第12話 だいしゅき催眠

「せ、先輩……。一行目からすごいことになってるんですが、これはカクヨム的に大丈夫なんでしょうか……?」

「すごいことって、どんな?ちゃんと言葉にして言ってみてよ」


 サディスティックな響きを含んで先輩が促す。私はいろいろと恥ずかしくて口をへの字に曲げながら応じた。


「これ、いわゆる『だいしゅきホールド』ですよね」


 今、私達は私のベッドの上に座っていた。いや、正確に言うとベッドの上に座っていたのは先輩で、私はその先輩の上に座っていた。


『だいしゅきホールド』。まったく、このポーズにこんな馬鹿みたいな名前をつけたのはどこの誰なんだ。私は先輩と向かいあった状態で、両手両足を先輩の背中に回してがっしりとしがみついていた。お互いに素っ裸だ。どちらかといえば正常位がスタンダードだけれど、今は対面座位。隙間なく身体が触れ合っていて、先輩の感触が漏れなく伝わっている。先輩の胸筋、腹筋、肌、体温、鼓動。多分、先輩も同じだろう。その証拠に、私のお腹にはすごく硬くて熱いものが押し付けられていた。


「こんな事をさせて楽しいんですね。そんなに私と触れ合いたいんですか?先輩のへんたい」


 私は先輩の胸に頭を預けながら先輩をなじった。これくらいなら私にでも分かる。今日の催眠の内容は『だいしゅきホールドをし続ける』というものだ。手も、足も、私の意思とは全く無関係にしがみつき続けている。


「そう!それ!」


 先輩のリアクションの意味が分からず、私は首を傾げる。


「罵倒されて喜ぶとか、いよいよ真正の変態ですね」

「違うから!」


 先輩は鋭い声で否定した。それから一度息を吸って言った。


「詩音っていつもさ、『先輩の変態』とか、『先輩のエッチ』とか『しょうがないですね先輩は』とか言って、私はしぶしぶ付き合ってあげてますよ〜って空気だすけどさ……本当は詩音の方がスケベだろ!!」

「なっ!?!?なんてこと言うんですか!!そんな訳ないでしょう!スケベなのは先輩です!」

「いーや詩音の方だね。どちらかと言えば俺はスケベ詩音に振り回される側だね」


 私は頬を膨らませる。まぁいい、今のうちに好きに強がっていれば。すぐにとろとろのビクビクのしゅきしゅきにしてあげるんだから。私はもう、先輩がどんな動きが好きなのかは熟知している。


 そう考えながら腰をあげようとして気付く。


「あの、先輩。このままだと挿れられませんよ?」


 手足が強くしがみつきすぎていて、身体がほとんど動かせない。そう言うと先輩は我が意を得たりとばかりにうなずいた。


「その通り。……今日は、詩音が可愛くおねだりするまで挿れてあげません」

「な!?するわけないでしょう、おねだりなんか!」

「……そうかな?」


 そう言って先輩は、私の背中に手を這わせた。優しく、羽毛で撫でるような手つきで。


 ——


「先輩、ずるい……」


 熱く息を吐き出しながら私は言った。あれからどれだけ時間が経ったのだろう。先輩はずっと愛撫を続けていた。


「好きだよ、詩音。大好き。すごく可愛い」


 耳元で甘くそう囁きながら。まったく、いつもはそんなこと言ってくれないのにこんな時に限って。でも騙されちゃいけない。こんな時の「好き」は、「エッチしたい」とほとんど意味が変わらないんだから。でも、だとしても、こんなに「エッチしたい」と言われて、求められることを嬉しいと思う自分もいた。


 先輩はもう、この体勢で触れるところを全部触り尽くしていた。くすぐるように撫でられて、背中が、脇が、お尻が敏感になっていた。頭も撫でられた。ぎゅっと抱きしめられた。そのたびに、幸せが溢れそうになった。


 それに対して、私は手足が動かせない。せめてもの反撃にと先輩の身体にキスをしてみるけれど、むしろ唇が気持ちいいだけだった。先輩の『男の子』を感じた。頭がとろける。下腹部がきゅんとする。どうやら、勝敗は決まったようだった。


「先輩……えっち、させてください……。これでいいですか?」


 私は上目遣いで懇願した。先輩は笑って、私の頬に手を添えた。


「『私はとってもエッチな女の子です』って言ってごらん?」


 いじわるな要求に心臓が暴れる。目尻に涙が浮かぶ。


「わ、私は……とっても、エッチな女の子です……」


 先輩は満足げにうなずくと、私の耳元で指パッチンをした。催眠解除。とろとろになっていた頭が少し冷えた。手足が動かせる。私は右手で左手の手首を握った。


「……?詩音?もう催眠は解いたよ?」

「……さあ、次は先輩の番ですよ」


 先輩が首を傾げる。私は言った


「先輩が可愛くおねだりするまで、離してあげません」

「なっ!?」


 先輩が目を丸くする。


「先輩、私の身体気持ちよかったですか?もう、先輩爆発寸前になってるじゃないですか。早くおねだりしないと、手遅れになりますよ」


 そう言いながら私は、先輩に腰をゆっくりこすりつける。先輩がくしゃっと目をつむる。もう一押し。


「せんぱい、だいしゅき」


 先輩の目が丸くなる。ドピュ、ドピュルルル。ビクンビクン。私は笑みを漏らした。


「これは……私の勝ちですね。先輩のエッチ」


 私はそう言って、右手で先輩をつかんで


「待って!」

「だめです。もう待てません」


 直後は腰が引けてしまうくらい敏感というけれど、頑張って耐えてくださいね?先輩。

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