第49話 ぱふぱふ催眠
パァン!
手を叩く音。目を開けたはずなのに、目の前は真っ暗だった。それになんだか温かくて、柔らかくて、甘い匂いがする。
「うわぁぁ!!」
数秒の思考のあとで事態を理解した俺は飛び起きようとしたが、腰から上に力が入らずガクンと倒れ込んでしまう。
「お。お目覚めですか?先輩」
頭上から後輩の詩音の声が降ってくる。それで確信を深めた。俺は今、仰向けに寝転がった詩音の胸の谷間に顔を突っ込んだ体勢を取らされている。
「詩音!なんのつもりだ?」
その言葉を聞いた詩音は、少し間を空けてから言った。
「先輩って、おっぱい大好きですよね?」
「そんなわけあるか!!」
「ほら、おっぱい大好きなくせにそんなリアクションする人だから、今回は私が無理矢理にでも先輩が大好きなおっぱいを堪能させてあげようと思い立って、こんな催眠をかけましたとさ。分かりましたか?先輩」
「だめだこいつ全く話を聞く気がねぇ」
「もう、騒がないでくださいよ。息がかかってくすぐったいです」
小さく笑いながら詩音が言って、俺は脱力した。
「それで、どうですか?先輩が大好きな後輩おっぱい、こうぱいのお味は」
そう言いながら詩音は、両胸を俺の頬にぽよんぽよんと押し付けた。しっとりとした肌が柔らかくこすれる。
「詩音ってジョークのセンスは無いよなと思ってる」
頭が真っ白になりそうなのを堪えながら俺は言った。
「むぅ。そういうこと言わないでくださいよ。私も控えようとは思ってるんですけど、無意識にでちゃうんですよね……。じゃなくて、私のおっぱいについてですよ。気持ちいい〜とか、まるで天国みたい〜とかないんですか?全男性憧れのぱふぱふですよ?」
何か言うとボロが出そうなので俺は黙り込んだ。そんな俺に対して詩音は両腕で胸を挟み込むようにしながら俺の頭を撫でた。脳の芯が痺れるような快楽に、思わず小さく声が漏れる。それを聞き逃さなかったのか、詩音が満足げに笑うのをお腹の振動で直接感じた。
「まあ、言わなくても分かっちゃうんですけどね。先輩がうっとりしちゃってることくらい」
そう言いながら今度は胸を上下に互い違いに擦り合わせる。
「満足したなら催眠を解け」
「もう、だからなんでそんな反応なんですか?その……恋人同士なんだから、遠慮することないじゃないですか」
詩音の声が微かに悲しみの色を帯びて焦る。
「そっか!先輩はぱふぱふよりもおっぱいを吸う方が好きなんですね!それで不満そうにしていると」
「違うわい!」
焦って損した。
「違うんなら、なんなんですか?」
柔らかな口調の中に譲らないものを感じて、俺は黙りこんだ。そして
「挟まれるのも、吸うのも、揉むのもみんな大好きです」
俺は観念して答えた。耳が燃えているみたいだ。
「まったく、最初からそう言えばいいのに」
詩音は満足げにそう言いながら、むぎゅうっと両胸で俺の顔を挟んだ。
「いや、だって……かっこ悪いだろ?」
「へ?何がです?」
俺の言葉に、詩音はキョトンとした声で聞き返した。
「何って……おっぱいが好きだなんて」
俺がそう言うと2秒の沈黙の後、爆発するみたいに詩音は笑った。
「あはははは!!!そんな、そんなこと気にしてたんですか!?今更ですよ、いまさら。先輩がおっぱい大好きなことくらいとっくに知ってますし、だいたい別に先輩がかっこいいから好きになったわけでもないですしね。それなら、素直に求めてもらえた方が、私は嬉しいです」
「わかった。分かったから笑うのやめて」
「すみません。でも、おかしくて」
「そうじゃなくて」
詩音が首を傾げる気配がする。俺は俯き加減になりながら言った。
「……笑うたびにぽよんぽよん胸がぶつかって、大変股間に悪い」
その言葉に、また詩音が吹き出した。
「ねえ、詩音」
ようやく笑いが収まって、苦しそうに息をする詩音に呼びかける。
「なんですか?先輩」
「……俺が揉んでもいい?」
「……はい。丁寧に扱ってくださいね?」
その言葉に、俺は詩音の胸に手を添えた。下からすくいあげるようにして揉む。真ん中に寄せるようにして、手と顔で感触を味わう。詩音が甘い声を漏らす。
「んっ……先輩、触り方えっちです。……先輩?」
反応がないことに詩音は困惑したような声を出した。俺は、半ば寝息のように深い呼吸をしていた。詩音が俺の頭をなでる。
「おっぱいに癒し効果があるって、本当だったみたいですね。疲れてるときはたまにやってあげた方がいいかもなぁ」
それは遠慮したいなぁ、と思いながら、俺は意識を手放した。
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