第55話 デレデレ催眠
パァン
「……先輩?」
「おはよう詩音」
手を叩く音で後輩の詩音がトランス状態から目を覚ます。
「先輩、今日はどんな催眠をかけたんですか?」
「あー、今日はそんなにエッチな催眠じゃないかも」
その言葉に、詩音の表情にわずかな翳りが見えた。
「そんなにエッチなことが好きなの?」
「そ、そうじゃないんです!」
からかい混じりに詩音に問いかけると、詩音は真っ赤になって打ち消した。それから、少し俯きながら続ける。
「エッチなことが好きという訳ではなくてですね……私は、その、先輩に求めてもらえるのが嬉しいんです。いつもいつも先輩のことを想っていて、先輩を欲している私が、先輩を幸せにしていると感じられるだけで、胸の奥がきゅううってなるくらい嬉しいんです」
訥々と話す詩音の言葉に、心臓が握りつぶされるような感覚を覚えた。直後、俺はほとんど無意識のうちに詩音を抱きしめていた。
「先輩!?」
「こうすれば分かる?俺がどれくらい詩音を求めているのかが」
耳元でそう囁くと、驚きで強ばっていた詩音の身体から力が抜けた。それから詩音は俺の背中に腕を回して抱きしめ返した。甘えるように、確かな強さで。
「詩音、好きだよ。俺もいつもずっと詩音のことを考えてる。」
「あ……」
詩音が切なげな声を出す。頭の後ろに手を添えながら、腕を緩めて詩音と目を合わせる。詩音の目は少し潤んでいた。
「キス、してもいい?」
「……はい」
少しか細い詩音の返事に、俺は浅く唇を重ねた。二度目はもっと深く。舌先が触れ合って、詩音が俺を受け入れる。おそらく鼓動が100回を超えたあと、唇を離すと詩音はうっとりと蕩けたような顔をしていた。
「えへ、えへへ」
少しの間見惚れていた俺に、ゆっくりと目を開けた詩音は照れたような笑みを浮かべた。愛しい気持ちが溢れて、俺は詩音をそのまま抱き上げてベッドに転がした。覆い被さる俺に、詩音は期待の混じった目を向ける。
「詩音、好きだよ」
「私も、私も先輩が好きです」
それから俺たちはもう一度深いキスをした。
——パチン
催眠を解くために指パッチンをすると、詩音は一度身体をビクッと震わせた後、耳を赤くして俺の裸の胸に顔を押し付けた。
「ううっ、先輩……」
「今日も可愛かったよ、詩音」
恨めしそうなうめき声をあげる詩音の頭をなでる。今日の催眠は、簡単に言ってしまえば『素直になる催眠』だ。普段なら躊躇うような本音もそのまま言ってしまうようになるという。
「先輩……!今日のことは次回までに忘れるんですよ。いいですね?」
凄む詩音に笑いながら返事をする。
「え〜、可愛かったのに」
「さもないと——」
「ないと?」
「私の持つ催眠術のすべてを駆使して、今回の相手が秋山だったと記憶を書き換えますよ。いいですね?」
「それはひどく嫌だなぁ」
そう答えると、詩音は小さくため息をついた。
「詩音?」
「先輩も、こんなめんどくさく拗らせた性格の後輩よりも、もっと素直で可愛い後輩の方が好きなんでしょうか?」
「いや?俺は詩音が好きだけど?」
俺がそう答えると、顔が見えないから分からないが詩音は驚いたような気配を見せて、俺の背中をつねった。
「今そういうこと言うのやめてください。つねりますよ?」
「つねってる。すでにつねってるから」
俺のツッコミに詩音は指を離して、それから俺に聞こえないくらいの声でつぶやいた。
「でも……私はもう少しだけ素直になりたいな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます