第二章 奴隷購入
2-1 おばちゃんパワー
いつの間にか眠ってしまったらしい。
外の明るさから見るともうすぐ夜明けくらいだろうか。
さて、今日から情報収集だ。
あまり妙な恰好をしているとかえって怪しまれるから、最初に服を買うか…。
それに、ビジネスバッグも怪しまれる可能性があるな…。
そう思うと、昨日トーレスさんが商業ギルド証と一緒にくれた腰に付けるヒップバッグに似たバッグに空間魔法をかけ、アイテムボックスにしようと試みた。
サイズは、ビジネスバッグよりも少し小さい3.6mの立方体をイメージ。重さはおおよそ600kgくらいとイメージし付与魔法をかける。
うぉ…。何かごそっとマナが持ってかれたような気分になるが、倒れるほどではなかった。
では、これを毎日持つバッグとしよう。それにT〇MIのバッグはナイロン製だから目立つよな…。それに、ほとんど肉しか入っていないから、あまり用途が無い。今後肉専用のバッグにでもするか。
それか、用途ごとにバッグを作るのも良いだろう。
気に入った鞄があれば買おうか。
教会の鐘が鳴った。
俺は1階に降り、朝食をとることにした。
「おはようございまーす。」
マリベルさんの営業スマイルがさく裂する。
「あ、おはようございます。」
「昨晩の夕食は良かったんですか?」
「すみませんでした。部屋に入って横になったらベッドが気持ちよかったせいか、朝までぐっすり寝てしまいましたよ。ははは」
「それは良かったです。」
マリベルさんが、席まで案内してくれる。
「おう! あんたがニノマエさんか?」
後ろから大きな声で話しかけられる。
振り向くと、プレートに朝食を乗せた大男が立っていた。
「俺は、ここの亭主でラウロって言うんだ。よろしくな。」
「はい。よろしくお願いします。ニノマエと申します。」
「ここの飯は、うちの母ちゃんが作っている。旨いから期待しな。」
プレートの上には、スクランブルエッグとサラダ、それにパン?がのっている。
「飲み物は、お茶かお湯しかないが、好きな方をあそこのポットから汲んできな。」
指さした方には厨房のカウンターがあり、黒と白のポットが置いてあった。
俺は、お茶をコップに入れて戻ってくる。
俺のテーブルには、まだラウルさんが座っていた。
「なぁ、あんた遠いところから旅してきたんだろ?今度、旅の話を聞かせてくれよ。」
「はい。いいですよ。でも、そんなに面白い話なんてないですけどね。」
「いやぁ、そんな事は無いと思うぞ。俺なんてこの街で育ってこの街で宿屋をやってるから、外の事なんざぁ、旅のヒトに聞くくらいだからなぁ。」
娯楽に飢えているって事なのかもしれないな。
特に街の中だけで生活していると、外の出来事なんてそうそう情報が入る訳でもないからな。
ただ、俺も昨日一日森にいただけなので、何を話していいかも分からんが…。
「あんたー! いつまで油売ってるんだい!早く昼の食材買いに行っとくれ!」
「お、かみさんに叱られたわ。じゃ、行ってくる。また今度話し聞かせてくれよな。」
ラウルさんと話していると心地よい。うん。なかなか良い人だ。そんな感覚がする。
「すみませんね。うちの亭主ったら、いつもあんなんで…困ってるんですよ。」
奥の厨房から前掛けエプロンで手を拭きながら女性が近づいてきた。
「あたしゃ、イヴァン。この宿屋のコック兼女将だよ。」
「よろしくお願いします。ニノマエと言います。」
女性は、俺の前に「よっこいしょ」と言って座り話し始める。
“よっこいしょ”は、万国共通なんだ…。
「この街は初めてなのかい?」
「はい。自分はここから遠くの小さな村出身で、ギルドも何もない辺鄙な街で育ったんです。」
