5-8 レルネさんからの依頼

だって、俺の魔銃が金貨4枚だ。

オリハルコンが希少だと思えば、これくらいするだろう。


ディーさんとナズナはまだ向こうの世界に行っているので、さっさと話を進めてしまおう。


「レルネ様、それと防具関連も良いものがあるといいんですけど。」

「イチよ、おぬしは余程羽振りがよいのじゃな。」

「まぁ、家も買いましたし。」

「ほう、家を。」

「はい。ゆくゆくは商売もしたいと思い、商業地区に買いました。

今、改装中なので、今度出来上がったらご招待させていただきますね。」

「イチよ。分かっとるじゃないか。

 そうか、家を、店をのう…。で、何を売るんじゃ?」

「それがまだ何を売ろうか決めていないですよね。」

「なんじゃ、そんな事か。分かった。何か問題があれば儂が相談にのってやるぞ。

 泥船に乗った気分でおれ!」

 

 この世界にもことわざのようなものがあるのか…。しかし、泥船に乗ったらすぐに沈むんだが…。


「防具であったな、イチよ、残念ではあるが防具は置いていないのじゃ。」

「え、でもこの間トレンチコートを買いましたよ。あれを防具として使っていますが。」

「あれはあくまでも外套じゃ。外套であればそこにあるから見てみると良い。」


 俺は、まだ旅行中の2人を放置し、外套が展示しているブースまで行く。

はい…、合羽です。なんか可愛くない…。

もっと二人に合う外套、そうコートのようなものは…、あった。


 ディートリヒはマントタイプ、ナズナはポンチョタイプ。

マントタイプの外套はアーマードレスにも似合うようなロングコートタイプで、エレガントだ。

ポンチョタイプはナズナの腿あたりまでのショートタイプで可愛らしい。

 両方とも鑑定をしてみると、経年劣化、耐寒、耐熱、魔法耐性弱、防御力向上とある。

ん?経年劣化?


「レルネ様、この2つはもしかすると“渡り人”の?」

「なんじゃ、目ざといの。それもそ奴が『絶対かわいい子連れてくるからこれ作っといて!』と言って頼んでいったものじゃ。」

「もしかして、ショーテルにマナ入れると色が変わるって付与も…。」

「そうじゃ。そやつが依頼していったものじゃ。」


 おい!前の“渡り人”、もとい“迷い人さん”…、あんた厨二病的な何かがあったんじゃないのか?

