第75話 手錠催眠
「ふへへへへ」
ベッドに横たわる俺の顔を覗き込んで、後輩の詩音がしまりのない笑みを浮かべる。
「……催眠を単なる手錠代わりに使うなんて、面白くなくないか?」
俺は呆れたような視線を詩音に送りながら言った。ベッドの上で俺は、両手首を頭の上で交差するような体勢になっていた。ちょうど手錠で縛られているかのように。
「そんなこと言ったって無駄ですよ。先輩の口車には乗りません。しっかり身体拘束の催眠をかけましたから、これを解かない限り先輩は抵抗できませんからね。それに——」
詩音の両手が鉤爪のような形になって、俺の両脇に近づいてくる。うわ、これはまずい。
「こちょこちょこちょこちょ」
「……くっ!はぁっ!あっ!」
腋の下をくすぐられて喘ぎ声が漏れる。俺は全身に力を込めて身体が動かないよう必死に堪える。ひとしきりくすぐった後、詩音は満足げに口角を上げて言った。
「私はこれで十分楽しいですからね」
それから詩音は俺の胸に手を添えて、ワイシャツのボタンに手をかけた。
「それじゃあ先輩、ぬぎぬぎしましょうか」
俺は目を逸らして、されるがままに服をはだけさせられる。捌かれる魚というのはこういう気持ちなんだろうか。ベルトのバックルが外され、ズボンが下ろされると、詩音はにんまりとした顔でこっちを見てきた。
「先輩、嫌そうなそぶりしてるくせにもう期待値マックスじゃないですか」
「……恋人じゃなかったら犯罪だからな?」
「それは怖い。良かったです、先輩の恋人で」
詩音はそう言うと、ベッドに背中を向けていそいそと服を脱ぎ始めた。こんな状況なのに鼓動が早くなる。いや、こんな状況だから、だろうか。
「お待たせしてすみません、先輩」
詩音はそう言うと、のしかかるように俺の上に覆い被さった。詩音の身体のあちこちの、柔らかさと、温かさと、湿度が一度に伝わってくる。それから詩音はゆっくりと目を閉じると、俺の唇に唇を重ねた。唾液で濡れた舌先が触れ合う。
「きもちいい……」
うっとりした声で詩音がつぶやく。それから、俺の耳元に口を寄せて囁いた。
「先輩も、気持ちいいですか?」
詩音の息が耳に触れて、ゾクゾクした感触が走る。身体がビクビクッと震える。その反応を見て、詩音が小さく笑う。
「なら、もっと気持ちよくなっちゃいますね?今日の私は肉食ですよ?がおー」
そう言って詩音は、もう一度唇を重ねる。さっきよりももっと深いキス。詩音の手がフェザータッチで俺の脇腹を撫でる。俺は左手で詩音の頭を撫でながら、右手に詩音の背中を這わせて柔らかいお尻を優しく撫でた。
「んっ!先輩、触りかたやらしいです……。ぞくぞくってしちゃう……」
甘い声でうっとりとそう言ったあと、詩音は目を見開いて飛び起きた。合わせて俺も身体を起こして、対面座位のような体勢になる。
「って先輩!?なんで動けてるんですか!?催眠は!?」
詩音はびっくりしてじたばたしているけど、俺の腕が背中に回っていて逃げられない。俺は口元に笑みを浮かべながら言った。
「じゃあ、逆に聞こう。……『いつから自分が催眠をかけていると錯覚していた?』」
パチン
指パッチンをトリガーに催眠が解ける。
「なん……だと……」
詩音の反応に、俺は笑いで小さく身体を揺らす。
「ノリノリで攻める楽しそうな詩音も、不意打ちで反撃されてよわよわになっちゃう詩音も、どっちも可愛くてどっちも大好きだよ」
顔を真っ赤にして俯く詩音の耳元で囁く。
「ね?催眠はこんな風に使った方がずっと面白いでしょ?」
「……先輩のいじわる」
「それで……今日の私は、なんだっけ?」
「っ〜〜〜!!」
詩音は両脚で俺の腰にぎゅっとしがみつきながら背中を思い切りつねった。
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