さんに行こう。」
「でも、美味しくないですよ。」
「それでいいんだ。んじゃ、その実証実験としてパンを焼いてみます。
今日は“ハイジの白パン”です。」
「はいじ?、しろぱん?
主殿、それは…、その…、えっちな言葉で私を愛してくれるという合図でしょうか…。」
ごめんなさい…。
俺なりの冗談だったんだが、誰も通じないよな…。
「いえ、違います…。許してください…。」
最近落ち込む事よりも、どんどん4人が素晴らしいことになっていくことを嬉しく思う。
重曹を水で溶かし、小麦粉と砂糖や塩、バターなど入れ、パン生地をこね始める。
「それです、主殿!主殿はパン屋でもあったのですか。」
「いえ、これは知識と経験です…。」
これまでの世界でも、結構料理はしていた。
パンも作ったこともある。ただ、なかなかイースト菌が育ってくれなくて往生したこともあった。
いい経験だ。
「それで、出来たこの生地を少し寝かせます。」
イースト菌が入っていないから、重曹=ベーキングパウダーだけだと弱いかもしれないけど…。
まぁ、待ってはくれないので、そのままフライパンで焼く。
ふたを閉めて少し待つと、やや!膨らんだよ。
何とかフライパンの側部分で膨らみもおさまったので、ひっくり返してもう一度焼く。
うん、部屋いっぱいにパンを焼く良い匂いが充満する。
いつの間にか、ナズナもスピネルも部屋から下りてきて、涎を出しながらフライパンの中身をガン見している。
「こりゃ、みなさん、昼食は食べたんでしょ?」
「はい主様、食べましたがパンは別腹です!」
「あの、スピネルさん…。あなたは、ほぼ3人前食べてますよ…。」
「その…、成長期ですので…。」
「ベリル、そうなのか。」
「成長期は私くらいの齢がなるものです。」
うん。種族ごとの成長期の観点が分からない…。
「仕方ないな…。ディートリヒがまだ帰ってきてないけど、まだ生地はあるから、この分は3人で食べていいよ。」
「はい((はい))。」
3分割して渡すと、皆黙々と食べている。
「お館様、こんなに柔らかいパンを食べたのは初めてです。」
「これが“はいじぃのしろぱん”なんですね。」
「おいひいです。」
一人爺さんのパンになっているが、まぁいいや。
おれは残った生地すべて焼き始める。
パンを焼く匂いも嗅覚を攻撃する速射砲になる。
これも殺傷力が高いんだよな。
あ、そう言えばジョスさんたちもそろそろ今日の仕事が終わる頃だ。
あの可愛い奥さんにお土産として渡そう。
「ナズナ、すまないがジョスさんにこれを渡してほしいんだけ…ど…。」
真剣にパンを貪っているナズナは他からの声を遮断しているわ…。
ベリル、スピネルも同じ状態か…。
まぁ、俺が行くか。
パンに会うのはワインだよな。
まぁ、少しだけワインも持ってきているから、奥様用に渡すか。
「少し、倉庫に行って来る。」
「もごもご…、ふぁい((…))」
一心不乱とはこのことか…。
俺は1階に行き、倉庫で作業をしているジョスさんを見つける。
「ジョスさん」
「おぉ、ニノマエさんか。けっこうはかどってるぜ。やっぱ、あの酒の効果だな。がはは。」
酒パワー、恐るべし…。
「残念ですが、今日は酒じゃないんですけどね。
このパンもどきを可愛い奥様にお渡しください。それとこれはワインというお酒です。
でも、強くないので、ジョスさんにはジュースに思えるでしょうね。」
「いつも悪いな。かみさんにはちゃんと渡すから。
ほいじゃ、今日は上がらせてもらうよ。明日も今日と同じ時間から始めるから。
んじゃ、おやすみ!」
「はい。ありがとうございました。」
ジョスさんたちが帰っていく中、ディートリヒが走って帰って来た。
「カズ様、なんですか!この香しい匂いは!」
「あ、これね。パンの匂いだよ。」
「え、パンを焼いたのですか?では、私も食べられると…。」
「うん。ちゃんとディートリヒの分もあるよ。」
「やったーーーー」
ディートリヒさん、垂直に1m以上ジャンプしていますが…。
家に戻り、3人が残念な顔をしている。
何かあったのか?
「お館様、すみません。もうなくなりました…。」
「あぁ、良いよ。さっき焼いたのがあるでしょ。あれをみんなで…」
3人がジャンピング土下座する。
「すみません。余りにも美味しかったので、つい、そこにあったものも…。」
「え(え)!」
確かにあと三つ焼いて、一個をジョスさんにあげたってことは、二個はあるはずだが…。
無い…。
食ったな…。
俺は恐る恐るディートリヒの方を見る。
鬼の形相を初めて見た…。
こんなに怒るものなんだ…。
3人は直謝り、床におでこを擦り付けている。
「あのな…。いくら美味しいからと言って、ヒトの話を聞かないのはどうかと思うぞ。」
「すみません…。それほどまで美味しかったもので…。食べている間は何も考えられなくなりました。」
「まぁ、パンはまた生地を作って焼けば良いんだが、それじゃ、ディートリヒが可哀そうじゃないか。」
「カズ様~、パン食べたいです~。
あ、それとナズナ、ベリル、スピネル、後で私の部屋に来なさい。」
「はい…((はい…))。」
「俺も食っていないんだが…。」
誰も聞いてくれない…。
「いいよ。んじゃ、もう一回パン生地から作るから、君たちはディートリヒの部屋で反省会をしてきて。」
「え。お館様、それは私達に“死ね”と仰るのですか?」
「多分、そこまではしないと思うから。
ただし、俺が居た世界では、『食べ物の恨みは恐ろしい』って言葉があるから、気を付けてね。」
「へ…。主殿は私たちを助けてくださらないのですか。」
「ベリル、俺もパン食っていない!それがどういう事か分かる?」
「ひゃ、ひゃい!では、ディートリヒ様のお部屋で反省会をしてまいります!」
「ディートリヒ、反省会も程々にね。
そうだね。40分くらいかかるから、それくらいで。」
「カズ様、分かりました。では40分きっかりに戻ってきます。皆さん、いらっしゃい!」
あーあ、3人はドナドナ状態でディートリヒの部屋に行くよ…。
4人が上に行ったのを見届け、もう一度生地をこねる。
今度はディートリヒと俺の分。今回はクルミのような木の実を少し入れる。
10分で生地をこね、30分寝かせる。
さっきよりも寝かせる時間が長いけど、大丈夫かな。
40分きっかりに4人は下りてきた。
ディートリヒは何故かニコニコしているが、3人はこの世の終わりのような表情だ…。
「ディートリヒ、反省会は終わったのかい。」
「はいカズ様。3人とも、みっちりと反省させました。それでは、パンを食べてしまった反省を一人一人報告してください。」
俺は、フライパンに生地を入れ焼き始める。
「お館様、私はお館様とディートリヒさんの分のパンを食べてしまいましたので、一週間、お館様のお部屋にお邪魔することはいたしません。」
「主殿、私も一週間、主殿のお部屋にお邪魔することはいたしません。」
「主様、私も同じです。一週間主様のお部屋に入ることはいたしません。」
「という事です。カズ様!」
フライパンの中身をひっくり返しながら考える。
「それは、ディートリヒのご褒美ではないのかい?」
あ、声に出てしまった…。
当のディートリヒはふんすかしている。
「当然です!『食べ物の恨みは海の底よりも深い』のです!」
あ、海あるんだ。
反省したのか、3人ともしょげている。
「まぁまぁ、ディートリヒ、それだと恨みが残るだけだよ。」
「それは分かっています。しかし、カズ様のパンを食べられなかった私の悲しみは川の底よりも深いんです。」
「あ、それ海の底よりも浅いって事だからね。」
「え、あ…、そうですね。ではもっともっと深いのです。」
ほんと可愛いね。
「それじゃ、彼女たちが可哀そうだから、俺から提案してもいいか?」
「え、やはりお館様は私達を助けてくれるんですね…。」
「まぁ、そうなるかな。
んじゃ、ディートリヒ、こんなのはどう?
これから一週間、俺が渡した下着の着用は禁止。」
「お館様(主殿)(主様)~、それだけはご勘弁くださーーーい。」
3人はもう一度ジャンピング土下座を始めた。
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