第48話 超健全催眠
パァン
手を叩く音に意識が浮上する。目を開けると、目の前に後輩の詩音が満足げな顔で座っていた。さっきまでトランス状態だった俺に、なんらかのエッチな催眠をかけているはず。最近はずいぶん催眠の腕が上がってきているが、はてさて。
「それで、今日はどんな催眠なの?」
「とりあえず先輩、服脱いでください」
「……は?なんで?」
あまりの急展開に聞き返すと、詩音は露骨に眉をしかめた。
「いや、今更なんでもなにもなくないですか?」
「それはそうだけど、やっぱり雰囲気とかあるでしょ?こう、なんか盛り上がってその結果としてさ。いきなり脱げと言われると、いくらなんでも流石に抵抗があるというか……」
「ああ、もう。めんどくさい人ですね。こんなことなら起こす前に剥いておくんでした」
そう言って詩音が大きなため息をつく。いや、俺なにか間違ったこと言ったか?
「わかりました。脱がなくてもいいんで、パンツの中を見てみてください。私に見せなくても大丈夫です」
やれやれとばかりに詩音が首を振る。納得がいかないものを感じながらも、俺は促されるままにベルトを外してズボンの中をのぞきこんだ。なんとまあ間抜けな構図——
「……ないんだけど」
「先輩?わかりました?」
「……ちん○んがないんだけどおぉおぉぉぉっ!?!?」
俺は絶叫した。この連載が始まって以来の絶叫だった。
「ああ、よし。ちゃんとかかってますね」
「ち○ちんが!○んちんがない!」
「そうですね。なかなか難しいかと思ったんですが、うまくいってよかったです。そもそもカクヨムでは性的描写アリにチェックを入れていても、R15以上の表現は禁止されているんですよね」
「ちんち○が、ち○ちんがぁ……」
頭を抱えてうなだれる俺に、苛立ちをあらわにして詩音が一喝した。
「……ああもうっ!○んちん○んちんうるさいですよ!先輩はち○ちん星から来たちん○ん星人ですか!それともあれですか?1話あたりに『○んちん』という単語が登場する回数のカクヨム記録でも狙ってるんですか?」
「なんて理不尽な……」
あまりの言い様に力尽きたようにツッコむことしかできない。俺が落ち着いたのを見た詩音は、ふうっと一度息をついて話を続けた。
「それで、どこまで話したんでしたっけ?カクヨムでR18描写はできないって話まではしましたよね。直接的に性器を描写するような記述があれば、運営から警告のメールが飛んで来て修正を要求されます。まったく、なんのためのセルフレイティングなんだか」
「……詩音?何かあった?」
「何もありませんよ。ええ、何も。むしろ感謝してるくらいです。先輩も感謝しといてください」
目をつぶって腕組みをしながら詩音が言った。
「そこで私は、ラノベ界の偉大な先人の発想を借りることにしました。いうなればこれは『超健全空間催眠』です」
「超健全空間?ああ、具現化しりとりの」
俺がそう応じると、詩音は我が意を得たりとばかりにうなずいた。
「その通り。今、先輩の主観ではここは、『局部が存在しない空間』になっています。これなら全年齢向け間違いなしです。そして——」
詩音はそこで言葉を切ると、襟を広げるようにしてガバっとシャツを脱いだ。思わず両手で顔を覆って目を背けると、詩音がくすくすと笑う気配がする。
「もう、ちゃんと見てください。先輩、全年齢向けの私は、どうですか?」
恐る恐る向き直る。目を開けると、靴下だけ履いた詩音が立っていた。詩音が話していた通りあるべきところにあるべきものがなく、滑らかに肌が続いている。それがある種の生感のようなものをそぎ落として、たとえば大理石の彫像に近いような美しさを感じた。
「先輩、顔真っ赤ですよ?いつもはそんなことないのに」
詩音に笑いながら指摘されて俺はまたも顔を背けた。だって、仕方がないだろう。普通の裸の方が性的なはずなのに、こっちの方がドキドキするのだ。ちょうどグラビアとAVの差のような……
「先輩、ダメですよ。まだ高校生なのにAVなんて見ちゃ」
「地の文にツッコむのはまた別の回にしてくれない!?」
悲鳴のように俺がいうと詩音は吹き出した。それから俺の身体に体重預けるようにもたれかかる。
「それで、どうですか先輩?」
詩音が重ねて感想を要求する。
「……とってもきれいだ」
「語彙少なっ!まあいいです。ギリギリ合格としてあげましょう」
そう言いながら詩音は額を俺の肩に擦り付けた。
「これでカクヨムでもエッチなことし放題ですよ。なにせ超健全なので。よかったですね、先輩」
「……胸揉んでもいい?」
「あ、それはだめです」
「……え?なんで?」
虚を突かれた俺が硬直していると、詩音が俺を見上げながら解説した。
「感触と認識の食い違いが大きくなると、催眠が解けちゃうじゃないですか。だからだめです。というか、局部には触れないように暗示がかかってます」
なるほど、なるほど。なるほど……
「なんだよそれぇっ!」
詩音の腕をすり抜けるようにして俺はしゃがみ込んだ。
「もう、拗ねないでくださいよ」
「だってぇ、だってあんまりじゃないか。目の前にすっぽんぽんの詩音がいるのに、ちん○んは無いし、おっぱいには触れないし。こんな生殺しってないよ」
「先輩、今回なんか精神年齢が退行してません?」
詩音は呆れたようにため息をつくと、目線を合わせるようにしゃがんだ。
「仕方ないですね。先輩、少しだけ身体を委ねてください」
そう言って詩音は俺を床にゆっくりと押し倒した。それから身体をぴったりと押し付けるように抱きつくと、剥き出しの太ももを俺の脚に割り込ませると股の一番深いところ同士を押しつけた。
「せんぱい。ぎゅってしてください」
「ま、待って、詩音!あ、ああぁぁっ!!」
ビクンビクン。ビュルルル。
「はぁ……はぁ……先輩、そんなに興奮してたんですか?」
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