第26話 〇〇しないと出られない催眠
「詩音、詩音?」
「なんですか?先輩」
「ちょっと、状況を説明してもらえないか?」
異常な状態だということはわかる。なんらかの催眠がかけられているということも。そこまでわかっていても、理解が追いつかなかった。
場所としてはいつもどおり後輩の部屋。いつもの後輩のベッド。なのだけれど、俺は何故か寝袋に入って寝かされている。
詩音はベッドに腰を下ろすと右手でその寝袋を撫でながら言った。
「これはいわゆる、『セックスしないと出られない寝袋』です」
「……そういう催眠だと?」
「まあ、平たく言ってしまえばそうですね。先輩は、えっちしないとこの寝袋からは出られません」
なるほど。『セックスしないと出られない部屋』の極小版みたいなものか。こんなネタいったいどこから仕込んでくるんだ。○ixivか?○ixivなのか?
「DLsiteです」
「心を読むなぁ!!」
帰ったら検索してみよう……じゃなかった。試しに寝袋から手を出そうとしてみるけれど、手が首から上に上がらない。足で寝袋をずり下ろそうとしても出来ない。というか、肩より下が寝袋から出ることに、強い強い心理的抵抗がある。詩音も、いつのまにかずいぶん暗示を構築するのがうまくなったものだ。
「って、あれ?寝袋の中に俺しかいなかったら出られなくない?」
「そうですね。ひとりえっちじゃダメですし。じゃあ、私は彩芽と遊んできますね」
そう言って詩音はベッドから立ち上がり、ドアに足を向ける。
「まてまてまて!俺はこのまま放置か!?」
その声を聞いて振り返った詩音の顔には、にんまりとした笑顔が浮かんでいた。ああ、そういうことか。この催眠の意図は『私にセックスするよう懇願してください』ということなのだろう。サディストめ。
「どうしたんですか先輩?もっと私と一緒にいたいんですか?」
「ああ、そうだな」
その返答に詩音は満足げな顔をしてベッドの横に腰を下ろす。
「べつに、私としては先輩がこのまま寝袋から出られなくても構わないんですけどね。抱き枕として勤務して貰えばいいわけですし」
「そんなこと言わないで、頼む。詩音が協力してくれないと出られないんだろ?」
それを聞いた詩音が、耳に息を吹き込むように囁く。
「先輩。先輩は、寝袋から出たいんですか?私とえっちしたいんですか?どっちですか?」
こ、これは、選択肢があるようで正解が決まっている質問だ。
「詩音と、エッチがしたいです」
恥ずかしいが絞り出すようにして答える。これが正解のはずだ。けれど、詩音はさらに問いかけた。
「えっちがしたいって、具体的にはどういうことですか?」
え?それは……。見上げると、詩音がにやにやと笑っている。ええい、くそ!
「詩音の(ピー)に(ピー)を(ピー)(ピーーー)!!!」
意を決して、カクヨムには乗せられないようなセリフを吐く。それを聞いた詩音は、抑えきれないように笑いを漏らした。
「ふふっ。先輩、顔真っ赤ですよ?先輩のえっち」
思わず頬を膨らませる。こいつ、完全に俺が恥ずかしがるのを楽しんでるな?
「仕方ありませんね。えっちな先輩のために、私がしてあげます。ええ、ここまで言われてしまっては仕方ないですから」
そう言ってうんうんとうなずく。情けない話だが、その言葉に俺の目は光ってしまっていたと思う。10秒ほどの膠着。
「先輩なにしてるんですか?」
「なにって、え?詩音が寝袋に入ってくるんじゃないの?」
俺がそう訊ねると、詩音はこれみよがしにため息をついた。
「はぁー。先輩、頭は早漏なんですね。先輩が先に服を脱いでくれないと、えっちできないじゃないですか。私が入ってからじゃ、狭くて脱げませんよ。」
「な、なるほど」
ひどく馬鹿にされたが、間違ってはいない。俺は大人しく、寝袋の中でもぞもぞと服を脱ぎ始めた。
「先輩」
「なに?」
「そうしていると、虫ケラさんみたいで可愛いですね」
「セリフが完全にラスボス系後輩になってる!!」
これは小悪魔というよりデビルである。
「ほら、脱いだぞ」
下着と服を寝袋から押し出す。詩音は、それを受け取ってベッドからどけたあと俺を見下ろしながら言った。
「先輩……もしかして、もう勃ってます?」
その言葉に、俺は本日何度目かの赤面をした。
「しょうがないだろ!これからするんだから勃ってないと困るだろ!!」
「あははっ!そんな怒らないでくださいよ。もう勃ってるんならつけられますね。自分でつけといてください」
そう言って、詩音がコンドームをひとつ寝袋に放り込む。
「くそっ!」
いや、避妊に協力するのは当然のことだしいつもどおりなんだけど、ここまで徹底的に馬鹿にされると腹が立つ。催眠が解けたら一発引っ叩いてやろうか。
「つけました?じゃあ、私も脱ぎますね」
そう言うと詩音は向こうを向いて、ブラウスの裾に手をかけた。白い背中とブラのホックが露わになる。下着も裸も見ているけれど、着替えをこうもまじまじと見つめるのは初めてだ。はらりとスカートが落ちる。お尻を突き出すようにしてパンツを下ろす。
「えっち」
生まれたままの姿で振り返った詩音が笑いながら言った。それからベッドの上に膝立ちになって言う。
「先輩、入れてください」
俺は寝袋の口を広げた。詩音のふとももが、お腹が、胸が目の前を通り過ぎ、寝袋の中に収まった。ひとり用の寝袋に2人で入ると寝袋はパンパンで、かつてないくらいの密着度だった。詩音は俺の体に腕を回してギュッと抱きついた。
「先輩……私、こうしてギュッてしてるの、好きです……」
切なげなその声を聞いただけで俺は、頭が真っ白になって、「好き」しか考えられなくなって
——無事に寝袋からの脱出に成功した。
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