第54話 乳首催眠

 パァン!


 目を開けて、状況を理解する。「何が起きているか」は、聞くまでもなく理解できた。問題なのは「何をするつもりか」だ。


「なんのつもりだ」


 俺は俺を見下ろしている後輩の詩音に訊ねた。今日詩音がかけた催眠は、オーソドックスな身体拘束系の催眠なのだろう。詩音の部屋のベッドに仰向けになった俺は、両手を枕にした体勢から身体を動かせない。ついでに言ってしまうと上半身は裸になっている。完全に無防備な体勢で睨む俺にこともなげに詩音が言った。


「以前、この連載で先輩が乳首で感じてる描写があったじゃないですか」

「……?…………事実ではないからな!!」


 一瞬なんのことか分からなかったが、3話のことだと理解して気色ばむ。まったく、相変わらずひどい言いがかりだ。そんな俺の反応にも特に動揺せずに詩音は続けた。


「分かってますよ。だからこそ、『実際の先輩は乳首で感じるのだろうか?』という疑問に行き当たりまして。一度思い付いたら頭から離れず、気になって夜しか眠れません」

「そんなどうでもいいことで…………って夜は寝てるんだな!眠れてるじゃないか!」

「はい。寝付きの悪い夜でも自己訓練法を使えばぐっすりですし」


 ああ言えばこう言う詩音にどっと疲れがでて、俺は深いため息をついた。そんな俺に詩音が、悪い笑顔を浮かべながらのしかかる。


「そういうことで、『それなら実際に先輩を催眠で無防備にして乳首をいじってしまおう』という“つもり”で今日はこの催眠をかけましたとさ——理解できましたか?」

「ああ、分かった……ではないな!!」


 ツッコむ俺に詩音は頬を膨らませる。


「なんですか?いきなり大声なんて出して。先輩の大好きなかわいい後輩に乳首を虐めてもらえるというのに、何か不満でもあるんですか?」

「自分で虐めるって言ってるじゃないか!」


 俺の反論に詩音はやれやれとばかりにため息をつく。いや、どこ目線だとそんなリアクションが出てくるんだ。


「わかりました。不満点があるなら出来るだけ具体的にあげてください。可能な限り先輩の要望に沿う形で乳首をいじらせてもらいます」

「まず乳首をいじるという時点で不満点しかないんだが……」

「じゃあ、交渉は決裂ですね。全く、最大限の譲歩をしてあげたのに棒に振るなんて、先輩は馬鹿ですね」


 そう言って詩音は、煽るような笑みを浮かべながら口を俺の耳元に寄せる。


「それとも……乳首じゃなくてあそこを虐めて欲しい、とか?」

「なっ!!」


 詩音の言葉と耳にかかった息に顔を真っ赤にする俺を見て、詩音はくすくすと笑う。


「だめですよ先輩。カクヨムではR15の表現までしかできないんですから。我慢してください」


 ため息の混ざったような艶っぽいささやきに、頭も身体も硬直する。詩音の笑い声が耳元から離れてゆき、詩音が馬乗りの体勢になる。


「では、先輩の意思は完全に無視して乳首いじめを始めますね?せっかくですんで、先輩はそのまま嫌そうな顔でもしててください。先輩が嫌がってる姿も、可愛くて好きですから。」

「この……サディスト……っ!」


 詩音は笑みを浮かべて楽器でも弾くかのような手つきで胸をまさぐる。乳輪よりも外側を、小指から人差し指まで順番に、大きく円を描くように。


「くっ」


 心拍数が上がるのを感じながらくすぐったさに耐える。


「どうした?乳首には触らないのか?」


 俺の言葉に詩音が笑う。


「あれれ、先輩?あんなにイヤイヤ言ってたのにほんとは触って欲しいんですか?」

「ちがっ!」

「焦らなくてもちゃんと触ってあげますから、まだ我慢してください」


 詩音はそう言いながら触り方を変える。今度は人差し指1本で、乳輪をなぞるように。


「男の人の乳首って、小さくてかわいいですね。先輩、もう少し硬くなってるんじゃないですか?」

「そんなことっ……!」


 俺の反論が途切れる。詩音の細い指が乳首を擦った。指先で何度も弾かれ、その度にビリビリとした快感が走り、呼吸が深くなる。それから、詩音の唇が胸に触れる。


「あっ」


 思わず小さく声が漏れる。熱く湿った感触。何も分からなくなる。頭が真っ白になる。


「先輩、もう、とろとろですね」


 そう言った詩音は両手で乳首を摘んだまま、半開きの俺の口にねじ込むようなキスをした。息が熱い。溶ける。


「先輩、もっと舌突き出してください」


 言われるがままに舌を突き出すと、詩音の唇が締め付けるように舌を捉える。乳首を嬲っていた詩音の右手が、脇腹を撫でて、パンツの中の熱いところに——




 パチン


 一通り俺の身体を貪り尽くした詩音が、満足したのか指パッチンで催眠を解いた。もう自由に動けるはずなのに、身体が疲れていて動かない。


「先輩、先輩、せんぱい」


 詩音は幸せそうにそう言いながらぎゅっと俺に抱きついて頬擦りしている。


「そんなに、何か嬉しいのか?」

「はい。だって、また一つ先輩のことを知れたんですから」

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