第102話 正座催眠
パァン
「いくら先輩がエッチでも、動けなかったら何もできないですね」
後輩の詩音は、からかうような笑みを浮かべてそう言った。
「そもそも俺がエッチだというのはいったいどこから……」
両手を膝に置いたまま、俺は抗議する。今日詩音がかけた催眠は『正座のまま動けなくなる』というものだ。
「おや?先輩はエッチではないと。本当ですか?」
そういうと、詩音はワイシャツの第二ボタンをプチン、と外す。第三ボタンも。胸の谷間がはっきりと見えるくらいに深く襟元がはだける。ワイシャツから白い肌と黒いレースのブラが覗く。
「!?」
俺は思い切り横を向いて目をそらした。
「あはは!先輩真っ赤!」
詩音が大笑いしたあと、ひそやかな声になって俺の耳元で囁く。
「先輩。ちらっと見えたかもしれないですけど、今日の私の下着、すっごくエッチなんですよ」
その言葉に、ただでさえ速くなっていた心臓の鼓動が暴れ回る。詩音が小さく笑う息と、1歩離れて立ち上がる気配、それから衣擦れの音が耳に届く。
「ほら、先輩。そっち向いてていいんですか?可愛い後輩がスカートをたくし上げてますよ?」
その言葉に、首を固定したまま眼球だけで詩音の方を見る。『すっごくエッチな下着』が見たいのではなく、あくまで確認のために。
「うわあっ!?」
詩音の姿が目の端に入って、思わず二度見して向き直ってしまった。その反応に詩音は自慢げな、あるいは嘲笑するような笑みを浮かべた。
黒の、大人っぽい雰囲気のレース。そして、正面から見たシルエットがTだった。普通なら三角形をしているはずの布が、ほとんど真っ直ぐ上に伸びて、大事なところだけを隠している。太ももの付け根は剥き出しになっていて、骨盤の上で結ばれた蝶結びがかすかに揺れる。
「ふふっ、そんなにガン見しちゃって。どの口がエッチじゃないなんて言ったんですか?」
そう笑って詩音は体育座りに座り込んだ。太ももの間からは、まだパンツが見えている。膝を抱いた腕に顔を埋めて、詩音は少し恥ずかしそうに、はにかんだように笑った。
「顔も真っ赤ですし、鼻息がこっちまで届きそうですよ?先輩のエッチ」
そう言いながら詩音の手が、白い太ももを滑る。スカートの中に潜り込んで、腰の上の蝶結びをするりと解く。
「!?!?」
「ふふっ、解いちゃいました。ちょっと動いたらもう全部見えちゃうのに、何もできなくて、もどかしいですね?ほら、先輩の興奮した顔、もっとよく——」
そこまで言って詩音は、はっとしたように言葉を切ると、顔を真っ赤にしながらスカートを床に押さえつけた。パンツが隠れる。それから詩音は俺のことを睨む。
「せーんーぱーいー?」
俺はギクリと、さっきとは逆の方向に目をそらした。詩音は立ち上がると、俺の肩に後ろから抱きついて、耳元で囁いた。
「——今日催眠をかけたの、先輩ですよね?」
「い、いや?だってほら、『詩音が正座催眠をかけた』って——」
「とぼけるんなら、このまま夜まで正座しててくれてもいいんですよ?」
その問いかけに、俺は口ごもりながら応える。
「お、俺がかけたのは『正座催眠をかけた』って催眠だけだし——」
「本当ですか?」
そう訊ねながら、詩音は足の親指で痺れ始めた俺の足の裏に触れる。
「ひぅっ!!……ちょっとだけ、発情する催眠も……」
俺の答えに、詩音は小さくため息をついて、耳に息を吹き込むようにして囁いた。
「先輩のエッチ」
背筋がゾクゾクして、体が震える。俺は大きなため息を吐きながら足を崩した。
「はぁ〜〜。今回は俺の完敗かぁ。余計な催眠までかけなきゃよかった」
詩音も背中にピッタリとくっついたまま、俺の後ろに腰を下ろす。
「そういえば詩音、ひとつ気になってることがあるんだけど」
「なんですか?」
小首を傾げる詩音に、俺は『それ』を指差す。詩音が指の先に目をやる。指の先には、さっきまで詩音が座っていた場所に、黒い紐状のものが落ちていた。
「なんですかあれ?……紐?先輩、あれがどうかしたんですか?」
「いや、今回の催眠とは関係ないと思うんだけど——詩音、『あれ』は……どうして?」
『いつ買ったのか』とか、『なんで今日着てたのか』とか、5W1Hの全てが気になりすぎて、ひとまずWhyだけを訊ねる。詩音は眉間に皺を寄せながら目を凝らして、それがさっきまで自分が履いていたパンツであることに気づくと、耳まで真っ赤にしながらスカートを押さえて飛び上がった。
「!?!?!?!?」
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