10-27 ニノマエファミリー集結

 1時間後、着替えをして2階に降りていく。

そこには、3人のメイドさん、クラリッセとサーシャ、ネーナさんがダイニングで仕事をしている。


「みなさん、いろいろとすみません。そしてこれからよろしくお願いいたします。」

「旦那様、そしてメリアドール様、こちらこそよろしくお願いいたします。

 それと、旦那様、私たちの為にもお部屋を用意していただきありがとうございました。」

「部屋で不都合はないかい?」

「ドレッサーまであるなんて、みな満足しております。」

「ドレッサー?」


 あ、思い出した。ジョスさんに洗面台を作ってもらってたんだ。


それがドレッサーのようになるとは?

でも、別棟の配管、どうしたんだろうか…。

どんなモノを作ったんだろう…。後で見に行くか。


「満足してくれているなら嬉しいよ。」

「旦那様、今晩は何をお作りいたしましょうか。」

「あ、夕食ね。ナズナからトンカツが良いってリクエストされたから、トンカツにしようと思ってね。

 クラリッセさんとかは初めてだから、俺の手伝いをしてくれると嬉しいな。」

「分かりました。何なりとお申し付けください。」


 今回はクローネのダンジョンで獲ったレッドオークのトンカツにする。

肉は脂身が少ないヒレのような肉質だ。

その肉を2㎝くらいの厚みに切り、小麦粉、卵、パン粉の順につけ、油で揚げていく。

付け合わせはキャベツに似た野菜を千切りにする。

さて、あとは大根のようなものがあったと思うので、それを向こうの世界から持ってきたおろし金ですっていく。


そう、大根おろしもどきだ。


ソースはこの世界のモノを使うが、すこし水気が多いので、ソースの中にケチャップや調味料を加え、味を調えていく。

 クラリッセさんが俺の調理の手伝いを、サーシャさんが皿の準備を、ネーナさんが料理のレシピをメモっている。俺が作れる料理をすべてメモにし、覚えたいとの事だ。

後はお米。何人いるのかまだ分からないが、大食い選手権出場者が多数いる事から、がっつり二升炊いておこう。


「旦那様、少しよろしいでしょうか。」


クラリッセさんが何か言いたそうだ。


「ちょうどいい。俺も少し相談したいことがあるんだ。」

「では、旦那様からどうぞ。」

「それじゃ…。

 えーと…、俺、君たちの雇用者ではあるけど、何となく旦那様と言われても、どうかと思って…。」

「それでしたら問題はございません。

 メリアドール様の夫となられる方ですし、雇っていただくのが旦那様ですから、旦那様で問題はございません。旦那様よりもご主人様の方が良いですか?」


いや…、流石にご主人様は…。歯痒い。


「分かりました。では、俺はその呼び方に慣れる必要があるって事ですね。」

「そうですね。

 次は、私の方から質問をさせていただきます。

 先ず、旦那様が料理されている理由をお聞かせください。」

「うーんと、俺の料理が美味しいと言って食べてくれるヒトが居るから。

答えになってる?」

「はい。分かりました。柔らかいパンと言い、サンドウィッチと言い、そして今回はトンカツです。

 では、次にどれくらいのレパートリーがあるのかお教えいただけますか?」

「んと…、普通に作れるのは、このトンカツ、すき焼き、ローストビーフ…。」


指を折りながら料理の名前を挙げていく。

その名前をネーナがメモっていく。

かれこれ20以上言っただろうか、クラリッセさんが止めてくれた。


「旦那様は料理人だったのですか?」

「違うよ。単に趣味…だと思う。」

「その料理を一つずつ教えていただくことは可能でしょうか。」

「あぁ、問題ない。みんなで作ると楽しいからね。」


クラリッセさんが満面の笑顔を浮かべている。

メリアさんもニコニコ顔だ。


「で、カズさん。このトンカツというのは、先日皆が食べていた“ブル丼”とは違うものなんですね。」

「あ、そうでしたね。あの時はブル丼でしたね。

 前回はブルで今回はオークの肉を使っています。まぁ肉の種類が変われば調理方法も変わるって感じで覚えてくれれば、と思っています。あ、メリアさん、少し油っぽくなりますが、食事の制限はありますか?」

