第108話 撮影催眠

 パァン


「じゃあ、よろしく頼むね」


 俺がそう言うと、後輩の詩音はため息を吐きながら立ち上がって言った。


「仕方ないですね。まあ、毎日会えるわけでもないですし、オカズ用のエッチな写真を撮らせてあげるのも彼女としてのつとめですからね」


 そんなつとめはない。ともあれ、俺はスマホのカメラを構えて詩音に呼びかける。


「じゃあ、最初はそのままで撮るね」


 そう言って俺は、スマホのシャッターを押す。


「先輩」


 詩音に呼びかけられて、俺はスマホから顔をのぞかせる。


「ん?どうかした?エッチじゃない写真まで撮る必要があるのかって?」

「いえ、それ自体には賛成で、むしろ良く分かってるなと思うくらいなんですが……この写真は、あんまり使わないでくださいね?ただでさえエッチな先輩が、制服姿にまで発情するようになってしまったら収拾がつきませんから」

「言われなくてもな!?!?」


 俺が言うと詩音はくすくす笑って、制服のミニスカートに手を伸ばした。


「オカズに使える写真としては……まずはたくし上げなんてどうでしょうか」


 そう言って詩音は指先でスカートの裾をつまむと、ゆっくりと持ち上げる。眩いくらい白い太ももが徐々に露わになり、ついに下着が全て剥き出しになった。俺は思わず目を見開いて見つめる。その反応をめざとく見咎めた詩音が、呆れるような、でも少し自慢げなような流し目で俺に言う。


「先輩のエッチ」

「くっ!」


 この状況で反論のしようがあるわけがない。構わず俺はシャッターを切る。


「そういえば先輩。今日は普通の下着ですけど、大丈夫ですか?オカズ用の写真を撮るって知ってたら、もっとエッチな下着を着てきたんですが」


 言われてみると、たしかに今日の下着はオーソドックスな形の、パステルカラーの水色のパンツだ。ハイレグとか紐とかTバックとかTフロントとかではない。


「いや、これでいい。これがいい」

「……やっぱり先輩は変態です」

「強いていうなら下着の形よりも、表情をもっと恥じらってる感じにできないかな?」


 俺がそう言うと、詩音はつーんと顔を背けて言った。


「できませんよ。いまさら先輩にパンツを見られたくらいで、恥ずかしくなんてありませんから。ほんとうに仕方のない人だなぁ、って思うだけです」


 そう言いながら、詩音の脚がわずかに内股になって、もじりと動く。その仕草に心臓がぎゅっと跳ねて、俺はまたシャッターを切る。


「次は、もう少し露出を増やしてみましょうか」


 そう言って詩音は、ワイシャツを第四ボタンまで外した。下と同じ、パステルカラーの水色のブラと、胸の谷間が露わになる。シャッターを切る。詩音がワイシャツとスカートを脱ぎ捨てて、下着姿になる。


「先輩、何かとってほしいポーズとかありますか?」


 膝に両手をついて前屈みになりながら、詩音が訊ねる。俺は協調された谷間を写真に収めながら頭を捻って言った。


「そうだな……両手を頭の上で組んだポーズとか?」

「こうですか?」

「そうそう。もう少し腰を曲げる感じで——」

 それからだんだんと露出が増える。上を外して、ベッドにうつ伏せでギリギリ乳首が隠れる程度に身体を起こした体勢を横から撮る。全部脱いで、大事なところだけ手で隠す。それから——



「先輩、さすがにこれはちょっと——」


 ベッドの上で詩音が言う。仰向けに横になって、脚は膝を曲げてM字に広げられ、両腕も曲げてぴったりと身体の横につけられている。完全に無防備な、お腹を見せる犬のような体勢だ。


「恥ずかしい?」


 俺が訊ねると、詩音は赤くなりながら顔を背けて言った。


「そうではなくて……。私も、ちょっと興奮してきちゃいます」

「っ〜〜〜〜!!」


 たまらず俺はシャッターを切った。


「今日はもうこれくらいでいいかな」


 撮影に一区切りついて、俺は詩音がいるベッドから可能な限り離れながら言った。夢中で撮影していたら、いつのまにか今日撮った写真だけで3桁も撮っていた。詩音は身体を起こして、体育座りになってから俺に言う。


「……せっかくこんなに撮らせてあげたんですから、他の女の人をおかずにしないでくださいね?」


 何かいい感じの話で終わりそうな勢いになっているけれど、そういうわけにもいかない。


「うん、今日はほんとうにありがとう」


 パチン


 右手の指パッチンで催眠を解くと、両手で頭を庇うような体勢を取った。5秒ほど待っても何も起こらず、俺は腕の間から詩音の様子をうかがった。最悪飛び掛かってくるかと思っていたのだけれど。


「……先輩が……私の写真で……」


 詩音は真っ赤になって膝に顔をうずめながら呟いていた。無意識のうちに俺はシャッターを切っていた。


「先輩!?」

「ご、ごめん。詩音の恥ずかしがってる顔が可愛くてつい——」


 弁解する俺に、詩音は切なげな、懇願するような顔で言った。


「いま、写真を撮っちゃ、ダメです。今撮られたら——」


 その言葉を聞きながら、俺の指はシャッターボタンに引き寄せられていた。マシンガンのような連射音が響く。詩音が背中をゆみなりに反る。


「うっくうぅぅぅっ!!!!」


 ビク、ビクビク、プシュ


 いくらか痙攣した後、詩音はベッドに倒れ込んで、荒く息をしながら言った。


「先輩の……いじわる……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る