第十二章 渡り人の思い

12-1 クローヌの館

「それじゃ、行ってくるね。夕方には戻るからね。」

「いってらっしゃいませ。」



メリアさんとディートリヒとで街の門へと移動する。

馬車で行っても良いんだけど、御者も必要になるし、大勢で動くことになってしまうので、フロートで行くことにした。


「この辺りでいいかな。それじゃクローヌまで行こうか。」


3人で人気の居ない場所まで行き、そこから飛んでいく。

時速何キロ出ているのか分からないが、ものの10分程度で行けてしまう。

地上よりも楽だし、何よりも少数で動けることが良い。


 クローヌの手前で地上に降り、3人でクローヌの街に入る。

相変わらず寂れた街だが、界隈にはドワさんが多い。


「カズさん、このような寂しい街を統治することで良いのですか?」

「ん?構わないよ。それに数か月したら、ここはこの王国にとって必要不可欠な場所になるからね。」

「すごい自信ですね。一体何をどうされるおつもりですか?」

「そうか、前に来た時はメリアさんはシェルフールだったね。

 ここは温泉がでるんだよ。」

「冷水ですか?」

「いや、地中からお湯が出るんだ。そのお湯に浸かると綺麗になれるんだよ。」

「え、本当ですか?」

「あぁ、肌がツルツルになったって言ってたね。」

「はい、奥方様。入った後は肌がスベスベになりました。」

「そうですか。肌がツルツル、スベスベになるんですね。」

「前に作ったあの露天風呂ってあるかな?」

「あれば良いですね。」


 そんな話をしながら、情緒ある街を抜け山の方へ歩いていく。

道は綺麗なので、何ら問題はない。

そろそろ見える頃かな、と思っていると、遠くから声が聞こえる。


「おーい!ニノマエさーん!」


遠くで手を振るいかつい男、ゴッツさんだ。


「ゴッツさーん、久しぶり~。って、もうここまで出来てるんですか?」


山の頂付近には茶色の豪邸が建っている。

外観はもう出来ているようで、今は内装に取り掛かっているとの事。


「まぁ、中を見てくれよ。俺が言うのもなんだが、すっげー良いぞ。」

「それじゃ、中を見させてもらうね。あ、材料はまだありますか?」

「そうだな。金属系が少なくなってきているが、まだ大丈夫ってところか。」

「それじゃ、少し置いていきますね。資材置き場は…、あ、あそこですね。」

「お、おぅ…、それよりもニノマエさんよ…。今日は違う別嬪さんを連れているんだが、紹介してくれねぇかな。」

「あ、忘れてました。こちらはメリアドール・アドフォード様です。」

「へ?あ、何だって?アドフォードって言ったか?

 ニノマエさん、冗談も程々にしておかないと、アドフォード家に失礼だぞ。」

「カズよ、そちらはゴッツと申したかの?

いかにも儂はアドフォード家の前当主であるが、何かな?」

「へ…。本物かいな…。こりゃ、失礼いたしました。

 儂らはこの街で大工を営むゴッツというしがないドワーフです。失礼いたしやした。」

「良い良い。それで、カズの館がこれか?

