第133話 抑制催眠
パァン
「ふぅ〜……」
俺が目を覚ますと、パジャマ姿で目の前に座った後輩の詩音が、一仕事終えたとばかりに額を拭っていた。
「……どんな催眠をかけたの?」
俺がベッドから上体を起こしながら訊ねると、詩音はその質問を待ってましたとばかりに嬉しそうに答えた。
「今日かけた催眠は、先輩の性欲が100分の1になる催眠です!」
その言葉に、俺は眉間に深々と皺を寄せながら口を三角形にする。
「なにそれ。まるで普段の俺が性欲魔人みたいじゃないか」
「そのものでしょう。先輩のヘンタイ」
何をいまさらとばかりに詩音に言われて、眉間の皺はさらに深くなる。そんな俺を他所に、詩音は楽しげな笑みを浮かべながらベッドに乗って俺に抱きついてきた。
「普段の先輩なら、私と同じベッドに入ったら襲わずにはいられないですからね。抑制催眠をかけることで、思う存分健全にイチャイチャできるというわけです」
「そんなことはない。そんなことはない、ぞ……?」
「自分でも語尾疑問系になってるじゃないですか」
途中から自分の自制心に自信が無くなった俺に、詩音は呆れたように言った。それから、気を取り直したように俺に抱きつく力を強くする。
「ぎゅーー!」
楽しげに言う詩音の様子に、自然に口元が緩むのを感じた。詩音の催眠はよくかかっているようだ。こんなに身体が触れ合っているのに、『衝動』が湧き上がるということがない。ドキドキも、ムラムラもしないで、ただ胸がぽかぽかするようなこの感覚は、何やら不思議な感じだった。品の無い例えになるけれど、強制的に賢者モードにされているような感覚というのが近いかもしれない。
「先輩……」
詩音はそう言って、俺の身体をよじ登るようにして唇同士を重ねた。普段よりずっと浅い、ついばむようなキス。
「……えへへ」
唇を離すと、詩音ははにかんだように笑って、もう一度キスをする。ただただ純粋に、可愛い、愛おしい、大切にしたいという気持ちが湧いてきて、俺は抱き返す力を強くした。それから詩音の背中を、首筋を、頭を撫でる。
「んんっ!先輩、気持ちいいです……もっと——」
詩音が俺の肩に頭を預けながら、甘えたような声でそう言った。俺はゆっくりと詩音をベッドに寝かせながら一緒に横になって、舌と舌を突き合わせるようなキスをした。キスをやめて顔を見合わせると、詩音はとろんととろけたような顔になっていた。
(……この催眠に穴があるとするなら、詩音の方にはかかってないことだな)
そう思いながら俺は、顔を埋めるようにして詩音の鎖骨にキスをした。ピクっと詩音が身体を震わせる。背中に回した手を背骨をなぞるように動かして、詩音の腰を撫でる。
「んっ!先輩、触り方がえっちぃです……」
詩音が少し恥ずかしそうにそう言いながら足を絡める。俺はもう一方の手で詩音を抱き寄せながら、舌を絡めるようなキスをする。それから腰に当てていた手を、詩音のパジャマの中に滑り込ませて——
——
「……えへへ。先輩のえっち」
生まれたままの姿で抱きついた詩音が、俺の胸に頬擦りしながら笑った。と、その時、何かに気づいたのか、詩音の動きが止まった。それから、少しギクシャクした動きで俺を見上げると訊ねた。
「あの……そういえば、性欲が100分の1になる催眠はどうしたんですか?」
「あー……」
俺は少し言い淀む。詩音は、少し焦ったように続けた。
「何かの拍子で解けたとかですよね?それか、最初からうまくかかってなかったとか」
その言葉に俺は数秒沈黙して、それから現状から導かれる1つの回答を答えた。
「……100分の1にしてこれ」
その言葉に、詩音は耳を真っ赤にしながら頭を抱えた。
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