第107話 剃毛催眠

 パァン


「さあ、先輩。下を脱いで、ベッドに横になってください」


 詩音が右手にハサミを持ちながら、俺に言った。


「なんか、悪いな、わざわざ。こういうの、他人にやってもらったことなくて」


 詩音の言う通りにズボンとパンツを脱いだ俺は、少し申し訳なさを感じながらベッドに横になった。ローテーブルには、『そのため』の道具がいくつも並べられている。


「いえいえ、これも先輩の恋人としてのつとめですから」


 詩音がにっこりと笑い、俺の言葉を打ち消す。


「ありがとう。頼んだ」

「はい。では、始めたいんですけど、その前に——」


 詩音が言葉を切り、俺はうっと息を飲む。


「先輩、どうしてもう『元気』になってるんですか?まだ触ってもいないのに。今日はえっちなことなんてしませんよ?もしかして——」


 獲物をなぶるように言う詩音の目には、サディスティックな光が宿っていた。


「私に見られるだけで、興奮しちゃったんですか?」

「……そうだよ」


 顔を背けながらぶっきらぼうに俺は肯定した。ここで意地を張っても碌なことにはならないことは分かっている。俺の返答に詩音は小さく笑って、耳元に口を寄せて囁いた。


「先輩のエッチ。露出魔」


 耳に吐息がかかり、ぞくぞくするのを目をぎゅっと閉じて耐えていると、詩音は身体を起こして『それ』の方に目をやった。


「危ないですから、本当は鎮めてくれた方がいいんですけど……先輩のその顔を見る限り、無理そうですね。くれぐれも、ビクン、ビクンとか動かさないでくださいね?」


 真っ赤になりながら俺はうなずく。言い方はアレだけれど、詩音の言うことももっともだ。詩音は俺に頷き返して言った。


「では、“剃毛”はじめていきますね」


 そう言って詩音は、左手の小指と薬指で俺のそれをどけながら、残りの指で陰毛を摘んで伸ばした。それから右手に持ったハサミで、しゅりん、と陰毛を切る。


「……これ、カクヨムでやって大丈夫か?」


 金属音に若干萎縮するのを感じながら、俺は詩音に訊ねた。


「どうでしょう?カテゴリー的には美容行為だと思うので、たぶん大丈夫だと思いますが……念のためところどころぼかしておきましょう」


 詩音はそう言いながら、ちゃきんちゃきんと切り進める。この工程はある程度短くするのが目的で、形を気にしているわけではないからそこまで気を使わなくていい。


「これくらいでいいですかね。次は、剃っていきますよ」


 そう言って詩音は、右手にシェービングフォームをたっぷりと取って陰毛の上に塗った。思わず身体がビクッと跳ねてしまう。それを見た詩音が咎めるような視線をこちらに向ける。


「先輩?今はいいですけど、剃っている時には動かないでくださいよ?」

「わ、分かってるよ」


 俺の言葉に詩音はため息を吐くと、ボディ用のシェーバーを手に取った。


「では先輩、順剃りの後、逆剃りという流れで剃っていきますね。……気をつけますが、痛かったらすぐに言ってくださいね」

「あ、ああ」


 詩音はうなずくと、俺の身体にシェーバーを滑らせ始めた。泡の下で、切れ味のいい刃がプチプチと毛を切る感触が連続して、少しこそばゆい。シェーバーから伝わる力から、詩音が本当に慎重に剃っていることが分かる。肌荒れしやすい逆剃りも無事に終えて、詩音は液体の入った瓶を手にとった。


「最後にアフターシェーブローションを塗っておしまいです」


 そう言って詩音は、右手に出したそれを剃り終わった箇所に塗る。ひんやりとした感触。


「うわっ。本当につるつるだ」


 少しはしゃいだような詩音の声に、心臓が跳ねる。


「はい、これで終わりです。おつかれさまでした、先輩」

「ああ、ありが——」


 パチン。催眠を解く指パッチン。


「!?」


 俺は両手で局部を隠しながら、壁に背中をぶつけるまで飛び退いた。手の中を覗き込むと、中学生以来初めて剥き出しになった下腹部がそこにあった。


「何やってるんですか!?」

「もう、先輩をパイパンにしただけじゃないですか。なんて顔するんですか、なんて——」


 不服そうに頬を膨らませていた詩音の顔に、サディスティックな笑みが浮かぶ。


「その顔が見たくて、わざわざこんなことまでしたんですけどね?先輩のその顔、すっごく恥ずかしくて心細い顔。とってもエッチで、そそりますよ」

「この、サディスト!」


 俺の言葉に、詩音はわざとらしく悲しそうな顔を作りながら躙り寄る。密着するまで近づいた詩音は、お腹を滑らせて俺の手の下に自分の手を滑り込ませた。


「いいじゃないですか。先輩にだって悪いことばかりじゃないんですし。——今日はエッチなことはしない、って言いましたけど、つるつるだとどれくらい違うのか、ためしてみませんか?」


 敏感なところをまさぐられながら、耳から脳を溶かされて、俺は抵抗することすらできなかった。

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