 中を見せてもらっても良いかの?」

「へい。では案内させる者を呼びます。おーい!誰か来てくれ。」


 女性だけで中に入っていく。

ゴッツさんが、ド直球に聞いてくる。


「ニノマエさん…、あんた何者だ?」

「ここの地を統治する者だけど。」

「何でアドフォード家の、それも氷の魔導師と仲が良いんだ?」

「それは諸々あってね…。簡単に言えばお目付け役だよ。」

「そう言う事か。あんさんホントは王宮のヒトなんだろ?」

「いや、王宮なんて行ったことが無いけど…。」

「んじゃ、何でアドフォード家と懇意にしているんだ?」


シェルフールで商売を始めたことを話した。

その商品が石鹸であったので、彼女の力を借り、販売にこぎつけたという話をすると、ゴッツさん目を輝かせている。


「ニノマエさんの事、よく分かった。

 王宮と喧嘩するような商品を市民に売るんだもんな。そりゃ王宮から目を付けられるわな。

 わっはっは、俺たちゃニノマエさんの味方だよ。貴族なんてもんはお高くとまってるだけで何もしないからな。

任せとき!この館を貴族よりも豪奢にしてみせるぜ!」


 いえ、そこまでは必要は無いんですけど…。


「あ、そうだ。ゴッツさん達って石鹸必要でしょ。

 今あるのがこれくらいしか無いけど、皆で使ってください。」

「お、いいのか?なんでもシェルフールでも売り切れてる商品なんだろ。そんなもん貰ってもいいのか?」

「問題ないですよ。あ、それといつものやつも渡しておきましょうかね。」


石鹸10個とテキーラ10本、スピリッツ10本渡す。


「流石ニノマエさんだ。あと3日で仕上げて見せるぜ!」

「それと余った材料で館の隣に家も建てとくぞ。どうせメイドさんとかを雇うんだろ?」

「話が早いですね。で、残りのお金は引き渡し当日で良いですか?」

「問題ない。あと何か欲しいものはあるか?」

「そりゃ、いろいろありますが、それは追々にしましょう。

舘ができた後にも、やって欲しい事がたくさんありますからね。」

「そりゃ、俺たちにとって嬉しいことだが、いいのか?」

「そうですね。今度の工事は大がかりになりますので、大勢必要ですよ。」

「何人くらい必要だ?というより、何を作るんだ?」

「温泉を利用した公共浴場とそれに付随する建物ですね。」

「おぉ!風呂か!それいいな。

 規模にもよるが、どれくらい大きなものを作るんだ?」

「そうですね…。規模的には分かりませんが、施設全体で白金貨1枚で作りたいと思っています。」

「へ?白金貨?お前さん…、そんな金どこから出てくるんだ?」

「まぁ、いろいろあるんですよ。」


そんな話をしていると、メリアさんとディートリヒが走って来る。


「カズさ…、コホン…カズよ、この館は何だ?」

「何だと言われましても、俺まだ見てないですし…。」

「カズ様、地下にお風呂が二つあります!」

「あ、男湯と女湯ね。」

「一つではないのですか?」

「別に一つでも良いけど、男性もここで働くことになるからね。」

「そういう意味でしたか。では、舘の部屋ですが、非常に広いのですが…。」

「そりゃ、今の部屋よりは広いと思うけど、どれくらい広いのかは見てないから分からないけど。」

「それに、すべての部屋に今と同じようなドレッサーが置いてあります。」

「そりゃ、今よりも不便にしちゃいかんでしょ。

 って、まだ俺見てないから、一緒に見ようよ。」

「はい(はい)。」


 メリアドールさんが何故俺に従っているのか疑問に思いながらも、2人が俺の腕を組んで館の中に入っていく姿を見て呆けるゴッツさんがいた…。


「って、すげーな…。この館。」

「でしょ。このダイニングなんて何人で食事するんですか?ってくらい広いです。

 それに2階のカズさんの部屋…立派です。」

「単にだだっ広いだけなんだけど…。」

「これなら、10人寝ても大丈夫ですね?」

「10人?」

「はい。私、レルネ、ディートリヒ達7人とカズさんで10人です。」

「えと…、そんな事したら、俺死んじゃいますが…。

それにそんな大きなベッドなんて広すぎて寝れませんよ。ベッドで泳ぐつもりですか?」

「いいえ、ベッドは泳ぐものではなく、寝るものです。」

「その通りですけど…。

まぁいいや。で、3階は8部屋だよね。」

「どの部屋に誰が入るのか話し合いしなければいけませんね。」

「というより、誰がクローヌに来るか、だな…。」

「みんな一緒に住むことが難しくなってきましたものね…。」

「あぁ、大所帯になったからね。でも、俺たちはフロートが使えるから10分ちょいで皆一緒に会えるからね。」

「カズ様、まだ習得されておられない方もいらっしゃいますので、早めに皆に習得をお願いしますね。」

「はい…、善処します。」


ゴッツさんにもう一度会い、3日で完成させてみせると息巻いているので、残り5日でお願いすることを伝え、明日、今度は街で作る公共浴場について打ち合わせを行うこととした。


 ゴッツさんと別れ、山に向かう。

露天風呂…ちゃんとありました!

3人で大自然の中での露天風呂を満喫する。


「匂いが少し気になりますが、肌がツルツル、スベスベになるのが分かりますね。」

「あぁ。これを館にも作ろうと思う。」

「それは良いことですね。で、屋敷のどこに作るおつもりですか?」

「山頂に作ろうと思うんだよね。」

「それは素晴らしい!是非皆で入りましょう!」


 夢ができた。

山頂に温泉を出すには結構深く掘らなければいけないけど、俺、みんなと露天風呂に入るために踏ん張るよ!

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