まぁ、俺も嫌いではない口だから…、良いのか?まぁ、良いんだろうな…。


「もしかして、まだそういった商品って置いてあるんですか?」

「あぁ、置いてあるぞ。」

「あの、レルネ様…。」

「何じゃ」

「それって、不良在庫って言うんじゃないでしょうか…。」

「そうとも言うが、数百年かかったがイチが買ってくれるから問題は無いぞ。」

「はぁ…、まぁ、お金があるうちはその不良在庫を買うようにします。

前の“迷い人さん”への手向けになるかもしれませんからね。」

「ほほ、殊勝な心掛けじゃ。因みに“迷い人”とは何じゃ?」


 俺は、残念なヒトではあるが、ある意味素敵なヒトだと伝えた。


そして、外套2着、剣2本で金貨9枚を支払った。

因みに外套を2人に着てもらうと…、うん。最高!良い買い物だったよ。


 レルネさんにお礼を言って宿に戻ろうとすると、レルネさんが声をかけてきた。


「ところでイチよ。折り入って話があるのじゃが、2人で話せんかの?」

「はい。問題ありません。場所は…。」

「イチが決めてくれ。」

「では、2時間後に“シュクラット”でどうでしょうか。」

「うむ。分かった。」


 俺たちは店を出て、待ち合わせの時間まで、家で使う家具類を購入していく。

二人にはこれからずっと住む家だから、使う家具は妥協するなって伝えてある。

最初はおずおずとしていた彼女たちではあったが、だんだんと感覚が麻痺してきたのか、なかなか良いものを選んで来る。

 各階のイメージを説明して購入していく訳なので、イメージが大切なんだよな…。


 物価が安いのか金貨4枚でおつりがくる…。

俺自身、武具に関する金銭感覚の麻痺が続いているんだろう…。

一番麻痺しているのは俺だわ。

でもこれで良い。金は回してこそ経済は回るんだ。アイテムボックスの中に入れておくだけでは何も始まらない。


 ほとんどの家具類を購入し、家ができるまで保管を依頼し家具屋を出てシュクラットを目指す。

そろそろ約束の時間なので、ディートリヒとナズナは同じ店の別室で何でも頼んでいいからと言って、俺だけ別室に行きレルネさんと会う事にした。

既にレルヌさんは到着しており、席に座っている。


「お待たせして申し訳ありません。」

「いや、儂も今着いたところじゃ。」

「じゃぁ、メニューは料理人さんのお任せでいいですか?」

「あぁ、構わん。」



「おぬしも、店を構えるようになったのか、大出世じゃの…。」

「まだまだですよ。」

「のう…。ひとつ相談に乗ってはくれぬか…。」

「まぁ、まだ家も出来てませんし、商売も何を売るのかも決めていませんし…。

なので全然問題ないですよ。」


俺は心の中でサムズアップする。


「のう、イチは“薬草おっさん”であったの。」

「そうです。」

「ダンジョン内で儂が欲しいと思う薬草を採って来れるか?」

「レルネ様がほとんど扱っている薬草以外にあるんですか?」

「エリクシールの材料となるものを採って来てほしいのじゃ。」

「ほぉ…。エリクシールですか。エリクシールと言えば、万能薬でもあり、若返りの薬だとか?その材料となるエリ草なら少ないけどダンジョンにはあると思いますよ。それ以外にも必要な材料は何とか手に入りそうだが、アルコールだけは、あ、あるか。

でも、エリクシールなんて作れるんですか?

確か、国のお偉方か、ごく限られた人しか成功しないって聞いたことがありますが…。」


確か、冒険者ギルドで薬草採取をしていた時、ギルドからそんな事を言われた気がする。


「分からんの…。成功率は低い…とでも言っておこうか。」

「何かあったのですか?」

「儂の故郷での…、少し困った事があったのじゃ。」


レルネさんが住む里のことを一通り聞くことになった。

話によれば、レルネさんが住む里は、ここから徒歩で一週間程度かかる森で300人くらいが住んでいるらしい。その森の奥山には最近コカトリスの縄張りがあり、縄張りに入った里人を襲ったようだ。

襲われた里人は、今は一命は取り留めているものの未治療で、麻痺や石化を受けその範囲が広くなってきている。そのためにも一刻も早くエリクシールを処方しなければ里を守ることができない、との事のようだ。


「レルネ様…。失礼なことを言ってるかもしれないから、先に謝っておきますが…。

例え麻痺や石化が治ったとしても、そもそもコカトリスの縄張りに入った里の人が原因であって、これからも同じ問題が起きるんじゃないですか?

それに、自分たちの縄張りを犯された者であれば、誰だって怒りますよね。」

「相手は魔獣じゃぞ…。害があるモノを倒して何がいけないのか…。」

「それは、レルネさんの一方的な意見、つまり郷の立場として主張しているだけですね。

ご都合主義かもしれないけど、コカトリスから見れば、自分のテリトリーに入って攻撃してきたやつや、危険を察知した相手を敵とみなすことは当たり前のことなんじゃないかって思います。」

「でも、相手は魔獣…。」


 うん、ヒト以外は害として考えているんだよな…。


「自分は、すべての魔獣が害であるとは思っていませんよ。確かに襲ってくれば仕方が無く倒しますが、ダンジョンと違って彼らもこの地上で生きているものですからね。

ラノベのお決まり事なんですが、仮にこの世にドラゴンが居て、そのドラゴンに知能があり意思疎通ができるのであれば、それでも倒すのかな…。なんて思います。

あ、勇者なら倒すか…。

でも、もしできることなら説得し棲み分けすることで、それらの魔獣とも共存しハッピーな生活を送ることができれば良いんじゃないですかね。

なーんて、ダンジョンで魔物を殺し、スタンピードで飛んでも無いことをしてきた自分が言うのも何ですけど…。

まぁ、理想論ですけどね。」


 殺さずに共存できれば一番良い。でも無理なら掃討する…。

ミミズだって生きているんだ。オケラもアメンボも…。


「魔獣と共存できるなぞ理想論じゃぞ…。でも、その前に里の被害を抑える事が第一じゃ…。」

「まぁ、そうなんですけどね。先ずはレルヌ様の郷を救う事から始め、それから追々と考えるのが一番ではないかと思います。

自分に何ができるのかは分かりませんが、自分もその郷に行ってみましょうか」

「儂としては助かる…。」

「んじゃ、旅行がてら自分のパーティーメンバーも連れていきたいし、エリ草とかもダンジョンから採って来たいんで、1日待ってもらえますか。

明後日の朝食後に南門で集合という事でどうでしょうか」

「うぬ。分かった。」


 その後食事をし、“前の渡り人”について聞く。

やはり、夢がいっぱいなキラキラな少年だったようだ。


その晩、レルネ様と別れ、ディートリヒとナズナと合流し、レルネさんの郷に行くことを告げた。


「カズ様との旅行…、ムフ~…。」

「お館様…、それは楽しそう…」

 

共通して言える事は、動機が依頼ではなく旅行になっている…。


「その前にダンジョンでエリ草などの薬草を取ってこなくちゃいけないからね。」

「分かりました!(問題ありません)」


忘れていました。

皆、目的のためには踏ん張る“肉食冒険者”でした…。

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