「もう全快していますよ。目の前のトンカツを食べることが楽しみで仕方ありません。」

「良い事ですね。じゃぁ、4人いますから、味見でもしてみますか?」

「良いのですか!?」

「それが料理人の特権ですよ。」


少し小さめに揚げたトンカツを4等分に切り、そこに大根もどきおろしに醤油を足したものをトンカツの上に乗せる。


「熱いので、冷まして召し上がってくださいね。」

「では、はふはふ、熱っ。…表面がサクサクしてて中が柔らかく、ジューシーですね。

 とても美味しいです!これなら何個でもいけます!」


皆の顔が笑顔だ。美味しい時は笑顔になるよね。


「俺は、美味しいモノを食べ、皆さんが笑顔になっているのを見るのが好きなんですよ。

 だからですかね、料理をするのは。」

「素晴らしいことです。では、私たちも及ばずながら旦那様のお力になれるよう努力いたします。

 しかし…、このダイニングは面白い作りですね。

 真ん中に通路があって、皆さんが座る場所がいっぱいあります。」

「真ん中に通路があるのは、みんなに料理を運びやすくするためなんだ。」

「あ!そういう事ですか!

 メリアドール様、これは画期的な考えですよ。」

「クラリッセ、今分かったのか?この構造も特許を取れる代物。食事処の配膳の効率化が図られます。」

「いやいや、これで特許は取らないですよ。

 みんなが真似して効率的になってくれれば良いですからね。」

「なんと、欲のない…。」

「ふふ、それがカズさんですよ。それに特許関係で言えば、毎月莫大なお金がカズさんに入って来ますからね。」


あ、そう言えば石鹸やらしゃんぷりんやら下着やらで特許を頼んだったんだ。

今思い出した。


「その話も皆にしなくちゃいけないね。」

「そうですね。カズ様が如何に凄い方なのかを皆に知らしめる必要がありますね。」

「いや、そんなに凄いヒトではなく、おっさんですよ…。」


トンカツの匂いを嗅ぎつけたか、大食漢たちが集まって来た。


「それじゃ、ディートリヒ、ナズナ、みんなをこの部屋に呼んでもらえないか?」

「分かりました。」


5分後、皆が集まって来た。

初見のヒトも居てオドオドしている。このヒトたちがアデリンさんの雇ってたお針子さんかな。

ん?何故にルカさんとレイケシアさんがいる?

あ、雇ったんだった。

ヤットさん、ラットさんにはまず酒を出さないとな。


「皆、座れた?」

「はい。総勢22名座っています。」


22人????

俺、そんなに雇ったんだ…。こりゃ、毎月の給料が大変だ…。


「んじゃ、改めて皆さん、初めましてのヒトもいるので、一人ずつ紹介をしていくね。

 先ずは俺、ニノマエ ハジメと言います。呼び方はヒトそれぞれなので、どんな呼び方でもいいけど、ハジメという名前だけは呼ばないで欲しい。皆で仲良く笑顔に生きていこう!」


「次にカズ様と共に行動しているモノを紹介させていただきます。

 私ディートリヒが第一伴侶を務めます。第二伴侶としてナズナ、第三伴侶がスピネル、第四伴侶がベリル、第五伴侶がアイナ、第六伴侶がミリー、第七伴侶がニコルとなっております。」


「こうやって説明するのは恥ずかしいのじゃが、儂はレルネ、訳あってイチの第一側室となることになったそうじゃ。それと、魔道具の店を任せているルカじゃ。」


「儂らはヤットとラットじゃ。裏の家で工房を担当しておる。何かあれば作ってやるぞい!」


「アデリンと言います。これまでビーイの街で服屋を営んでおりましたが、ニノマエさんの下でメイド服やガーターベルトを作ります。そして、針子のトニュフ、フラヴィ、エルリカ、アネッテです。」


「私、レイケシアと申します。これまではトーレス商会で総務として働いておりましたが、社長に引き抜かれました。」


「最後に、私メリアドール・アドフォードと申します。

今は王都からカズさんを見張るように言われてここにおりますが、近日中に出奔し、カズ様の正妻になります。皆さんよろしくお願いします。

 そして、ここに居るのはメイドのクラリッセ、サーシャ、ネーナです。」


「皆を詳しく紹介したいところだけど、お酒と食べ物が冷めてしまうから、これくらいにして先ずはここに集まってくれた皆とこれから過ごしていく楽しみをいただけたラウェン様を始めとする神様に感謝し、乾杯しよう!んじゃ、“乾杯””」

「乾杯(((((乾杯)))))!」


楽しい食事が始まった。

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