第87話 ほっぺ催眠
パァン!
いつもの通り、手を叩く音で後輩の詩音がトランス状態から目を覚ます。
「今日はね、感度増強催眠だよ」
俺の言葉に、詩音は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げる。
「あれ?それは前にやりませんでしたっけ?」
俺は小さく笑って、両手の人差し指を立てた。詩音の視線が指先に引きつけられる。
「えい」
そんな掛け声と共に、詩音の頬を指で両側からぷにっと押さえつける。詩音が目を見開く。
「今日は、ほっぺだけに集中して、128倍にしてみました」
「せん、ぱいっ——」
詩音が熱い息を漏らす。頬というのは元々割と敏感な部位ではあるけれど、128倍の感度ともなると、それはもう立派な性感帯だ。
「あんっ!」
指先でなぞると、詩音が身体を震わせながら喘ぐ。上下にまっすぐ線を書いたり、ぐるぐると渦巻きを描いたり。痛くないように力加減に注意しながら、親指と人差し指でつまんで揉んでみたり。詩音は蕩けた表情で身悶えする。
「先輩——」
荒く息をしながら、詩音が俺の手首を掴む。そろそろ『いい加減にしろ』と怒られる頃合いか。まあ、両手を塞がれても——
詩音は俺の手首を掴んで、俺の右手のひらを頬に擦りつけた。
「!?!?」
「先輩の、手……。ごつごつして、男らしくて、気持ちいいです——」
うっとりと目を細めながら、詩音が手のひらに頬擦りする。とっさのことに固まっていると、詩音は俺の腕の中に滑り込むようにして抱きついてきた。それから、キスするように顔を寄せて頬擦りをする。
「先輩のほっぺ、柔らかいですね——」
こちらは感度を増強なんてしていないのに、重なった頬から幸せな快感が流れこんでくる。抱きしめられて、詩音の柔らかいところが当たってもいる。鼓動が速くなる。詩音の右手がワイシャツのボタンに伸びて、ぷちんと外す。露わになった胸に、詩音はしなだれかかるように顔を押し付ける。
「先輩——身体、熱いです——。先輩のドキドキが、伝わってくる……」
言いながら、詩音が残りのボタンを外す。感触を余すことなく味わおうとばかりに、詩音が頬でくまなく撫でる。胸板、肋骨、お腹、へそ。もどかしいような、ゾクゾクするような快感に俺はぎゅっと目をつぶる。詩音がおへその下に顔をうずめながら、ベルトのバックルに手をかけてガチャガチャと動かす。
(まずい!)
パチン
俺は慌てて指パッチンをして、詩音の催眠を解いた。詩音の動きが止まって、俺は安堵のため息を吐く。危ないところだった。荒く息をしながらそんなことを考えていると、詩音が確かめるような動きで、ゆっくりとお腹に頬擦りをした。思わず身体をビクッと揺らす。
「……ほっぺ、気持ちよくなくなっちゃいました」
そう呟くと詩音は立ち上がった。それから俺の両肩を掴んで床に押し倒す。
「詩音???」
「……許しませんよ、寸止めなんか」
ドスの効いた独り言のように詩音はそう言って、俺の隣に横になった。それから俺の右手を掴んで、頬に添えさせる。
「こんなに身体が熱くなってるのに、収まりなんて、つきませんから。催眠を解いた以上、ちゃんと、ほっぺ以外の『気持ちいいところ』で最後まで、してもらいますからね」
そう言って詩音は俺の身体にぎゅうっと抱きついて、目を細めながら右手のひらに頬擦りをした。
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