「そりゃ、難儀だったね。まぁ、この街はブレイトン伯爵が収めていらっしゃるシェルフールって街だよ。まぁ、余程高貴なものでなければ揃うね。
それにあんた…あぁ、ニノマエさんだったね。ここいらじゃ見かけない身なりだから目立つよ。
ここいらの恰好で良ければ、ここから南に行ったところに中古の服屋があるから、そこで揃えるといいよ。
ところで、ニノマエさん、あんたトーレスさんのお知り合いかい?彼、昨晩ここに立ち寄って、あんたと夕食を取りたいって待ってたんだけど…。」
うぉ!いきなりおばちゃんの洗礼を受けたわ。
矢継ぎ早にまくしたてられたから、何の話をしてたか分からなくなったぞ。
少し整理しながらイヴァンさんに伝える。
「いろいろとありがとうございます。確かに昨日トーレスさんのお店に行き、アドバイザー契約をさせていただきました。」
「なんだい?その“あどばいざー契約“ってのは?」
「例えば、新しい商品を開発する時に助言したり、販売する際にどの階層に売るかとかを決めるようなもんですね。」
「ほー。なんか良く分からないけど、あんた、お偉い様なのかい?」
「いえいえ、自分は昨日冒険者ギルドと商業ギルドに登録したばかりの新参者ですよ。」
「へー。新参者があのトーレスさんに見初められるとは…。あんた、できるね。」
「ははは。できるかどうかは、まだ何もやってないので分かりませんよ。」
「そんなもんなのかい?」
「そんなもんだと思いますよ。」
取り留めのない話だが、俺にしてみればすごく重要な情報だ。
「そうそう、ニノマエさん。冒険者ギルドで依頼を受ける際には気を付けなよ。」
「え? それはどういう事ですか?」
「噂じゃ、あそこのギルドは冒険者の上前をピンハネしてるって噂だよ。
だから、冒険者たちは依頼をなかなか受けたがらないらしいよ。」
「そうなんですか…。気を付けます。」
これも美味しい情報だよ。地元の情報が一番ホットだし、早いからな。
「自分、初心者なので、そんな大きな依頼は無いので問題ないと思いますがね。」
「まぁ、懐が痛くない程度の依頼だけ引き受けてりゃ大丈夫さね。で、今日はどうするんだい?」
「今日は、少し街を回ってみて、必要なものを買おうと思っています。その後、依頼でも受けようかと思ってます。」
「そうかい。殊勝な心意気だよ。頑張んなよ。」
うん。イヴァンさん、おばちゃんカラーは強いけど、旦那よりは重要な人物だな。この人だけは怒らせないでおこう…。
ハーブティーなんだろう…、のどがすっきりするお茶を飲み終え頃教会の鐘が鳴ったので、宿屋を後にし街を散策することにした。
先ずは中古の服を買いに行く。
腰のあたりをひもで縛るズボンを2着と七分袖のシャツ、厚手の上着を購入し革のブーツを買うも靴下がない。聞けば靴下は無く裸足メインのようなので諦める。しかし、裸足で革の靴を履くと臭くないのだろうか?水虫はどうする?など他愛のない事を考えながら、生活用品を買いに雑貨屋へ。
タオル数枚と歯ブラシの替わりとなる木の皮、髭剃り用のカミソリを購入するが石鹸が無い。聞けば石鹸は貴族が使う嗜好品で、冒険者は“クリア”という魔法で汚れた衣類を綺麗にしているようだ(後で試してみよう)。
ふと頭の中の点と点がくっつき線になった。
“たらいにお湯”は身体をふくだけのもので、クリアの魔法を使えないヒトが身体を拭くために使うもの。
しかし、お風呂は必須です!正義です!いつか風呂に入りたいなぁ~と思うと、この世界での風呂の普及も有りなんじゃないかと思う。
あれやこれや考えながら、いったん宿屋に戻り、衣服を着替えた後、冒険者ギルドに寄って何か簡単な依頼がないか探しに行くことにした。
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