5-27 風呂が繋ぐ兄弟の盃

 翌日、朝からコカトリスのテイム状況を見に行く。

 ナズナに完全に懐いたコカちゃんたち…、一緒に遊び始めた。

おい!コカちゃんズ、卵あっためろよ…。


 エルフの狩人5人もコカトリスとの相性が良いようだ。

一人は完全にコカトリスの巣の中に入って巣を掃除できるまでになっている。

あ、あの人って郷に帰りたくないって駄々こねたヒトだ…。


 ベルタさんに渡したアイテムボックスは郷で所有することとなった。

エンペラー・サーペントの肉を100kg、鱗を俺たちが100枚、ヤハネが50枚ほどもらって、残りを村のアクセサリーを作ってもらえるようお願いした。

朝までに髪留めが5個できたという事で合計10個をお土産とするも、女性陣に睨まれたので、ディートリヒ、ナズナ、シーラさん、ベアさん、エミネ母さんに渡し、5個をお土産とした。


俺は、ナズナにこの郷に残り、テイムの状況を見ながら5人にコカトリスの巣の清掃と必要であれば餌付けもしておくようお願いすると、2日あれば引き継ぎも完了できるので、シェルフールに入る手前で合流できると伝えられた…。

走って来るのか?と聞くと、コカちゃんに乗せてもらうとの事…。

大丈夫か?と尋ねれば、シェルフールの南にある以前に俺が迷った森まで乗せて行ってもらうので問題はないけど、お礼としてオークの肉を100kgほど欲しいとコカちゃんが言っているようなので、ナズナに渡しておくこととした。

ナズナさん、とんでも能力を開花したなぁ…と感心する。


コカトリスのテリトリーを確認し、郷に戻り昼食を摂る。勿論サーペントのかば焼きですよ。

そんなに食べると、郷で作る分が無くなるんじゃないかって程、皆が食べてる。

あ、ナズナさん、あなたは後2日あるからね。食べ尽くすんじゃないよ。


「イチよ、少し良いか。」

「何ですか?レルネさん。」

「儂とルカももう少し、この郷が自立できるよう指導していくので、すまんが一緒には帰れんの。」

「そうですか。仕方ありませんね。」

「安心せい。それまでは髪留めは売らぬようにしておく。それ以外の工芸品を売るため行商人と交渉もしなくてはいけないからの。まぁ、暇になれば主らの武具も作っておいてやるぞ。」

「あ、であれば、ナズナを2日ここに残します。その間に俺とディートリヒとナズナの外套にエンペラー・サーペントの鱗を縫い込んでもらう事ってできますか?」

「な、なぬ? 2日でか?

 夜なべでもせんと出来上がらんが仕方がないの。できたものはナズナに託すが良いか。」

「それで構いません。で、加工賃は?」

「今回はサービスじゃ。」

「あざっす!」

「お、懐かしい言葉じゃの。確か“ありがとう”の意味じゃったな。」


 やはり、前の“渡り人”は、現代の日本人だわ…。


午後、シェルフールに向けて馬車を出発させる。

馬車の中は、ヤハネのメンバー、シーラさん、そして俺とディートリヒ。

シーラさん以外はアイテムバッグ持ちなので、馬車の荷台はガラガラだ。


 うん…、やはりこうなるよね…。

俺が左後部に座り、その横をディートリヒが押さえるも正面にベアさん、エミネ母さん、シーラさんが並ぶ…。これまでの遠征時の素材などの確認作業と魔法講義、あとは一家に一人とか言ってる残念な方。


まぁ、一つ一つ対応していきますよ。


 夜はエンペラー・サーペントを倒し野営した場所で寝る。

今回は俺しか結界が張れないのでお風呂は無し。

皆ブーイングだったが、ディートリヒが目からビームを出してくれたことで皆黙り、大人しくテントで寝る。

次の宿泊場所はあの街だ。

是非ともお湯が出る装置を手に入れたい。


 明朝、少し遅めに出発するが、周囲には魔獣らしき感覚は無く、何事も無く立て看板を通り過ぎ、夕刻には街に入ることができた。


 俺とディートリヒは馬車を下り、皆の分の宿泊場所を押さえた後、すぐさま色街にあるあの店に行き、責任者に会った。


「おう、おっさん。あの魔道具が欲しいんだってな。」


周りに怖いお兄ちゃんに囲まれた…。でも、そんなの関係ない。真正面から突撃する!


