第47話 抱き枕催眠3

 パァン!


「……ん?ってうわぁああ!?」


 一瞬、本物の詩音がベッドに寝ているのかと思って驚いてしまった。呼吸を整えて、もう一度ベッドの方を見る。


「しかし、すごい出来だな」


 ベッドに横たわっているのは詩音本人ではなく、等身大の抱き枕だ。詩音が「この間のY○gib○のお礼です」と言っていた記憶がある。抱き枕、というよりはもはやドールに近い。こんなものいったいいくらしたんだ?100万円ではきかないように思えるのだけど。


「……そしてすごい格好だな」


 抱き枕の詩音は制服を着てはいるのだけれど、ワイシャツのボタンはすべて外れて辛うじて引っかかっているだけだし、スカートもファスナーが全開になって鼠蹊部が見えるくらいずり下がっている。しかも、隙間から見える肌色からすると、どうも下着は一切つけていないようだ。抱き枕カバーとしては王道の構図だとしても、こういう形で目の前に現れると背徳的で、扇情的だ。


「ごくっ」


 あらがいようもなく視線がスカートに惹かれるのを感じる。俺は小さく震える手で詩音のスカートの裾をつまんだ。やましい気持ちなんてなくても、スカートの中の『仕様』を真っ先に確認するのは男として自然なことだ。美少女フィギュアを買った男の99割が最初にすることのはずだ。それに今回はモノがモノである。『どんなパンツを履いているか、あるいは履いていないか』や『“そういう機能”がついているか』ということの確認は、最重要事項のはずじゃないか。呼吸と心拍が速くなる。10秒くらいスカートの裾をつまみ続けたあと、俺の指はそれを持ち上げることなく離した。


「ふうぅぅ〜」


 思わずため息が漏れる。何をやっているんだ俺は。何も悪いことはしていないはずなのだけれど、人としての一線を越えかけたような気がした。頭をふるふると振って詩音の顔の方に目をやる。それから詩音の頬に手を添えた。


「肌の質感まで本物とそっくりだ」


 ぬくもりさえ感じるような、しっとりとした感触。いったいどんな材料でできているのだろう?ドールの世界は奥が深い。自然と視線は首筋をなぞっていき、胸の谷間に吸い込まれた。心臓が跳ねる。


「……抱き枕、だもんな」


 息が上がっていくのを感じながら、俺は詩音の胸元に顔を寄せた。胸の膨らみでワイシャツと身体の間にできた隙間が見える。そのまま俺は……ワイシャツの襟を引き寄せてボタンをしめた。ついでにスカートのファスナーもあげる。


「ふう」


 一仕事終えたように息をつく。いや、何も間違ってないはずだ。だって、つまりこれは枕カバーなのだから。しっかりついてないと汚れてしまうだろう。もし汚れてしまったら、こんなものどうやって洗えばいいか分からない。……もしこのクオリティーで乳首まで作り込まれていたら、色々歯止めが効かなくなるだろうと思っていたのも嘘ではないが。


 気を取り直して詩音の胴に腕を回す。布越しの、柔らかい膨らみに、鼻先が触れる。それから俺は、詩音を横向きに寝かせ変えて、後ろから抱きついた。


「いや、何やってんだおれ」


 ため息まじりの独り言が漏れる。それから、鼻から息をすった。髪の匂いが鼻をくすぐる。


「匂いまで詩音そのままじゃないか」


 つむじに鼻をうずめて、抱きしめる力を強くする。腕に、柔らかい感触がかすかに触れる。


「詩音、大好きだよ」

「……ぷっ!くくく……」


 ……え?腕の中で抱き枕が震える。そして


 パチン


 指パッチンの音が響いた。腕の中の抱き枕が、寝返りをうって向き直る。


「……本物?」

「おや?私に偽物がいるんですか?それは一大事ですね」


 そう言って詩音はいたずらっぽく笑った。


「にぎゃーーー!!」

「まったく、抱き枕相手に何をそんなに遠慮してるんですか、先輩は。スカートめくりでも、ぱふぱふでも、先輩の好きなようにしていいのに」

「いっそ、いっそ殺してくれぇ……」

「おや、腹上死をご希望とは。ずいぶんハードはプレイがお好みなんですね、先輩は」

「ちーがーうーー!!」

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