第90話 たくし上げ催眠

 パァン


「……はい?先輩、いまなんて言いました?耳を疑うような言葉が聞こえた気がするんですが」


 私は思い切り眉をしかめながら訊ねる。先輩は悪びれた風もなく繰り返した。


「スカートをたくし上げて中を見せて欲しい、って」


 聞き間違いではなかったことがはっきりして、私は大きなため息をついた。それから眉を吊り上げて先輩を睨む。


「先輩、いきなり何言ってるんですか。アマプラで『嫌な顔しながら〇パンツ見せてもらいたい』でも観たんですか」

「観てないからな!?」


 急き込むようにして言った先輩が、何かを思い出すようなそぶりで続ける。


「……アニメの影響っていうんなら、どちらかと言えば『ドラゴン〇ール』だなぁ」

「なぜここでそんな名作タイトルが……」


 私は戸惑いの言葉を漏らす。


「ともかく、何にせよ、たくし上げは男の夢なんだよ」


 勢いで押し切らんとばかりにそう言ってから、先輩は挑発するような笑みを浮かべる。


「それに……詩音の恥ずかしがる姿は可愛いしね」


 私は大きなため息を吐いて首を横に振った。


「はぁ……。まあいいですけど」

「いいの!?」

「別に、減るものでも無いですしね。パンツくらいでそんな必死になっちゃってまあ……」


 呆れながらそう言って、私は立ち上がる。それからプリーツのミニスカートの裾をキュッと握った。自分の言葉とは裏腹に、心拍数が上がっていくのを感じる。太ももからじわりと露わにするように、ゆっくりと引き上げる。そして、スカートの下が全て露わになった。


「どうですか?先輩。これが『男の夢』です」


 私は顔を背けて、ため息混じりに言った。横目でちらりと先輩の反応を確認する。先輩は、目を大きく開きながら、両手で口元を押さえて荒く息をしていた。鼻血を噴き出す寸前といった様子だ。それを見た私は、腰椎のあたりをゾクゾクしたものが走るのを感じて小さく口角を上げた。それから私は、片足を軸にターンして先輩に背中を向けると、スカートの端を左右に引っ張るようにして持ち上げた。


「後ろから、とか」

「ぶふぅっ!!」


 先輩が何かを噴き出す声がする。私は小さく笑いながら向き直る。


「もう、パンツなんてただの布じゃないですか。男の人ってほんと——」


 振り向き終わる前に、いつのまにか立ち上がっていた先輩に抱きしめられて言葉が途切れる。


「先輩?なんですか?もしかして、もう辛抱たまらなくなってしまったとか」

「それもある。あるけど——」


 先輩は、何かを隠した気配で耳元で囁いた。


「こうしておかないと、詩音に逃げられると思うから」


 パチン


 先輩の右手の指パッチンが私の右耳で弾けた。


「あ、あ、ああ——」


 鎖骨から生え際まで、順番に真っ赤になっていくのが分かる。催眠が解けて、思い出す。私がトランス状態の時に、先輩が言った『ひとつ目のお願い』を。


『じゃあ、パンツを脱いで渡してくれるかな?』

『…………はい』


 そう言って私は、緩慢な動作でスカートの中に手を入れて——


「わあああああーーー!!!」


 私は先輩の腕の中で暴れるけれど、先輩の腕に込められる力がその分だけ強くなる。


「ほら、真っ赤になった詩音をもっとよく見せてよ」

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!」

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