第123話 猛暑催眠
パァン
「……せっかくエアコンもあるのに、『扇風機だけで過ごしてた夏らしさを味わってみよう』だなんて……先輩、暑さで頭がやられましたか?」
ぐったりとローテーブルに突っ伏しながら私は言う。
「……自分で言っておいてだけど、この暑さはクるな……。水分補給はちゃんとしろよ」
そう言って先輩が、麦茶の入ったポットを私の方に押しやる。結露のついたそれから麦茶を注いで一気に飲み干す。まだ冷えているのが幸いだ。喉から胃までわずかの間冷たさが残るが、飲んだ麦茶はすぐに汗になって吹き出る。大きなため息を吐きながらベッドにもたれかかる。その時、ふと先輩の方を見てその視線の熱っぽさに気づいた。頬も、何か暑さだけではない理由で赤くなっているような。
「先輩〜?な〜んか、視線がエッチじゃないですか〜?」
床にうつ伏せに、腕立て伏せのような体勢になりながら、上目遣いで先輩に訊ねる。重力で胸の谷間も強調されているはずだ。私の問いかけに、先輩はあからさまにたじろいで目をそらしながらいう。
「いやその……目の前で恋人が下着姿でいたら、そういう目にもなるだろ」
少し口ごもりながらいう先輩が可愛くて、少しいたずら心が湧く。仰向けに倒れて両手を投げ出しながら先輩に言う。
「下着と言ったって、ブラとショーツというわけじゃないんですから、そんなに露出もしてないじゃないですか。先輩だって同じような格好ですし」
「そうは言っても、男と女じゃ意味合いがだいぶ違うだろ」
「そんなこと言われても、こんなに暑くちゃ服なんて着ていられませんよ」
そう言いながら、私は下着の裾を摘んでパタパタと風を中に送り込む。
「上はともかく下であおぐのは止めようか!!」
「え〜?だって、ナカが蒸れるんですもん」
私が悪びれずにそう言うと、先輩が気まずそうに目をそらす。私は小さく笑って、右手でパンツの裾を鼠蹊部が見えるくらい思い切り引っ張る。
「先輩」
「詩音?何——ぶぅっ!?」
向き直って吹き出した先輩に、私はお腹を抱えて笑う。
「あはははは!!先輩、どきっとしましたか?あはは、あ、は……」
笑いながらだんだん冷静になってきて、私は耳が熱くなるのを感じた。パンツの裾を下ろして、少し口ごもりながら私は先輩にいう。
「先輩、やっぱりクーラー付けませんか?なんか、暑さで頭が変になっていることを自覚しました」
「ああ、そうだな。このまま誘惑されたらまずそうだし」
そう言って、先輩は催眠を解く指パッチンをした。
パチン
「!?」
催眠が解けて、自分の現状を正しく理解した。“下着姿”というのは間違いないが、その下着というのが——白のタンクトップと、水色のストライプのトランクスだった。滝のような汗で濡れたタンクトップが透けて、乳首がはっきりと確認できるくらい透けている。なるほど、先輩がエッチな目で見るわけだ。
それから先輩の方を見ると、両腕で顔を守るような防御体勢を取っていた。10秒くらい黙って見つめていると、先輩は少し怪訝そうな顔をしながらリモコンに手を伸ばした。私はその手を手首あたりからパシっと掴む。
「——先輩。今クーラーを入れたら汗が乾いて風邪を引いてしまいそうなので先にお風呂で汗を流しましょう」
私の言葉に先輩が警戒心を滲ませる。
「風呂に入ったら余計に熱くならない?」
「大丈夫です。ぬるま湯くらいの温度にすればいいんですし、それに暑さ対策ならもう一個準備してありますから」
「詩音?その左手に持っているものは何?」
先輩が私が左手に持った小ビンを見咎めて、私に訊ねる。
「——そんなに警戒しなくても大丈夫ですから。
ただの、ハッカ油なので。」
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