第110話 寝たふり催眠2
「おや。先輩が寝ていますね」
詩音がそう言うのを、横向きに寝転がって目を閉じたまま聞く。もちろん起きている。詩音がふふんと鼻を鳴らして、口角を上げる気配がする。
「他人の家で、そんなに無防備に寝ていていいんですかね〜」
詩音の足音が近づいてくる。それから衣擦れのような音の後、詩音が言った。
「先輩が寝てるから、こんなふうに目の前に私のおっぱいが剥き出しであっても何もできないんですよ?」
その言葉に、思わず眉が動いてしまいそうになるのを堪える。鼻の先に詩音の体温を感じる気がする。そうこうしていると、詩音は小さく笑って立ち上がった。それから、腰と脇腹の上にずっしりと重い感触が乗る。
「先輩が寝てるなら、いたずらし放題ですね」
そう言うと詩音は身体を俺の上に倒す。詩音の息が顔にかかる。心臓が跳ねるが、平然を装う。そして、頬に柔らかい感触がちゅっ、と触れた。
「えへへへへ〜。ほっぺにキスしちゃいました」
詩音が満足気に笑いながら言う。恥ずかしそうに身体をくねくねと揺らす振動が伝わってくる。
(っ〜〜〜!!)
俺は奥歯を噛み締めて必死に無表情を作る。そうしている間にも、詩音が唇で甘噛みするようにはむはむと頬をなぶる。それから、詩音が耳元に息を吹き込むようにして囁く。
「先輩、好きですよ。大好き」
脳がとろけるような甘い刺激。息が上がる。できるだけ静かに息をする。
「好き。大好き。先輩、大好き」
耳にキスをしながら、何度も、何度も、注ぎ込むように詩音が愛の言葉を囁く。水音と、敏感な耳を唇で責められる快感に肩が震えるのを抑えられない。
「……先輩」
せつなげな息を漏らしながら、詩音が俺を仰向けにする。それから身体を押し付けるように俺の上にのしかかりながら、詩音は俺の唇に唇を重ねた。だらんと唇を半開きにしたまま、俺は詩音の舌が這入ってくるのを受け入れる。頭が真っ白になりそうだ。それから詩音は、俺の肩をぎゅっと抱きしめると俺の耳元で懇願するように囁く。
「先輩……私、もう我慢できないです……」
心拍数がピークに達する。思わず小さく声が漏れる。
「だから……もう起きていいですよ?」
パチン
反対側の耳元で、指パッチンが弾ける音がした。
俺は思わず目を見開く。詩音は起き上がると、俺の腰の上に座って100点満点の煽り顔をした。
「幸せで、気持ちよくて、頬が緩んじゃうのを必死で我慢してる先輩、可愛かったですよ?全然隠せてなかったですけどね」
「っ〜〜〜!!!」
俺は両手で顔を覆って顔を背けた。この催眠、覚えがある。『寝たふり催眠』だ。そもそもなんで俺が詩音の家で寝ていることを不自然に思わなかったかなんて、催眠にかかっていた時の俺を責めてもどうしようもないだろう。
「ああっ、ほら、もっとちゃんと顔を見せてくださいよ。先輩の恥ずかしがってるお顔」
耳元で詩音がサディスティックに囁くのを聴きながら、俺はさっきまでの快楽を反芻していた。
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