第111話 恥ずかしい催眠
パァン
「さて、先輩。どうですか?何か言ってください」
手を叩いた音で目を覚ました俺に、後輩の詩音が言った。その言葉に俺は、目を見開きながら両手で口を押さえた。
「どうしたんですか?ほーら、なんでもいいですから」
キョトンとした顔で首を傾げた後、詩音は少し呆れたような口調で俺に促した。
(いきなり何言ってるんだ……!?)
顔が燃えるのを感じながら、頭の中で叫ぶ。裸を見られるならまだしも、声を聞かせてほしいだなんて、恋人同士とはいえどそれはあまりに恥ずかしすぎる。そうしていると、詩音は頬を膨らませて俺ににじり寄り、ふとももの上に座る。
「むー!どうあっても声を聴かせてくれないつもりですか!」
俺は口を押さえたまま首を縦に激しく振る。
「仕方ないですね、強硬策です。——先輩、キスをしますから、手をどけてください」
詩音の言葉に、俺は手を下げて顔を背けた。恋人なのだから、キスまで拒んではいけない。と、詩音が俺の両頬を手で挟んで、強引に正面を向かせる。それから目をつぶって、顔を寄せる。唇が重なる。柔らかい。温かい。頭の中が真っ白になるような気持ち良さ。背中に回った詩音の手が優しく背中を撫でている。そして、口の中で舌先が触れ合う。絡み合う。詩音の唇が離れて、詩音が俺の肩に頭をもたれかからせる。ぎゅっと強く抱きしめる。
「あっ……」
俺の口から声が漏れる。詩音は小さく笑うと、俺の耳元で囁く。
「ちょっとだけ聞けちゃいました」
「っ〜〜!?」
心臓が飛び跳ねる。いや、わざと出した声じゃなくて思わず漏れてしまった声だから……と頭の中で弁解して、『思わず漏れた声の方が聞かれたら恥ずかしくないか?』という疑問が頭の中で浮かぶ。混乱して目を回していると、少しサディスティックな笑みを浮かべた詩音の右手が、へその下を撫でながらズボンの中の、さらにその中に滑り込んでくる。
「キスだけで声が漏れちゃうなら、ここだとどうでしょうか?」
「!?!?」
俺は身体を固める。詩音が続ける。
「気持ちいい声、たくさん聴かせてくださいね?もし本当にダメなら……『やめて』って言えばやめてあげますから」
その言葉に、俺は真っ赤になった。詩音の言葉はつまり、やめさせようと思ったら声を聞かれてしまうということだった。
——
「はぁ…はぁ……」
あれからどのくらい時間が経ったか分からないが、俺は声が混ざるような荒い息をしていた。ベッドに横たわって、目、鼻、口から何かしらの汁を垂れ流していた。ドロドロのぐしゃぐしゃだった。そんな俺を詩音が見下ろす。……あの後、耐えられなくなった俺は意を決して『やめて』と懇願したのだけれど、詩音はそこから何かスイッチが入ったかのように手の動きを加速させて、結果として俺は、いろんなものを撒き散らしながら喘ぎ声まじりに懇願するということになった。身体の芯まで恥ずかしさを感じる。頭が真っ白で戻らない。
パチン
耳元で指パッチンの音がして、俺は目を丸くした。それから枕に顔を押し付けて、俺は声にならない叫びをあげた。
「〜〜〜っ!!」
「もう。催眠は解いたんだから、私が声を聞いても恥ずかしくないですよね?」
そう言って詩音は俺にぎゅっと抱きついた。いや、そういうことじゃなくて、いくら『声を聞かれるのが恥ずかしくなる催眠』をかけられていたからといって、あんなに恥ずかしがっている姿を見られてしまったことが恥ずかしいのだ。
「それにしても——今日はいつもより喘いでいませんでしたか?いつもこれくらい声を出してくれていいですよ?」
俺はもう1段階顔を赤くした。
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