「えぇ。 あの魔道具は素晴らしいです。

 今、家の改装をしている最中なので、あれを水場に付けたいんですよ。」

「ありゃ、風呂に付けるもんだぞ。」

「はい。風呂を作ります。」

「あんた、貴族か何かか?」

「いえ、しがない冒険者であり、商人ですよ。」

「お、商人か。何か良いモノあるのか。」

「いえ、これから商売するので、まだ商品はありませんが…。

あ、そうだ。

 奥様とか気に入った方とかはいらっしゃいますか?」

「そりゃ、かみさんが2人と、ねんごろの奴が一人いるけど何だ?」

「これから売り出そうと思っているモノを持っているのを思い出したので。」


 俺は、髪留めを3つ出す。


「お、おい。これってサーペントの鱗で作った髪留めか?」

「はい。そうです。」

「お前、これがいくらするのか、知ってるのか?」

「さぁ、まだ値段も決めてません。」

「これは、上質なものなら金貨2枚はするぞ…。」

「そうですか。」

「あんた、金貨2枚のモノを3つポンと出すんだぞ。

ここで髪留め3つだけで、俺達から命を取られるかもしれんのだぞ。」

「え、たかが金貨6枚じゃないですか。それくらいで命取られちゃ勿体ないですよ。」


 強面のおっさんは口を開けてあんぐりしている…。


「は?! 金貨6枚で勿体ない? ははは。

 俺たちはとんでもない方を相手にしているようだな…。

 よっしゃ、おっさん、この髪留め3つとと魔道具交換しようぜ。

 おらぁ、ザックって言う。あんたは?」

「ニノマエと言います。」

「こんな懐の深い方を見たのは初めてだ。

 気に入った!よし、交換してやるよ。」


 その後、俺はザックさんと裏の倉庫に行くと、魔道具が有るわ、有るわ。棚いっぱいにあるよ。


「ザックさん、これは?」

「おう、これはな、俺の曾じいちゃんの曾じいちゃんがここで商いをしていた時にな、ある若者から大量に買ったものらしい。」


 俺は鑑定してみる。

 水魔道具:ステンレス製、経年劣化防止、魔石省エネ化、魔石を替えれば百年は水もお湯も使えます。


ステンレス有るんかーい!!!


「でな、ニノマエさん、それともう一つ凄い魔道具があるんだが、俺の店ではこれを使っていないんだが、新たに風呂を付けるなら、どうかと思うが…。」

 

 俺はその魔道具を鑑定する。

 風魔道具:ステンレス製、専用浴槽の下部に本装置をセットすることでジャグジーとなる。


「ジャグジー――!!ザックさん、専用浴槽はあるんですか?」

「これだよ。」

「おぉぉーー。」


 その浴槽は5人くらい入ることのできるビーンズ型の浴槽だ。


「ザックさん、これも欲しいです。」

「おう、良いぞ。」

「あの…、この大きさと、後もう少し大き目のも欲しいんですが…。」

「は?! もしかして…、あんた風呂好きか?」

「当たり前です。風呂は正義です!」

「あちゃーーー。やっぱり、俺の眼に狂いは無かった…。

 『風呂好きに悪いヒトはいない』…、これは俺の家の家訓だが、こりゃ、運命だ。

野郎ども、俺はニノマエさんの弟分になる。分かったか!

これからはニノマエさんは、俺たちの兄貴だ。」


「へい!(((へい)))」


「それと兄貴…、この風呂が出来た暁には、俺と家族を風呂に入れてほしい。

後生だ、頼む。」

「あ、良いですよ。でも、1か月くらい待ってくださいね。その間に工事しますんで。」

「は?良いって? 兄貴、ヒトんちの風呂に他人が入るんですよ。」

「え、だってザックさんも言ったじゃないですか。『風呂好きに悪いヒトはいない』って。」

「兄貴…、俺、一生ついていきます…。」


あれ?感極まって泣いちゃったよ。

漢気がある人だな。


そんなこんながあり、とんとん拍子に決まったジャグジー付風呂セットを2つ、水魔道具を20個交換してもらうことになった。

ザックさんは馬車を準備すると言われたが、アイテムバッグがあることを告げ、ホイホイと入れていったら、口をあんぐり開けられた。


 俺は、ザックさんとは風呂を通して長い付き合いになると感じていたので、2t限定のアイテムボックス付きのバッグを一つ渡したら、兄貴から神様に格上げされた…。


 俺がシェルフールに住んでいる事や、風呂は1か月後に出来るので、その頃に遊びに来てほしい事を伝えザックさんの店を出た。

ディートリヒは『何故ザックさんの店を利用しないんですか?』と言うので、流石に知り合いのところに行くのも気が引けるよねぇ~って言ったら、悲しい顔されたよ…。

もう、可愛いんだから。

違うお店に入り、ディートリヒと久しぶりに二人きりの時間を楽しみました。


一方、宿屋では残念な人がずっと待っていたようだが、知らなかったことにしよう…。

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